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大学デビューと毒入りオムライス

朝、目が覚めた瞬間、全身が悲鳴を上げた。


「……っ、いった……! なにこれ、筋肉痛早すぎ……二日くらいしてから来るんじゃなかったのに。若さだけじゃどうにもならないわね」


昨日、悪魔姫に身体を酷使されたツケが一気に来たらしい。腕は棒のように重く、足を少し動かすだけで悲鳴が出る。布団から転がり落ち、床に沈む私をクロエが覗き込んだ。


「明奈様、無理は禁物ですよ。昨日送ってもらってずっと今まで爆睡してたんですから」


「……でも今日から大学だし。昨日レンタローに送ってもらったし、ちゃんと顔出さないと」


クロエは小さく息をつき、


「留守をお守りいたします」と頭を下げた。


情けないけれど、私は筋肉痛に耐えつつ、春の陽射しに包まれたキャンパスへ向かう。


歩くだけで足が棒のように重く、階段の上り下りで何度も「うっ」と呻く。


周囲の学生は軽やかに歩いているのに、私はまるで低速再生の映像の中を歩いている気分だ。


講堂ではオリエンテーションが始まり、新しい学生証を受け取った。


クラス分けも発表され、知っている顔を見つけて思わず笑みがこぼれる。


しかし相手は私の赤い髪と瞳を見て、そっと目を逸らした。やっぱり浮いている。


年代の差ではなく、色が違うだけで孤独を感じる。


オリエンテーションの内容は基本的な大学生活の説明で、退屈な部分もあったけれど、私は小さなメモを取りながら心の準備をしていた。


この世界での学問も生活も、裏での非日常も、どちらも大事にしていきたいからだ。


昼休み、学食は新入生で大混雑していた。揚げ物やカレーの香りに誘われ、行列ができる。目移りするメニューを前に、私は思わずため息をついた。


「こんなに並ぶなんて……やっぱり学食は地獄ね」


肩に手を置かれて振り向くとレンタローが立っていた。昨日よりずっと自然な表情だ。


「レンタロー! 奢るから一緒に食べよ」


「お前に奢られる筋合いはないんだが」


「いいの。昨日は助けてもらったし、借りは返す」


二人席を確保して向かい合う。注文はまだだが、とりあえず腰を下ろし、会話を始める。


「あんたなんでこの世界に転生してきたのよ」


「詳しくは夜話そうと思う。家行っていいか?」


「いいけど抱きついて来たら殺すわよ。今は恋人同士じゃないんだから」


「相変わらずつれないな、明奈は」


私たちは表の学生生活と裏の非日常世界を交互に思い浮かべながら、自然と顔を見合わせて話す。昔はこうしてよく会話をしたものだ。


その頃、厨房の隅で明奈の登場に目を細める者がいた。


火を操る同胞リラベルが倒された知らせを受け、復讐心に燃える毒を得意とする魔族だ。


普段は厨房に潜入して食中毒を起こそうとしていたが、目の前にチャンスが訪れた。


致死量をはるかに超える猛毒をオムライスに仕込み、作り笑顔を貼り付けながら皿を静かに運ぶ。


「サービスでございます!」


「え、頼んでないけど…ラッキー」


湯気と卵の香りに抗えず、私はスプーンを運ぶ。


「んんっ、うまっ! 当たりだわ!」


レンタローは呆れ顔でスプーンを突き合わせる。


「そんなに美味かったっけ?」と言いたげだが、私は夢中で食べ進める。


魔族は青ざめ、震える手で自分の皿を味見する。


「……っ!」


体が硬直し、黒煙を吐きながら崩れ落ちる。周囲の学生も厨房の従業員も気づかない。


残ったのは黒ずんだ染みと砕けた核だけ。復讐は、誰にも知られずに消えた。


レンタローがふと呟く。


「お前、やっぱり人間離れしてるな」


「失礼ね。ただの胃袋だってば」


二人で軽くスプーンをぶつけ合う。学食のざわめきの中、私たちだけは普通の大学生の昼休みを楽しんでいた。


食事の後、レンタローと夜会う約束をして別れ、キャンパスを歩くと友人たちの姿が見える。懐かしい笑顔や会話の中、私は少し心が和む。


「ああ、当時は気づかなかったけど、これが青春なのね」


知らぬ間に、厨房の影では一つの復讐が終わっていた。


表の世界では平和に昼食を楽しむ学生たち、裏では魔族の影が消え、明奈の無敵っぷりだけが静かに示される。


誰も知らない、ほんの小さな秘密――でもそれが、この世界での生活の深みを増していた。


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