悪魔姫の剣技と消火の死神
「てか1999年の7月に魔王が現れるとか言ってたのに、今まだ4月よ。もう魔王いるパターンあるの?」
家に帰って作戦会議。私が知っている世界とは違うので整理していた。
「もしかしたらですが札幌にはもう一兆円がいる可能性はあります」
「依頼をこなしていったら、そのうち魔王や四天王の討伐依頼も出るんじゃない?」
「可能性はあります。コツコツ依頼をこなすべきかと思います」
「放火魔って普通、夜に出るよね。明日から大学始まるのに…」
「まずは依頼をこなさないと、生活費どころか借金二兆円も払えませんよ」
「仕方ないわね。夜食のために買い出しに行くか」
夕方過ぎ、地下鉄近くのスーパーへ向かう。一応クロエは「火を消す係」として同行させた。朝、あそこで包丁で刺されたことを思い出しながら歩いていると、路地裏で新聞紙に火をつけている男を見つけた。
「あれ、放火魔かもしれません…」
クロエが心配そうに声をかける。私は大声で叫ぶ。
「何やってんのよ!」
舌打ちをした男は逃げ出す。
「明奈様、10万円が逃げます!」
「人を金額で呼ぶのはやめなさい! クロエは火を消して。私は追う!」
「わかりました!」
足が軽く、体力も尽きない。これは簡単に捕まえられそうだ。
追っているうちに、いつの間にか不気味に静まり返った空間に入った。物音も声も届かない。
「貴様、何者だ?」
さっきの男が立っていた。
「魔法少女よ!」
出鱈目に答えると、
「少女はおかしくないか?」
「うっさいわね、あんたこそ放火なんか何考えてるのよ」
「我々魔族は、人間の負の感情を糧としている」
「魔族って何よ…まるで魔王がいるみたいじゃん」
「魔王様は間もなく復活される。そのために、我々は魔王様に相応しい世界を作り変えておく必要がある」
「そんなこと、させないわ!」
答えるや否や、火の玉が顔面に飛んできて、パカーンとヒット。
「いった! 顔は命なのよ! 火傷したらどうするの?」
「今の炎球を受けて無傷とは…人間なら即死のはずだ」
「知らないわよ、そんなもん!」
その瞬間、私の中で別の自分――悪魔姫の意識が覚醒した。
『入学式とやらで座り続けて身体がなまった。剣で戦いたいのじゃが?』
「そんなスキルあるの?」
『出せるぞ、闇の剣を。されど、主に剣の技術はあるか?』
「ない!」
『ならば我が戦う。久々に動き、ストレスを解き放つのだ』
「わかった。でも褒賞は欲しいわ!」
『察するに魔族の核を持てば良かろう』
赤い瞳が金色に染まり、右手に黒炎の剣が召喚される。
『いざ参らん、闇の剣!』
黒炎の剣が宙を裂き、空間が歪む。男は後退するが、すぐに炎を放つ。
「くっ…速度が…!」
『逃さぬ、愚か者!』
剣を振るうと衝撃波が炸裂。男の炎は剣に吸い込まれ、消えていく。
『まだ終わらぬ…覚悟せよ!』
空中で剣を振り下ろすと、衝撃波が男を弾き飛ばす。
「や、やめろ…!」
息絶え絶えに倒れた男。黒炎は周囲を焼かずとも、圧力と威圧は確実に伝わる。
『これにて終焉…終焉の刃、汝の罪を裁らん!』
剣を高く掲げ、翼のように広がる黒炎が衝撃波を巻き起こす。男は叫ぶ間もなく吹き飛び、炎の渦の中で姿を消す。地面にはくすぶる核だけが残る。
『ふう…これにて終わり…後は任せようぞ』
核を手に取り、意識は私に戻る。赤い瞳に戻り、戦闘は終わった。
⸻
空間が元に戻ると、いつもの騒がしさが聞こえる。
「明奈様! 火は消しましたが、放火魔は?」
クロエが息を切らしながら駆け寄る。核を見せて答えた。
「まぁ、私というより悪魔姫がやったんだけどね」
モグドナルドに行き、店長に核を見せる。
「早いですね。報奨金の10万円です。次の依頼は?」
店長は必死に笑顔を作るが、私は明日大学があるため断った。
「とりあえず今夜はご馳走かな。こっちに来て初日だし、さすがに疲れたわ」
「明奈様、祝勝会は居酒屋でやるそうですが」
「成人してても今は19歳設定だから、ラーメン屋で十分よ」
クロエが悲しそうに見つめる中、
「で、いるのはわかってるわ。レンタロー」
「久しぶりだな、明奈。お互い若返ったようでなりよりだ」
「ええっ、あんたもまさかの転生!?」
私は驚くと、身体が痛いし重い。意識がとびそうになる。
まさかさっきの戦いの後遺症?
「明奈、大丈夫か?」
意識がふらつく。剣を振った後の余韻で、体が鉛のように重い。まぁあんだけ動いたらあたりまえか。
「…ちょっと、座りたい…」
クロエがそっと支えてくれる。
「仕方ないな」
気づけばレンタローの背中におんぶされていた。
「…やれやれ、姫様扱いか」
と思いながらも、今日はもう頑張った自分を許すことにした。




