異世界化した日本でアルバイト偵察
モグドナルド。私がかつて大学生時代にバイトしていた店。私は店外の様子を探った。
「アルバイト募集の張り紙はないわね。てか、そもそも見たこともないんだけど」
「前回はどうして応募したんです?」とクロエが聞いてくる。
「私、それまで働いたことがなくて、どうやったら働けるかも知らなかったのよ。そしたら裕美子に誘われて、ここに応募したの」
「今回もその裕美子さんに誘われるのを待つと?」
「多分だけど、もう歴史が改変されてる可能性があるわ。地下鉄にいた奴とか、信長に義元なんて過去にいなかったし。そもそも私、昔は髪赤くなかったし」
「なるほど」
「とりあえず今日は偵察ね。安いセット頼んで、店内を観察するわ」
「わかりました」
店内に入ると、元気な声が響いた。
「いらっしゃいませ!」
「魔王!?」クロエが店長らしき男を見て大鎌に手をかけた。
「……処刑します。一兆円のために」
「違うわよ。見た目マジで怖いけど、ただの店長。元暴力団だったみたいだけど、根はいい人なの。理解するまで一年かかったけどね」
「そうなのですか。魔王の覇気を感じましたのでつい」
「だからその鎌しまいなさいって。銃刀法違反で捕まるわよ」
「ふむ。では裁判所の連中の魂を刈り取ればよいのですね」
「違うわ!!」
「これは私の身体の一部みたいなものです。ですが、面倒は嫌なので不可視にしておきます」
カウンターへ行くと、店長が笑顔でメニュー表を見せてきた。
「本日のメニューはこちらになります」
「……ハンバーガーがない!? ってか、本日のおすすめが放火魔討伐ってなに?」
「最近近所を騒がせている放火魔を捕まえてほしいんです。報奨金は十万円」
「危険そうなのに安すぎでしょ」
「今デフレなんで」
「そういう問題!? てか、犬猫探しとか不倫現場のおさえとか薬草採取とか……ファーストフードじゃないじゃない」
「お客様、勘違いかもしれませんが、当店は冒険者向けの依頼紹介所です。放火魔討伐単品に不満なら、セットにすることもできます」
「セット?」
「近所のチャリ泥棒討伐も一緒にどうですか」
「いや、いいわ。帰って相談する。ところでアルバイト募集ってしてる?」
「受付嬢は募集しています。ただお客様は討伐向きかと。私も現役なら、依頼をこなした方が稼げましたね」
「なるほど。ありがとうございます」
店を出ようとしたとき、壁に貼られた一枚の写真が目に入った。
「こいつ……昼間捕まえた人だ」
火縄銃を持っていた男。警察に渡したあの犯人の顔写真に「捕縛済み」と大きくハンコが押されている。私はカウンターに戻って問いただした。
「すみません。この人、昼間私が警察に突き出したんですけど」
「おお、難易度Fとはいえ見事ですね。えーと、書類によると織田信長さんと今川義元さんの手柄になっております」
「なんでよ! あいつら怯えてただけでしょ!」
「ですが担当した警官によると、もう1人女性がいたがいなくなった。と」
「ぐぬぬ。帰ることしか考えてなかった」
「次回から事情聴取までいることをおすすめしますよ」
「そうするわ」
私はクロエと店の隅で相談した。
「どうします?」
「十万円あれば、しばらくは困らないんだけど」
「明奈様の能力と私の力があれば楽勝です」
「私、平和主義なのよ。戦いたくないの」
そう話していると、見覚えのある青年が入ってきた。
「放火魔っすか。わかりました」
それだけ言って店長とやり取りし、出ていく。
「店長、あの人は!?」
「ああ、レンタローです。よく依頼をこなしています。多分“神の加護”を受けてるんでしょう」
「神の加護?」
「先週の魔王出現と同時期に目覚めた能力者たちをそう呼んでいます」
神の加護? あいつが?
「放火魔の依頼って、受けた人限定?」
「いいえ。早い者勝ちか、パーティーで山分けです」
「わかりました!」
私は飛び出した。
「明奈様、どうしたんです?」
「あの人、レンタローっていうの。学生時代に付き合ってた」
「へぇ、明奈様にもそんな人が」
「就職してから喧嘩ばっかで別れちゃったけど。……でももう会っちゃった」
「ご自宅にいるのでは?」
「まだ出会ってないのに家に行ったらストーカーでしょ! とにかく放火魔討伐するわ。神の加護だか知らないけど、危ない目には合わせられない!」
「へぇ」
「何よ。本当は家賃と生活費と、ついでに魔王の居場所を吐かせるためなんだから!」
「……ツンデレ、確認しました。今後の記録に残しておきます」
「やめなさい!」




