入学式で天下布武
北海道厚生年金会館。
今日は大学の入学式――なのだが、入り口前からサークル勧誘の嵐だ。チラシを配る声、ビラの紙音、校門前とは思えない熱気。
(そういや前の人生では、どこのサークルにも入らなかったせいで友達を作り損ねたのよね。今回は……ちょっとくらい考えた方がいいのかも?)
そんなことをぼんやり考えながら会館の中に入り、案内表の通りに自分の席を見つけて腰を下ろす。
……やばい。やっぱり視線を感じる。
原因は分かっている。肩まで伸ばしたこの真っ赤な髪。悪魔姫仕様を隠すつもりが、逆に悪目立ちしている気がする。
「もしかして……明奈?」
後ろから声をかけられ、振り返ると、そこには黒髪ショートの可愛らしい女子が立っていた。
「裕美子!? 懐かしい! 20年ぶり? 元気だった?」
「懐かしいって……高校卒業してまだ一か月でしょ」
「あ、そうだったね」
「それにしても、ずいぶん思い切ったね。髪、真っ赤だなんて。てか目も赤いじゃない。カラコンってすごいね」
高校時代からの数少ない友達、裕美子。大学四年間でまともに付き合ったのも彼女くらいだ。
「社会人になったらできないからね。今のうちよ」
「いいなぁ。私も染めたいんだけど、バイト先探さないといけないから悩んでるんだよね」
その一言に、はっとした。
そうだ、私はこの赤髪でバイトなんてできるんだろうか? 前の人生では親の仕送りなんてなくて、アルバイトで学費も生活費もまかなっていた。
しかも今回は――死神クロエつき。食費やランニングコストが跳ね上がること間違いなし。
(……どう考えても就職難易度、地獄モードじゃない?)
そんなことを考えたら司会者が現れ、入学式が始まった。
理事長の挨拶から来賓の挨拶。
何を言っているか聞いているわけもなく、眠たくなっていた。
そして新入生代表の挨拶。
壇上に立った新入生代表を見て、私は目を疑った。
ちょんまげ。陣羽織。脇差しまで差している。
……え、コスプレ? しかもよりによって大河ドラマの将軍様みたいなやつ。
会場がざわめく中、彼は胸を張り、堂々と名乗りを上げた。
「余こそは織田信長! 本能寺の変にて討たれたと思うたかもしれぬが、転生し、この学び舎に参上した!」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、あちこちからクスクスと笑いが漏れた。
(……な、なに言ってんのこの人)
「余の志は変わらぬ! 再び天下布武を掲げ、この平成の世に覇を唱えん!」
壇上から会場を見下ろす信長(自称)。
その目つきだけは妙に鋭くて、冗談には見えなかった。
「えー……以上で、新入生代表・織田信長くんからのご挨拶でした」
司会が淡々と締めてしまい、式は強引に進行する。
私は口を開けたまま、固まっていた。
(大学デビューってレベルじゃない……。こんな濃いキャラ、実在するんだ……)
後ろの裕美子が小声で「やべーの来たね」と肩を震わせて笑っている。
私には笑えなかった。
なぜか、その信長の言葉に――妙な迫力があったからだ。
司会者が慌てて場を収め、空気を切り替える。
「待てぃ!」
新入生が突然声をあげ壇上に上がったのは、丸っこい体格に煌びやかな直垂。
信長と並ぶと、妙に時代劇感が増す。
「我、駿河の太守、今川義元と申す!」
会場再びざわめき。
「ここでもまたお主か、信長! 桶狭間の借り、今こそ返してくれん!」
壇上で、信長と義元(直垂)がにらみ合う。
(ちょ、待って……何この茶番? 入学式だよね?)
「今川義元って言った?」
「そうだ!」
「桶狭間から20年ぶり? 懐かしいのぅ!」
「2日もたっておらんわ!」
そんな言い争いをし始め、どっちが大学を支配するかで揉め出したが、堪忍袋がきれた大学側に取り押さえられ、追い出された。
「……以上で新入生代表と……えー……えーっと、今川くんからの挨拶を終わります!」
司会者が半泣きで進行をぶった切った。
私は口をぽかんと開けたまま、
(濃い。キャラが濃すぎる……! けど、あの会話、まさか2人とも転生者なわけ?)
と、疑念を抱いていた。
裕美子は肩を震わせ、必死で笑いをこらえていた。
入学式が終わり、裕美子に一緒に帰ろうという話をされて快諾した。
信号待ちをしていると、
「織田家家臣募集!」
「今川家家臣募集!」
2人が一生懸命下げて道ゆく人たちに頭を下げていたが誰も彼らを見ようとしていなかった。
帰ったらクロエに聞いてみよう。
そう思っていたら、
「織田に今川だと!!」
1人の大きな鞄を持った中年男性が2人の前に立っていた。
「おお。家臣になりたいのか! 良いぞ良いぞ!」
「うぬぼれるな、このうつけめ。余の家臣になりたいのだ!」
また揉め出す2人。
「俺のご先祖さまはお前らの戦に巻き込まれた村の生き残りだ! お前らの不毛な戦のせいで村は滅びたんだ!」
「ほら義元。怒っているぞ。謝れ」
「貴公が謝れ!」
すると中年男性は鞄から長い鉄砲みたいのを取り出した。
「火縄銃じゃと!」
青ざめる2人。
「そうだ。この時が来ると信じて代々伝わるこれを常日頃持っていたんだ! だが3分待ってくれ。火薬詰めるから」
「待てるかぁ!」
つい私は入学式のパンフレットで中年男性の頭を叩いてしまったのであった。




