メーシープ牧場へGO 4
牧場主さんの言葉に俺は息を飲んだ。
子ピンクメーシープは崖の一番下まで落ちているわけではなく、5メートル程のところにある少しスペースがある岩肌にいるから何とかできそうなのに……。
「目の前に見えてるのに……何とかなりませんか」
ここまで来て、助けられないなんて……。
「わしだって、助けたいさ。ただ、この崖は登れずの崖と言ってな、岩がもろく滑りやすいんだ。下手に助けに行ってそいつまで登れなくなったら、どう責任をとる?」
助けたい。
それは牧場主さんの本当の気持ちだ。
現に牧場主さんの握り締めた拳がぶるぶる震えているのが見える。
今まで手塩をかけて可愛がってきたメーシープを見殺しになどしたくないに決まっている。
「エイダン、降りて登れるか」
いつの間にか背後にいるエイダンに確認する。
「……できるが……難しい」
珍しく、エイダンが言い淀む。エイダンの運動能力なら、下まで降りて戻ってくることくらいできそうなのにどうして……。
エイダンは子ピンクメーシープを見つめて指差す。
「……岩肌が崩れてきている。子ピンクが落ちる可能性がある」
エイダンが見ていたのは、岩肌の強度のようだった。確かに子ピンクメーシープが飛び跳ねるたびにどんどん岩が崩れていっている。
エイダンの体重でそのまま子ピンクが崖下まで落ちる可能性もあるのか……。
「それに、子ピンクは怖がりだから、見知らぬ人が助けに来ても逃げる可能性が高い。……そのはずみで崖から落ちるか、捕まえた時に暴れて落ちるかもしれん」
牧場主さんの言葉は重く、俺は打つ手を失った。
「……キュウ」
スカイもすっかりうなだれて、子ピンクメーシープを心配そうに見つめるだけである。
「ぺぺ!」
ぺぺがポケットの中から飛び出してきた。そして俺を見てこくりと頷く。
「ぺぺぺぺ――――!!」
ぺぺは子ピンクメーシープに向かって思い切り叫んだ。
「メメ――!」
子ピンクもそれに応えるように叫ぶ。
「ぺぺーー!」
「メ――――!」
先日のみーちゃんの時にも感じたが、どうやらスカイやぺぺは動物とコンタクトがとれるようだ。現に先程まで飛び跳ねていたメーシープが今はじっとしている。
「ぺぺ!」
ぺぺはもう一度俺を見て頷くと、次の瞬間崖下に飛び降りていた。
「ぺぺ!!」
俺は慌てて崖下をのぞき込む。
ぺぺは無事に子ピンクメーシープの所に降り立っていた。無事な様子にほっと胸を撫で下ろしたが、これからどうする気だ……?
「ぺぺ」
よいしょという風に、ぺぺは子ピンクメーシープを持ち上げると、ジャンプして一気に俺達がいる崖上まで上がってきた。
俺は今、何を見たんだ?
脳が今見た光景を上手く処理できていない。それは牧場主さんも同じようで、呆然と子ピンクメーシープを見つめている。
そう。ぺぺは小さすぎて、抱っこしている子ピンクメーシープしか見えないのだ。
「ぺぺ」
ぺぺは子ピンクをゆっくり降ろすと俺の方へ走って来た。ぺぺ、お前ってやつは……。
「何て、すごいやつなんだ!!」
俺はぺぺを抱きしめるとほっぺをスリスリした。呪縛がとけた牧場主さんも子ピンクにかけより、声を掛けている。
「……良かった、本当に良かった」
そして牧場主さんは半泣きになりながら、子ピンクの背中を撫でていた。
「キュキュウ!」
スカイは子ピンクに近寄ると、桃を差し出した。子ピンクが目の前に差し出された桃を食べると背中の傷がみるみるふさがった。
「……こりゃあ、すごい。何から何まで本当にありがとう!!」
牧場主さんは俺に向かって深々頭を下げた。
「いや、桃は辺境伯家で栽培して、冒険者ギルドで売ってる既製品ですから、気になさらずに」
俺は言葉ではそう言いながら、スカイも抱きしめるとほっぺをスリスリした。本当に家の子たちは賢いし可愛い!!
「そしたら、みんなが心配しとるから、急いで帰ろう。レッド、ブルー頼むぞ」
「「メー!!」」
子ピンクメーシープが見つかり、レッドもブルーも嬉しそうである。気合い十分な様子を見せる。
そしてまた、俺はブルーによじ登ると、帰途についた。(子ピンクは牧場主さんが抱えてレッドに乗った)
行き以上のスピードで意識が飛びかけたことをここに記しておく。




