メーシープ牧場へGO 3
異変に気付いたギルド長が牧場主さんを呼びに行く。その間もメーシープは落ち着かない様子で鳴いていた。
「メー」
「メーメー」
「メー」
慌てて牧場主さんがやって来た。すると、メーシープが牧場主さんをとり囲む。
「……この鳴き声は、何か心配がある時の声だ」
「心配ですか?」
「ああ、仲間が怪我をしたりいなくなったりした時の鳴き声だ」
牧場主さんは厳しい瞳でメーシープを見つめる。
「お前たち何があったんだ」
すると、その中でピンクのメーシープが牧場主さんの前に進みでてひときわ大きく鳴き出した。
「メーメーメーメー」
「お前はピンクか、側に子ピンクがおらん。もしかして子ピンクがおらんくなったんか?」
「「「「「「メーメーメー」」」」」」
まるでそうだという風に、メーシープが一斉に鳴き出す。
……すごい。
牧場主さんはメーシープをテイムしているわけでもないのに、意思疎通ができている。信頼関係がきちんと築かれているからこそ、メーシープも牧場主さんに訴えかけるんだろう。
でも、子ピンクはどこに行ったんだろう。
「小さいから柵から出たのかもしれんな……早く探してやらんと魔物にやられてしまうかもしれん。近くの森は少し入ると崖にもなっているしな」
牧場主さんは心配そうに呟く。
「どうやって探すんですか?」
「大体近くにいることが多いんで、みんなに声をかけて近所を見て回るんだ……こうしちゃおれん、悪いが今日の見学はここまでにさせてもらう」
そう言って人を呼びに行きかけた牧場主さんを呼び止める。
「あの!!……もしかしたら、何とかなるかもしれません」
そうだ。今こそ動物探偵ぺぺの本領発揮である。ぺぺは呼ばれる前にポケットから出て来て、既に準備万端である。
「ぺぺ――――!!」
ぺぺの大きな鳴き声に、たくさんの鳥たちが集まって来る。そして、大きな声にビックリしたメーシープが、右往左往している。
しまった。メーシープは大きな声が苦手だったんだ。俺はやらかしに焦っていた。
「静まれ!!」
牧場主さんの一声でメーシープは動きが止まる。
本当に、何でもきちんと対応できる関係性は見頃の一言である。
ぺぺは鳥たちと話をすると、俺の方へやって来た。一羽の赤い鳥も一緒である。
「ぺぺ」
「チチチ」
これは恐らく……
「ぺぺ、赤い鳥が子ピンクのことを知ってるのか?」
「ぺぺ」
ぺぺはそうだと頷く。
「一緒にいるってことは、案内してくれるのかな?」
「ぺぺ」
ぺぺはもう一度頷いた。
「牧場主さん、この赤い鳥が子ピンクのことを知っていて案内してくれるそうです」
「そうか!!レッド!!ブルー!!」
牧場主さんが呼ぶと、赤いメーシープと青いメーシープがやって来た。他のメーシープに比べてかなり体格が大きい。
「こいつは家のナンバーワンとナンバーツーだ。こいつらは体格がいいからそのまま上に乗ることができる。悪いがお前も一緒に行ってくれるか?」
「……俺、乗馬もしたことないんですが……」
メーシープに俺は果たして乗れるのであろうか?
正直不安である。
「馬とはどっちみち違う。メーシープは毛にしがみついていたら良い。頼む!!」
俺が言い出したことだし、ぺぺはいないといけないし……。
俺は覚悟を決めた。
「では、やってみます。ギルド長、少しだけ抜けても大丈夫ですか?」
念のため、護衛対象から離れる許可を取らないとな。
「おう、どっちみち今は部屋で待機になると思うから行って来い」
「ありがとうございます」
後は実際に乗るだけだ。
牧場主さんがレッドに乗るのを見る。毛の部分を持ち替えて登っているようだ。
先にスカイとぺぺ(ポケットの中)に登ってもらう。登るかと思ったスカイはピョンと飛び跳ねると、上手にブルーの上に着地した。
次はいよいよ俺の番である。登りやすいようにメーシープが足を曲げてくれていたので、一気に登りきる。毛の部分が意外としっかりしており、何とか上までよじ登れた。
「……高い」
メーシープの上は地上で見た時よりもかなり高く感じた。とにかく落ちないようにしっかり毛をつかむ。スカイは、俺の前ではしゃいでいる。
「キュキュ♪」
俺が乗れたのを確認すると、牧場主さんから声が掛かった。
「大丈夫か?」
「……はい行けます。エイダンはどうする?」
「……走る」
走ってついて来れるのか?……いや、ついて来そうだな。エイダンはとにかく自分で何とかするだろう。
「ぺぺ頼む」
「ぺぺ!」
ぺぺは赤い鳥に声をかけると赤い鳥が飛び上がった。
「レッド、ブルー、赤い鳥を追いかけてくれ!」
次ね瞬間2匹が猛スピードで走り出した。
俺は前を見る余裕もなく、ただただ必死にメーシープにつかまる。謎にスカイの楽しそうな声だけが聞こえてきた。
「キュキュ♪キュキュ♪」
怖い 怖い 怖い
落ちる 落ちる 落ちる
とにかく振り落とされないように必死しがみついていたら、メーシープの速度が緩み完全に止まった。
「……着いたのか?」
俺は恐る恐る顔を上げて周りを確認すると、牧場主さんとスカイは、すでに地上へ降りていた。
慌ててお尻から滑るように地上に降りる。少し膝は震えていたが、気合いで牧場主さんたちの方へ歩み寄った。
「いましたか?」
「……ああ、だが……」
牧場主さんの視線の先を見ると、切り立った崖の下に小さいピンクのメーシープが見えた。背中が赤く滲んでいるので怪我をしているようである。ただ、飛び跳ねて登ろうとしているので、足腰は元気そうだった。岩肌が滑るのか少しも上には登れていないが。
「……残念だが、あきらめよう」
牧場主さんの思いもよらぬ声が森に響いた。




