辺境伯の息子
冒険者ギルドに戻ると姉とフェレナ、ハイドとケインも帰って来た。いつものようにギルドの食堂に行く。
「スバルは今日は何をしたんだ?」
今日の俺は一味違う。
「猫探しだ。……何と報酬は金貨1枚!!」
「「金貨1枚?」」
ハイドとケインが驚きの声をあげる。
そう。今日の俺は小金持ちなのである。
「今日は俺が払うから、好きなだけ食べてくれ」と言いたいが、食い尽くし系の女子二人がいるからな……。とりあえず様子をみよう。
「猫に金貨って太っ腹な依頼主ね。定員さんこれもお願いします」
姉が料理の注文をしながら聞いてくる。
「うん、見た目はちょっと変わった人だったけど、良い人だったよ。お店をやっていて可愛い雑貨も売ってたから、良かったら姉さんとフェレナも行ってみたら」
「雑貨屋の店主なの?」
「そう。アダムス商会って言うお店をやってるんだ」
「それにしても、よく猫ちゃん見つかりましたね……あ、定員さんこれと同じ料理追加してください」
フェレナもおかわりしながら言う。
姉さんとフェレナは花より団子だよな。
「実はここだけの話、ぺぺのおかげなんだ」
俺は小声で伝える。
そのぺぺは疲れたのか晩御飯に誘ってもポケットの中から出て来なかった。
「ぺぺのおかげってどういうことですか?」
ケインが小声できいてくる。
「まだ、よく分からないけど、ぺぺは鳥たちとコンタクトがとれるようなんだ」
「つまり今回の猫も、ぺぺが頼んで鳥に見つけてもらったってことですか?」
「おそらく。どんなふうに頼んだのかは分からないけど」
また、ぺぺの力は検証が必要だな。
「あと、街でスバルのことが噂になってたぞ」
ハイドは好物の唐揚げばかり食べている。
「……スバルあんたまた何かやったの?」
姉よ。またとは何だ。またとは。俺はそんなにやらかしてないぞ。……多分。
「いや、今回は良い噂だったぜ、なぁ」
「はい。宿に戻って来たお客さんが、さすが辺境伯の息子だって話てました。詳しくは分かりませんでしたが」
噂になってるのか……ヤバいかな。
「で、何したの?」
姉が詰め寄る。
「実は……」
俺は馬車と荷車の事故について話した。
「いまだにそんな馬鹿な貴族がいるのね」
「小物に限ってそういうことをしますよね」
姉とフェレナもなかなか辛辣である。
「……母様に怒られるかな」
勝手に辺境伯の息子を名乗ってしまった。しかも結構な啖呵も切って。
今さら後悔の念が湧いてくる。
「大丈夫よ。名前は使うべき場所で使わないとね」
「はい。私もそう思います」
「僕もそう思うよ」
貴族組3人は俺の行動に理解を示してくれた。
「俺は平民助けてくれてありがとうって思ったぞ」
「キュウ」
エイダンも食べながらこくりと頷く。
「……ありがとう」
取り敢えず帰って母に報告だな。というわけでそろそろご馳走様で良いですか?
その後もうしばらく食べ、お会計になった。何とか金貨1枚で収まった。どんだけ食べてるんだか。
家に帰ると母が待っていた。やはり、今日のことが母の耳にも入っているようだった。
「スバル、来なさい」
「……はい」
母の部屋に入ると、俺は思いっきり頭を下げた。
「ごめんなさい」
先手必勝である。
「頭を上げなさい。なぜ謝ったの?」
おや、風向きが怪しい。
「いや、僕が辺境伯の名前を使ったから……」
「あなたは謝らなければならないことをしたの?」
「それは……してないつもりです。でも勝手に名前使ったから……」
「我が領の民が虐げられていたのですよ。そこで名前を使わずにいつ使うのですか」
母は俺の目を見つめて言った。
「私たち貴族があるのは平民に支えられてこそです。そこを履き違えて名前だけ使い民を虐げるなら、許しませんが、今回のように民を助けるためならきちんと名乗りなさい。そこでどんなトラブルに巻き込まれようと、私たちが後始末はします」
「はい」
母の言葉には重みがある。
「ワリン子爵家ごときが辺境伯家に楯突くとは許せません。目にもの見せてやります」
母が怒りで燃えている。
ワリン子爵家ヤバいな。
怒った母は姉よりもヤバいからな。
「スバル、名前は使うべきところで使いなさい。あなたも辺境伯家の次男なんですからね。分かりましたか?」
「はい」
それについての話は終わり、スカイの中級の桃とぺぺの能力についての話をすると、その後自室に戻りベッドに横になるとバタンキューで寝た。
◇ ◇ ◇ ◇
「スバルもやっぱり家の子だな」
「話を聞いて私も誇らしくなりました」
「子供の成長は早いな」
「ええ、それにスカイとぺぺの成長もですわ」
「……中級の桃に、鳥とコンタクトがとれる能力か……間諜にもってこいの能力だな」
「スバルが望みませんわ」
「分かっている」
「しかし……スバルはやはり面白いな。誰に似たんだろう」
「もしかしたら、名付け親かもしれませんよ」
「確かにな……いや、言われてみるとそっくりか?」
「冗談です」
「分かってる。見た目は全然違うが、中身がな。人を惹きつける能力もそっくりだぞ」
「あの方も天然のたらしでいらっしゃったから」
「ああ、何にしろもうすぐ帰る。あと少し頼んだよ。メルリシア」
「ええ、あなたも気を付けて」




