初めてのゲット5(後始末)
家の前では両親と使用人が揃って俺達の帰りを待ってくれていた。
「この娘はフェレナ、行儀見習いで家で働きたいって」
「お初にお目に掛かります。フェレナ=アルマイヤ=セルフィンと申します。神殿でご縁があり、ステファニー様に声をかけていただきました。急なことですが、どうかよろしくお願いします」
フェレナは必死に頭を下げる。
両親はフェレナを見つめたまま微動だにしない。
ピリッとした空気が場に流れる
ぐー
俺の腹が鳴る。
一気に場の空気が緩んだ。
空気を読め、空気を。
くぅー恥ずかしい。
「……頭を、上げなさい。とりあえず、お腹もへっているだろう。話は食事をしながら聞こう」
「……と言うことがあったんだ」
食堂で今日あった出来事を簡単に説明する
「セルフィン男爵家とは領地も隣同士、有事の際も共に戦うことも多い。人となりは悪い奴ではないのだが……武力馬鹿で、融通が利かないところもあるからな。ただ、庶子がいるのは知らなかった」
「庶子だからと言って、差別するようなことはあってはなりません。ですが、フェレナさんが、よくしてくださる姉君を大切に思う気持ちもよく分かります」
「でしょ!しかもスキルは戦闘系上位種!家の戦力アップも期待できるし、私のライバルにもなりそうだし!」
姉よ本当にそればかりだな。
だが、待てよ。
これで俺への訓練の執着が無くなるかも……。
ここは俺も後押ししないと。
「俺と誕生日が同じで、しかも今日も会ったってことは、偶然ではなく必然。父様、ご英断を」
父よ、頼む!姉の練習相手を是非!
「お前たちの気持ちはよく分かった。だが、勝手に家へ来させるわけにはいかない。とりあえず、男爵宛に手紙で本人が家にいることと、行儀見習いとして預りたいことを伝えるか」
「私も、奥様とは親しくさせていただいているから、手紙で預りたい旨をお伝えしてみます」
「……そうだな。しかし、あの男爵が浮気か。奥さんとは美女と野獣の名で有名な夫婦なのだが」
「夫婦のことは夫婦でしか分かりませんわ。ですが、いつお会いしても、男爵様が奥様にぞっこんの様子でしたものね」
「あぁ。家と同じで、奥さんの尻に敷かれている風だったのに……奥さんが強すぎたせいで浮気したのか……分からぬものだな」
ピキッ
母の方からなぜか音がした。
みんなが母の方を向く。
父よ。やはりあなたは俺の父ですね。
余計な一声が多い……。
「あなた、家と同じでとはどういうことですか」
母は笑顔である。
なのになぜか寒気がする
「いや、家と同じで夫婦の仲が良いと言いたかっただけで……」
「奥さんが強すぎると浮気するのですか?」
「いやいや、俺は浮気なんかしない。そんな甲斐性もないことを知ってるだろう?」
父は冷や汗をかきながら必死で説明する。
「少し私とお話する必要がありそうですね」
「いや、俺は浮気は絶対しない。浮気、絶対、反対」
父よ諦めろ。こうなった母は無敵である。
「フェレナさん、とりあえず男爵家から返事が来るまで、家にステファニーの友人として滞在なさい」
「ありがとうございます」
「あなた、食事は終わりです。行きますわよ」
「いや、デザートがまだ……」
「行きますわよ」
有無を言わさず、母が父を連れて食堂から去っていった。
「フェレナ良かったわね」
「はい!」
嵐は去った。
俺たちはデザートをゆっくり食べながら、話を続ける。
「フェレナ、まだ聞いてなかったけど、男爵と奥様はフェレナにどう接していたんだ?」
父と母の話を聞いて気になったから聞いてみた。
「先程ご両親が、おっしゃっていたように、ご夫婦はいつも仲良さそうなご様子でした。お子様も3人いらっしゃいます。……ですが、母が亡くなり、行き場をなくした私を7歳で引き取ってからは、よく私のことで喧嘩をしていらっしゃいました。その姿を見ているせいか、長兄と次兄にはよくいじめられました。男爵様本人からはたまにですが、気遣う言葉をかけていただきました。奥様からはあまり声をかけていただけませんでしたが、私が不自由なく過ごせるように使用人に声をかけていただいていました。そして兄にいじめられたら、姉が必ずと言っていいほど間に入って私を助けて下さいました。ですので、家族とは姉以外思えませんでしたが、居心地は悪くありませんでした」
「7歳まではどこにいたんだ?」
「母が別の屋敷でメイドをしていたので、そこで暮らしていました」
「何で、男爵が父親と分かったの?」
姉がデザートを口いっぱいに頬張りながら言う。
姉よそういうところだ。女子力が無いのは。
はっ。これも……。姉のほうを見ると変わりがない。
セーフ。
「死期を悟った母が、男爵様宛に手紙を書いていたのです」
「何て書いてあったの?」
「それが厳重に封がしてあり、男爵様以外は読まないようにと。私も読んだことがないのです」
「そうなの。じゃあ何が書いてあったかは分からないのね」
「もしかして、男爵様の子じゃない可能性は?」
これは、本当は男爵様の子じゃなかったのに……というお約束か!
「私もそれを考えてみたのですが、私の顔が亡くなった男爵様のお母様にそっくりだそうで……」
「男爵様にご兄弟は?」
「いらっしゃらないそうです」
はい!男爵様の子で間違いありませんでした!




