ペナルティ
次の日いつものように、冒険者ギルドに行くと、人だかりができていた。何と中心にいるのは、ハイドとケインである。
「良かったら、俺のチームに来ないか」
「うちだったら初心者でも丁寧に支えてやるぞ」
「なによ、うちは女子ばかりだから安心よ」
3日前のワイバーンの件で、有名になったため、青田買いの人たちに囲まれたようである。
「……いや、俺は、もうチーム入ってるんで」
「……仲間が来るので通してください」
何とか輪から抜け出そうとするが、次から次に人だかりができている。
「あそこに行くのは無理ね?」
「可哀想ですが、しばらく様子をみてから行きましょうか」
姉とフェレナは即座に2人を切り捨てることに決める。
すまんハイド、ケイン。俺もあの輪に入るのは嫌かも……。
「お前たち、何やってる!初心者がおびえてるじゃないか。早く散れ!次に話しかけるときは、俺を通して話をしろ!」
「ハヤテさんが、言うんじゃしょうがないな」
「ハヤテさんには世話になってるからな」
「ハヤテさんカッコいい♡」
鶴の一声で皆2人から離れて行く。最後のは関係ないけど。
3日前に共闘したチームフェンリルのハヤテさんが、2人を助けるために間に入ってくれたらしい。やはり、シルバーランクは一味違う。というか、ハヤテさんだからかもしれないが。
「「ありがとございます!」」
「いや、何かあったらここのギルドなら顔がきくから、遠慮なく言うといい」
爽やかな笑顔で言う。
本気でカッコいい。
ハイドとケインも、憧れの表情でハヤテさんを見ている。
「ハイド、ケイン、大変だったわね」
人だかりがなくなったので俺たちも合流する。
「……スバル、見てたんなら助けてくれよ」
恨めしい顔でハイドが言う。
ごめん。行くと巻き込まれる未来しか見えなかった。
「悪い。それにしてもハヤテさんありがとうございました」
これでおそらく俺達も絡まれる可能性が減った。
「いや、俺こそ、報奨金を全額もらってしまって、お礼を言いたかったんだ。本当にありがとう。かなり黒字になったんだが、本当に全額もらって良かったのか?」
「「「「「はい!」」」」」
全員即答で答える。今回のように毎回冒険者に絡まれなくなるだけでも、ストレスはかなり減る。その意図はなかったけど、結果的にはかなりありがたい。
「……ありがとう。何かあればまた、遠慮なく声をかけてくれ」
ハヤテさんは、マントを翻し仲間の方へ去っていった。
「本当にカッコいいな」
「はい」
ハイドとケインは最後までハヤテさんの姿を目で追っていた。
「それよりジェーンさんは?」
人だかりを抜けるのに時間がかかったせいで、約束の時間を過ぎているが、姿が見えない。依頼書の掲示板の人ごみの中にも見当たらない。俺達よりも目立つ人だからいたらすぐに気付きそうだが、まだ来てないのかな。
「チームセブンの皆様、ギルド長がお呼びですので2階へどうぞ」
俺達を見つけたオリビアさんから、声がかかる。受付業務が忙しいらしく、今回は俺達だけで、ギルド長の部屋へ行った。
「よく来たな。先日は本当に助かった。ありがとう」
入るなり、ギルド長が深々頭を下げてきた。
「いや、俺達はできることをやっただけなんで……」
姉、フェレナ、エイダンは別として、俺達はぶっちゃけできることしかしてない。
「そうか……じゃあ、これからのことについての相談だ。実はガイドのジェーンはペナルティで、しばらくガイドができなくなった」
「「「「「ペナルティ?」」」」」
……もしかして俺達のせい?
「ジェーンさんがペナルティを受けたのって、私たちのせいですか」
姉が代表して聞く。
「いや、ジェーン本人のせいだ。本人もそれを認めているからペナルティを受けている」
「……でも、俺達が勝手なことしなかったら、ペナルティになってなかったんじゃ……」
母にも叱られたしな。
「状況は全部ジェーンから聞いているが、スバル達が勝手な行動したからではなく、アイアンランクのステファニー、フェレナ、エイダンにワイバーン討伐を頼む時点でアウトだ」
「でも、結果的に倒せたし……」
ハイドが呟く。
「じゃあ、お前たちガイドは要らないんだな。結果的に何とかなるなら、ガイドは必要ない。何のためにガイドをつけてるのか分からん」
厳しい言葉で言われてしまう。確かにギルド長が言うことが正しい。
「……でも、私たちのせいでペナルティには違いありませんから、申し訳なくて……」
フェレナが視線を落として言う。
「それも間違ってる。ジェーンはゴールドランクだ。場に応じた正しい判断ができなかった本人の責任だ。それをお前たちが自分のせいでなんで言ってみろ。ジェーンのプライドを傷つけるぞ」
その言葉に皆が押し黙った。
「ま、ペナルティと言っても、今回のワイバーンの報酬無しと、護衛依頼を引き受けてもらっただけだから、軽い方だ。お前たちが言うように結果は出してるからな」
ペナルティの内容を聞いて少し安心する。それなら、またガイドを頼めるかもしれない。
「俺達のガイドはどうなりますか?」
ガイドはやっぱりジェーンさんが良い。
「お前たちが良ければジェーンのままでいこうと思う」
その言葉に皆の表情が緩む。
「ジェーンも希望してるしな。ただ、1週間ほど護衛依頼に出ているから、その間だけ俺がガイドを引き受ける」
「「「「「ええっ――――!!」」」」」




