お宅訪問 3
ハイドの家に戻ると、バーベキューの準備がすっかり整っていた。
「おかえりちゃい」
「キュキュ!」
妹ちゃんと、スカイが走って出迎えてくれる。スカイの耳には花冠がのせられ大変可愛らしい。
「楽しかったか?」
「キュキュ!」
スカイも笑顔なので、楽しかったらしい。良かった。
「おかえりなさい、あら、みんなずぶ濡れじゃない!早く着替えてらっしゃい!」
「えー乾くから良いよ」
「何言ってんの。万が一風邪でもひいたら大変だから着替えてらっしゃい」
「いや、俺たち着替えないし……」
「ハイド、服貸したげなさい」
「……でも」
「早く行く!!!」
「「「はい!」」」
ハイドのお母さんの勢いに負け、俺たちはハイドの服を借り着替えた。
……ハイドはなぜか同じ服しか持っておらず、皆ペアルックになった。ちなみにエイダンはいつの間にか乾いた自分の服に着替えていた。
表に出ると、バーベキューの良い匂いが漂ってきた。ハイドのお父さんが家の前に置いておいた魚を持ってくる。
「ハイド、たくさん獲ったな。これも一緒に焼いて良いか?」
「おう、よろしく!」
ハイドのお母さんも俺たちの脱いだ服をカゴに入れて持って来る。
「みんなすっきりしたわね。着ていた服は洗って干しとくからね」
「「ありがとうございます」」
「何やっとんじゃ、早く食べんと焦げるぞ。早く来い」
村長さんが率先して焼いてくれているらしい。
「よし、食うぞ!」
「「おー――!!」」
バーベキューの肉は臭みもなく、柔らかくてめちゃめちゃ美味しかった。味付けは塩一択だがそれも全然気にならないくらい、箸がすすむ。
醤油や味噌などは今世では、まだ見たことがない。今世も前世と似ているところが多いから、どこかに既にあるか、誰かが開発してくれるのではないかと思う。(残念ながら俺は大豆から作られることしかしらない)
「おかわりならいくらでもあるからな、遠慮なく食べるんだぞ」
「「はい!」」
エイダンも無言で食べている。どんどん食べている。……美味しいらしい。
「そういや、スカイは……」
スカイはすっかり妹ちゃんと仲良くなって、一緒に食べている。横にはぺぺも(いつの間にかでてきていた)並んで食べており、幼児3人組は見ていて本当にほっこりする。
「スバルくん」
いつの間にか隣にハイドのお兄さんが立っていた。
「ちょっといいかな」
「はい」
俺は勧められるまま、お兄さんの横に座った。
「急にごめんね、お礼を言いたかったんだ」
うん?お礼を言われるようなことはしてないぞ。
「その顔、何のことだろうと思うよね。ハイドなんだ」
ハイド?別に何もしてないけど……。
「ハイド昔から父さんみたいなハンターになりたいってずっと言ってたんだ。俺もハンター見習いをしてるから、憧れてたんだと思う。だけどハイドは優しくて、動物を殺すのに向いてなかった。俺や父さんが、割り切ってできることがハイドにはできなかったんだ。……それが、天昇式で君に出会って、辺境伯の訓練に通いだしてから、一皮剥けたというか覚悟ができたというか、目つきが変わったんだ。冒険者登録をしてからはさらに、成長したみたいで、スライムを狩ったと嬉しそうに話してくれた」
意外だ。お兄さんの方が優しそうで割り切れなさそうだけど、ハイドの方がそうだったんだな。
「俺はこの村が好きで、父さんの仕事を継ぎたいし、どこかに行きたいとは思わない。でも、きっとハイドは違うんだ。あいつは好奇心旺盛で一つところにじっとできない。だからきっと冒険者が性に合ったんだと思う。だから、スバルくん、これからもハイドのことをよろしく頼みます」
「……俺も一緒にいるだけだし、先のことは、分からないけど……」
この先も一緒にいたいけど、いつまで一緒にいられるかは正直分からない。
「もちろんだよ。ただ兄としてお礼を言いたかったんだ。長々話してすまなかったね」
ハイドのことを本気で考えてくれる、良い兄ちゃんだよな。
「兄ちゃん、スバル何してんだ」
噂をすれば影だな。
「……いや、先日お前がワイバーンを狩ったというほら話について聞いてたんだ」
「いや、それほらじゃないし」
「な、スバル!!」
「はいはい、さ、ハイド肉食べよう、肉」
「ほらじゃないって!!」
2人は仲良さそうに歩いていく。男兄弟も良いな。




