お宅訪問 1
というわけで、魔法が使えるようになったスバル=クリスチャン=バードです。さっそく使おうと思い、こっそり自室で、シールドを張ってみました。
「シールド!」
体の中から何か湧き上がってくるのが分かります。
これが魔力!!
苦節2カ月と少し(大した時間じゃ無いけど)ついに、ついに魔法が使えるようになったぞーー!!
いや、本当に嬉しい。前世は魔法の無い世界だったので、ファンタジーな世界に転生したことを実感する。
実際に張れたシールドは小さかったけど、千里の道も一歩から。安心安全のためにこつこつ頑張ろう。
「ひゃっほー!!」
バーン
「……うるさい」
ドアが空き、目の血走った姉が入って来た。
「あんた今何時だと思ってんの?殺されたいの?」
いつもの笑みもどこかに消え去っている。
「……すみません」
「次やったら殺すから」
バーン
姉は、そう言い残すとドアを思いっきり閉めて去って行った。
ヤバい。次は本当にやられる。
静かに、こっそり頑張ろう。
ちなみに、スカイとぺぺはこの騒ぎでも全く起きず、ヘソ天で寝ていた。大物や。
次の日の朝の訓練は昨日の訓練よりも倍以上ハードだったことをここに記しておく。
♢ ♢ ♢ ♢
馬車に揺られること30分。
俺はワクワクする気持ちを抑えきれなかった。
今日は俺の友達ん家に遊びに行くデビューの日である。ハイドの家は街とは反対側にあり、実は行くのが初めてだった。
えっ、魔法の練習はって?チッチッチ。できる男は約束を破らないのである。キリッ。
とかっこつけたが、魔法はいつでも使えることが分かったので焦りは無くなった。なので、遊ぶことを優先しただけである。
普段見慣れた景色から、どこか懐かしい農村風景に変わる。金色の麦畑が広がり、木造の可愛らしい家が合間合間に建っている。馬車が進んでいくと比較的家が建ち並んだ、村が見えてきた。
「あれかな?」
「キュキュウ!」
スカイも窓の外を楽しそうに眺めている。ちなみにぺぺはスカイのポケットでお昼寝中(朝寝か)である。馬車が目的地の村の中心にある赤い屋根の家の前で止まった。
「ありがとう、また帰るときは連絡する」
魔導具の通信球が普及しており、どこの村でも緊急時に備えて1個は配置されるようになっていた。おそらく村の役場か村長宅に置いてあるだろうから、それを借りることにする。
さて、緊張するがドアを叩くぞ。ドアをノックしようとしたその時……
バーン
「よく来たな!ケインも来てるぞ」
お約束のようにドアが空き、そのドアにぶつかった俺は痛みでうずくまった。
「あれ、スバル?」
「……ここだよ」
「……何でそんなところにうずくまってんだ。早く入れよ」
いや、お前の……。
ま、良いか。痛む額をこすりながら、案内されるままに家の中に入る。家の中は大勢の人が待機してくれていた。
「紹介するな。まずは父ちゃんと母ちゃん」
「いつもハイドがお世話になっています」
がたいの良い、いかついお父さんと少しふくよかなお母さんが笑顔で立っていた。意外なことにハイドの顔立ちや雰囲気はお母さんそっくりである。
「それから兄ちゃんと妹」
「始めまして。よろしくお願いします」
「……よろしくおねがいちまちゅ」
見た目はお父さん似でいかついが、雰囲気の柔らかい腰の低いお兄さんである。そして幼い妹ちゃんはハイドそっくりのミニチュア版である。
「それから爺ちゃんと婆ちゃん」
「お初にお目にかかります、ハイドの祖父のナリスです。この村の村長をしております」
「祖母のマリヤです」
なんとハイドは村長の孫だったのか。どうりであんまりお金に困ってる話が出ないわけである。
「スバル=クリスチャン=バードです。いつもハイド君には仲良くしてもらったり、助けてもらったりしてます」
「……ハイドは、失礼なことをしてませんか。何分田舎者で礼儀知らずですから……」
皆を代表して、村長さんが聞いてくる。
「爺ちゃん、スバルはそんなこと気にするやつじゃないって」
「お前は黙っておれ」
一気に空気がピンと張り詰める。
そうか、身分社会だから下手なことをすると切り捨てご免の世界なんだな。俺は気にしないけどちゃんと伝えとかないと不安になるよな。
「いや、本当にお気になさらないでください。というか普通に友達として扱ってもらう方が嬉しいです。捕まることは無いと名前に誓って断言しますんで」
その言葉を聞くと、張り詰めていた空気が緩んだ。
「ほらな、俺の言った通りだろ」
なぜかハイドがドヤ顔である。
「お前の言うことは当てにならんことが多いが、今回は本当のようじゃな」
「当てにならないって、ひどいよ爺ちゃん」
皆が面白そうに笑って笑顔があふれた。
「ようこそスバルくん、何も無いところじゃがゆっくりしてったら良い」
「ありがとうございます」
良かった。どうやら友達として受け入れられたようである。と思ったら服の袖を引っ張られた。
「……おかし、ある?」
妹ちゃんが、袖を引っ張りながら聞いてきた。
「こら、何失礼なこと言ってるの」
慌ててお母さんが引き剥がしに来る。俺はしゃがんで笑顔で答えた。
「あるよ。今日は料理長特製のアップルパイを持って来たから、あとで皆で食べよう!」
「やった――!!」
本当にハイドそっくりである。
「ごめんなさいね、いつもハイドがもらってくるお菓子が美味しくって、癖になっちゃったみたいで」
「母ちゃんも美味しい美味しいってたべてるじゃん」
「それは……そうだけど」
お母さんは少し恥ずかしそうである。
「今日の昼は期待しておいてくれ!いつもハイドが世話になってるから、朝一でシシを仕留めて来ている。外でバーベキューをするからな」
バーベキュー!今世では初である。しかも朝仕留めてくれたのなら超新鮮。さすがハイドのお父さんは凄腕の狩人だけはある。
「ありがとうございます!」
本気で嬉しい。
「じゃあ、それまでスバル、ケイン遊びに行こうぜ」
「おう」「はい」
バーベキューの準備が整うまで村を探検である。




