冒険者デビュー23(討伐を終えて 4)
パン
家に着くなり、玄関で待ち構えていた母に頬を叩かれた。
……俺ではなく姉が。
「なぜ叩かれたか、分かってるの」
厳しい声で母が言う。
「……私が、自分の欲を優先したから」
姉は頬を赤くしてうつむいている。
「そうよ、辺境伯を継ごうという者のすることじゃないわ」
「母様、リーダーは俺だから、俺が……」
姉さんもだけど俺がでしゃばったから。
「スバルは黙っておきなさい、あなたじゃないわ」
「……はい」
「緊急時だったのは分かっているわ、でもあなたはまだアイアンランク、自分のなすべきことは、別にあったんじゃないの。万が一全滅していたら、この辺境伯はどうなると思っているの」
「……ごめんなさい」
ついに、姉が泣き出す。
「フェレナ、あなたがついていながらなんという有様です」
「……申し訳ありませんでした」
「良いですか、あなたたちはまだ子どもよ。自分の力を過信しすぎるといつか自分自身の身を滅ぼすわ。冒険者として何より大切なのは、自分の身そして仲間の身の安全よ。それを肝に命じておきなさい」
厳しい言葉だからこそ、胸に刺さる。
「……無事で良かったわ」
母が俺たちを代わる代わる抱きしめる。
「ごめんなさい」
俺とフェレナも涙が溢れてきた。
「冒険者なら命をかけなければならないこともあるのは、分かっているわ。でもあなたちは同時に辺境伯の子どもであることも忘れないでね」
「……はい」
「さ、疲れたでしょうから、今日は早く寝なさい」
いつもの笑顔の母に戻る。
俺はそのまま自室に戻るなり、疲れがピークに達していたのか死んだように眠った。
♢ ♢ ♢ ♢
暗闇の中、通信球が光っている。
「これは騎士団の落ち度ですよ」
「……分かってる」
「分かってるって、何が分かってるんですか」
母が激昂していた。
「……すまない」
「もし街にワイバーンが到達していたら、死者がどれだけでたことが」
「……ああ」
「子どもたちだって、危険な目にあったんですよ」
「アランから、ステファニーとフェレナで一匹仕留めたと聞いたぞ」
「だから何です!万が一怪我でもしてたら取り返しがつかないんですよ。だから、2人をあなたは連れて行かなかったんじゃありませんか」
「……すまない」
「原因は分かってるんですか」
「いや、まだだ」
「至急、原因を突き止めてください」
「分かった」
「騎士団の方の被害状況は?」
「重症者が1名、中程度の怪我人が十数名、軽症が多数だ。全員命に別状はない。ヒーラーにより、重症者から治療にあたっている」
「そうですか……いつ頃こちらに戻られますか」
「おそらくあと2週間後くらいになると思う」
「分かりました。……先ほどは少し言いすぎました。申し訳ありません」
「いや、俺の方が配慮が足らなかった。すまない。……子どもたちが無事でよかった」
「……ええ」
「街の方はどうだ?」
「やはり騎士団がいない隙を狙って、犯罪者が集まってきているようです」
「アランに頼んで街の警備を強化してもらおう」
「分かりました。これを機会に犯罪者を一掃できると良いんですけど」
「ああ、だが人手が足りないだろうな」
「ええ」
「いろいろすまない。メルリシア」
「お互い様ですわ。……ただ、子どもたちの成長が思っている以上に早くて、私自身ついていけてないのかもしれません」
「……楽しみでもあり、不安でもあるな」
「ええ、どこまであの子たちの手を引けるのか、いつの間にか親の手を離れて飛び出していきそうです」
「それも成長か……俺たちもそうだったからな」
「ステファニーはあなたそっくりですわ」
「いや、メルリシアそっくりだと思うぞ」
「スバルは……よく分かりません」
「そう言えば、スバルの新しいテイムモンスターは大丈夫か?」
「はい。今のところですが」
「……スバルは誰に似たんだろうな」
「……本当に」
「いろいろありがとう」
「いえ、身体に気を付けて。また連絡します」
「メルリシアも。お休み」
「お休みなさい」
通信球が暗くなり、部屋は暗闇に沈んだ。




