冒険者デビュー19(緊急依頼)
スライム以外のモンスターを初めて見る俺にとって、ワイバーンは桁外れの大きさだった。
前世で言う象くらいの竜が飛んでいる。そんな大きさのモンスターが間近に迫ってくるのは恐怖でしかなかった。
ガタガタと震えが走るのが止められない。逃げ出したいのに、足がすくんで動かないとはこのことかと実感した。
ジェーンさんが先陣を切る。
「サンダーライト!!」
雷に似た光の光線がワイバーンの頭を直撃する。そのままワイバーンは下に落ちる。
まずは1匹。
「次!!」
エイダンは一気にワイバーンと同じ高さまで飛び上がると、首元で何かしたようだった。下からはエイダンの姿が小さくしか見えないので、何をしたかは分からない。エイダンが地上に降りてくると同時に、ワイバーンの首が落ちてきた。
2匹目。
「終わった」
「行っけぇーーー!!!」
姉は大きく槍を振りかぶると、思いっきりワイバーンめがけて投げた。
速い!!
見事ワイバーンの右羽に直撃する。ワイバーンはその衝撃で体勢を崩し、下へと落ちてきた。
「フェレナ!!」
「はい。……シュート」
フェレナが飛び上がり剣をワイバーンの額に突き刺す。しばらく暴れていたが、体の動きが止まった。
これで3匹目。
「最後は俺たちだぜ」
「「「「「おう!」」」」」
冒険者の魔法使いが魔法で攻撃する。何発かは当たるが、致命傷に至らないため、逆にワイバーンが敵と認識し、ブレスを吐いてくる。
しかも俺達のすぐ近くまで飛んできていた。
「全員、シールド!!」
シールドを張るが、力負けした何人かが、ブレスを受ける。肉の焼ける何とも、言えない匂いが漂ってくる。
「大丈夫か!!」
「何とか、正面からは避けました」
俺達のところまでは紙一重でブレスは届かなかった。冒険者たちも全員立った姿勢を保てているため致命傷は負っていないようである。だが、火傷の跡が痛々しい。
ワイバーンは転回し、一度体勢を整えるためか空高く飛び上がる。
怖いけど、何かできることをはないか。できることは。
ジェーンさんやエイダン、姉からはかなり離れてしまったためすぐの援軍は厳しい。
「ハイド、弓を風魔法で威力まして、ワイバーンの目を狙えるか?」
「やってみるけど、届くかは五分五分だ」
「ケイン、ワイバーンが落ちてくる場所を水魔法で濡らせるか?草抜きの時と逆で沼になるくらいに」
「やってみます」
「誰か、光魔法使えますか」
「私が使えるわ」
「ハイドが目を射るのでそのタイミングでワイバーンに光魔法の目眩ましできますか?」
「それくらいなら大丈夫!」
「後はワイバーンが落ちたところを一斉攻撃します」
「「「了解」」」
ワイバーンが再び攻撃体勢にうつる。
俺とハイド、ケインは冒険者たちの前に立つ。
ワイバーンは高度をどんどん下げて俺たちめがけてやってくる。
「今だ!!」
ハイドが風魔法をまとわせて弓を射る。見事に右目にあたる。そして光魔法が炸裂する。両目をやられ、平行感覚が狂ったのかそのままこちらに墜落してくる。
ケインが水魔法で土を湿らせる。
もちろん俺、ハイドケインは逃げながらである。
地上に落ちたワイバーンは体が沼に沈み、体が上手く動かせない様子である。そこを冒険者たちが一斉に攻撃する。飛ばない竜ならこっちのものだろう。
冒険者の中心人物がとどめを刺し、ワイバーンは動かなくなった。
「やったぞー!!!」
勝鬨があがる。
今になって、また、足が震えてきた。
やった。
けど、やっぱり戦闘は怖いし、向いてない。
「……」
いつの間にかエイダンが後に立っていた。
無言である。
「……エイダン、お前なら間に合っただろう」
「はい」
「……お前な……ま、いいか」
そう、何とかなったならまだ良しだ。街に被害もない。ただ、冒険者の何人かが中程度の火傷を負っている。
見ると、スカイが桃を配っている。軽症にしか効果がないかもしれないが、無いよりはマシだろう。
「これ、ギルドで売り出した桃ね!」
「キュキュウ!」
「くれるのか?ありがとう」
みんな喜んで食べている。
「うまい!」
「美味しい!!」
「……あれ、しかも火傷治ってないか?」
「本当だ。痛くない」
「すげぇ、この桃!!」
「ありがとうな!」
スカイも頭を撫でられて嬉しそうである。
が、なぜ火傷が治ったのだろう。軽症には見えなかったけど……。
「皆さん大丈夫ですか?」
ジェーン先生がやってきた。姉とフェレナも一緒である。
「ハイド、ケインなかなかやるじゃない!」
「かっこよかったです」
珍しく姉とフェレナが褒める。そのままハイドとケイン、冒険者も交えて楽しそうに笑い合う姿が見えた。
俺も混じろうと思い、進みかけたところでジェーン先生に呼び止められた。
「スバルさんの今日の姿はダメダメです」
ジェーン先生、俺に厳しくない。
「戦う力もないのに勢いだけで皆の前に立つのは無謀としか言いません。エイダンさんが控えていたとは言え、自分の力を過信しすぎないように。あなたは弱いんですから」
そうだよな。戦う力がないのに、戦闘に参加するのはやっぱり無理がある。
みんな活躍して、かっこよかったな。
みんなの姿が眩しく見える。
「……キュキュウ?」
スカイが心配そうに俺を見つめてくる。
「大丈夫だよ」
そう言って、俺はスカイの頭をなでた。
俺だけ何だか取り残されたようで、少し心が痛かった。




