冒険者デビュー11(宿屋とまり木 1)
20分歩くのはまーまー大変だったが、赤い屋根が目印の宿屋とまり木は大通りに面しているためすぐに見つかった。思っていた以上にデカい。
3階建ての横に長い宿屋で、宿屋と聞くとこじんまりした印象だが、とまり木は大勢の人が泊まれそうである。入口の両開きドアが開いているので、そのまま中に入る。
中はシンプルな内装で、冒険者ギルドの内装とよく似ていた。ギルドよりは明るいイメージだが。
受付にいる少しふくよかな女性に声をかける。イメージは女将さんだ。
「すみません、ギルドの清掃依頼で来たんですが」
「あら、良かった。今日は、お客が多くて部屋の清掃が間に合わないかと思ってたんだ。助かるよ。さっそくお願いできるかい?」
「はい!こちらこそお願いします」
「じゃあ、客室に案内するからこっちに来な。あたしは女将のレイラだ。よろしく頼むよ」
女将さんについて階段を上がる。右と左にずらりと客室がならんでいた。
「まずは清掃する客室かどうかだけど、ドアノブを見れば分かる。何もついてなかったら未清掃、白いヒモが結んであったら、清掃済だ。あとは、黒いヒモは中に入るなという印だから覚えといていてくれよ」
分かりやすい仕組みだな。ドアノブに何も無し、未清掃、白清掃済、黒立ち入り禁止だな。
「分かりました。」
「じゃあ、さっそく、部屋の清掃の仕方だが、新しいシーツと枕カバーを用意しておいてそれに変える。あとは部屋のゴミの片付けと簡単に掃除してくれたら良い」
「シーツや枕カバー、ゴミはそれぞれどこに片付けたら良いですか?」
「取り敢えずこのアイテム袋に入れてくれたら良い。新しいシーツや枕カバーも中に入ってるから」
この世界、アイテム袋を皆結構持ってるな。ま、何でも入れれて(容量はあるけど)全部がぐちゃぐちゃにならずに入れた時と同じように出せるって、本当に便利だからありがたいんだけど。ファンタジーの定番だとレアっぽいけど、そこそこ貯めたらギルドでも買えるもんな。
「分かりました。あとは何か気をつけることはありますか?」
「基本的に客の物には触らないこと。ま、触らなくても中にはイチャモンつけてくる客もいるんだけどね。基本的には貴重品の管理は自己責任にしてあるけど、余計なトラブルはできるだけ避けたいから、掃除で動かしても極力置いてあった通りにしといとくれ」
確かに、位置が変わると嫌がる人もいるかもな。余計な火の粉は被らないにこしたことはない。
「分かりました」
「じゃあ、頼んだよ。何か分からないことがあったら1階の受付にいるから、聞きに来な」
そう言うと女将さんは下に降りていった。
「スバル今回も何か作戦あんのか?」
皆が期待して俺の方を見る。
「いや、すまない。狭い室内で魔法は使えないし地道にするしかないかな。俺のアイテム袋もあるからシーツと枕カバーをこれに半分入れて、二組に分かれて清掃しようと思う」
「了解。じゃあ俺はケインと一緒に右側の客室から綺麗にしていくよ」
「俺はエイダンとスカイとで左から綺麗にするな。一番端の部屋から綺麗にして、真ん中で落ち合おう」
「「了解」」
さぁ、さっそくお掃除開始だ。
1部屋目 思ったよりも綺麗。持ち物も無い。
エイダンが一瞬でシーツと枕カバーを変える。(プロや)ゴミを回収して終了。
2部屋目 めちゃくちゃ汚い。足の踏み場もないが取り敢えずエイダンがシーツと枕カバーを変え、俺とスカイでゴミを拾う。空き瓶はゴミだろう……スカイ、そのパンツはゴミじゃありません。汚くてもそのままにしときなさい。あ、その靴下も……臭い。目に染みる臭さだけどゴミじゃありません。置いておきなさい。少し片付けに手間どったが終了。
3部屋目、4部屋目、5部屋目と順調に終了。2部屋目を超える部屋は今のところでていない。
さ、次の6部屋目はどうかな。
6部屋目に入ると、1部屋目と同じで全然汚れていない。部屋の隅に少し大き目の木箱が置いてあるだけだ。これなら楽勝だな。
エイダンがプロの技で一瞬でシーツと枕カバーを変え、俺とスカイでゴミのチェックとゴミ拾い。
「よし、次の部屋に行こう」
ガタッ
「……ん、何か音したな」
エイダンは無言で木箱を指さす。
ガタッガタッガタッ
木箱が激しく揺れている。
「キュキュウ?」
スカイが近づいていく。
「エイダン、スカイを捕まえて!」
エイダンがスカイを捕まえると、「キュウキュウ」と珍しく、暴れて鳴いている。
「スカイ、何かいるのか?」
「キュウ!」
ガタッガタッ ガタッ
相変わらず木箱は激しく揺れている。とは言え人様の物を勝手に開けるわけにもいかないしな。
「エイダン、何が入っているか分かるか?」
エイダンに丸投げしてみる。
エイダンは真剣な顔で木箱を見つめる。
「……生き物が入っています」
いや、それは分かる。何が入っているか知りたいんだが……。どうしよう。




