桃を売ろう6
そして騎士団の遠征が始まり、いよいよ今日は冒険者ギルドで桃を売る日である。(皆の冒険者登録の日とも言えるが)
ケインとハイドとは冒険者ギルドの前で待ち合わせにしたので、馬車には俺、姉、フェレナ、エイダン、スカイが乗っていた。
「楽しみね!」
「はい!」
姉とフェレナは冒険者登録をよほど楽しみにしていたのか、窓の外を眺めながらそわそわし通しである。
一方の俺も別の意味でそわそわしていた。
……もちろん、桃がいくらで売れるかである。
初級ポーションが銅貨3枚だと聞いているから、銅貨5枚くらいになってくれると嬉しい。
ちなみに今日は桃を200個用意してきた。
たとえ銅貨3枚でも結構な大金となる。
俺の定期的な収入にもなるし、安心安全な暮らしにもつながる。
「そういえばエイダンは冒険者登録しているの?」
元のエイダンは良い歳だから、しててもおかしくない。
「……分からない」
だよな。
焦らず、冒険者ギルドで聞くべきだった。
「スカイも登録できると良いな」
「キュウ!」
そうこうしている内に馬車は目的地の冒険者ギルドに到着した。入口にはハイドとケインの姿が見える。
俺たちは馬車から降りると、ハイドたちに合流した。
「よし、行こう!」
気合いを入れる。
頼むぞ、桃!
「「「「「おー!」」」」」「キュウ!」
皆も気合い十分である。
入口から入ると、受付にオリビアさんがいるのが見えた。そのままオリビアさんの受付に向かう。
「ご無沙汰してます」
オリビアさんが笑顔で対応してくれる。
「お久しぶりです。お母様からご連絡をいただいておりました。ギルドマスターがお待ちですので、こちらへどうぞ」
どうやら今回もギルドマスターにお世話になるらしい。そのまま皆でオリビアさんについて行く。前回とは別の少し広い部屋に案内されると、ギルドマスターが待っていた。
「よく、来たな」
相変わらず見た目は熊みたいにいかついが、笑顔で出迎えてくれた。
「お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」
皆で頭を下げる。
「俺はギルドマスターのアランだ。よろしく頼む。とりあえず、座れ」
言われた通り、皆椅子に座った。
「まずはモモについてだな。とりあえず1個出してくれるか?」
どうやら母からある程度話がいっているらしい。スカイに頼み、桃を出してもらう。
「これがモモか……俺も初めて見る。果物なんだろう?」
「はい。ですが鑑定鏡では初級ポーションと同じ効果があると出ました」
「なるほど。効果は日持ちするのか?」
「とりあえず、一ヶ月は持つことを確認しています」
その後も変化を見るために桃を置いているが、桃自体に変化は見られていない。効果は確認できていないが。
「オリビア鑑定を頼めるか?」
「はい、それでは鑑定させていただきます」
オリビアさんは桃を手に取ると「鑑定」と呟いた。
「スバル様、情報を転写してもよろしいですか?」
「転写?」
初めて聞く言葉だな。
「はい。情報を紙に写すことです」
「大丈夫です。お願いします」
ここにいる皆は桃について知っているからな。
桃 効果 少し傷を治す(初級ポーションとほぼ同じ効果) 美味 価値 銅貨6枚
「おおっ!銅貨6枚!」
やったー!200個あるから、200×6000=120万くらいになる!!
アランさんが、情報を見ながら確認してくる。
「美味とあるが、どんな味なのか食べてもいいか?」
「もちろんです。スカイ桃を2つ出してくれるか?」
「キュキュウ!」
売る以外にもまだ桃はストックしてある。俺はアランさんとオリビアさんに一つずつ桃を渡した。
「私もよろしいのですか?」
「はい。食べて感想をいただけると嬉しいです」
初級ポーションの倍の値段だから、売れるか正直不安だしな。2人ともそのまま桃にかじりつく。
「うまい」「美味しい」
よし!2人の反応も良さそうだ。
「これが初級ポーション代わりになるのか……銅貨6枚。売れるな」
「はい。初心者よりも中、上級者が欲しがると思います。それにもしかしたら料理人も欲しがるようになるかもしれません」
「確かに初めて食べる食べ物、しかもとびきり美味いとなれば、貴族で買い占める奴がでてくるかもな」
「一人に売る上限を決めて、売り出しましょう」
「そうだな」
ギルドの2人でどんどん話がついていく。
「スバル様、今日はいくつお持ちですか?」
「とりあえず200個持ってきました」
オリビアさんが少し考え込んでから俺に告げた。
「スバル様、よろしかったら最初の100個だけ半額で売ってはどうでしょうか?」
「どうしてですか?」
「見慣れない食べ物、しかも金額が倍となると最初は買う人が現れないかもしれません。最初だけ初級ポーションと同じ値段にしておけば、試しに買う人が現れるはずです。そこから口コミで広まれば、倍の値段でも買う人はでてくると思います」
なるほど、損をして得を取れというやつだな。
「分かりました。それでお願いします」
とりあえず桃はいけそうだ。
「スバル話は終わった?」
姉が、そわそわしながら聞いてきた。
俺の話で待たせすぎたな。姉以外の皆もそわそわしているのが伝わってくる。
「桃についてまだ何か聞いておくことはありますか?」
「その他の細々したことは、下で納品する時にお伝えしますね」
オリビアさんは、やはり空気を読むのが上手い。
皆が待ちくびれてきているのが分かり、そう俺に言ってくれた。
「分かりました。姉さん、俺の話はとりあえず終わったよ」
次は皆のお待ちかね冒険者についての話だな。




