桃を売ろう1
そしてエイダンが護衛となって、1週間がたった。
「スバル様朝ですよ!」
いつものようにルリアがカーテンを開ける。
「スバル――訓練行くわよ!」
姉が俺へダイブする。
「早く起きて下さい。訓練が逃げます」
フェレナが無慈悲に布団を引っ剥がす。
「……訓練は逃げないから」
「キュキュウ!」
「スカイは元気だな」
無慈悲に布団を取られた俺は、しぶしぶ目を開けて体を起こす。スカイも今は一緒に寝ているので、このタイミングで一緒に起きる。ちなみにエイダンはいつの間にか部屋にいて隅で控えている。(ルリアや姉、フェレナが入る時には既にいるらしい)
その後は全員で早朝訓練を行う。
ロキ教官に姉が、俺への指導法を聞いたらしが、体力が無いことが1番の問題と言われ、やはりまだ走り込みをしている。
「いつになったら、次のステップに進めるのかしら」
「スバル様は相変わらずですね」
姉とフェレナのディスりにも負けず、今日もとにかく走る。相変わらずヒーヒー言っているが、少しずつだが、走る速度は上がってきたし、走れる距離も延びてきた。
ただ、比較対象の姉、フェレナ、エイダン、スカイ、全員が体力お化けのため、全く俺の伸びは分かってもらえない。
「俺はきっと向いてないんだ――!!」
たまに叫ぶ。叫ぶ元気もついてきた。
「スバル、あんた、まだまだ元気ね。確かに少しは体力がついてきたのかも」
そうそう。少しは俺を褒めてくれ。
「それなら少しハードにしても、大丈夫なんじゃないですか?」
フェレナが口を挟む。
いや、いや、いや。やっと少し余裕がついて来たところです。
「腕立てや腹筋もそろそろ入れてみては」
フェレナー!!!お前も姉と同じ悪魔か!脳筋✕✕✕め!!!
「……何やら、スバル様から良からぬ気配がします。早速訓練メニューを増やしましょう」
フェレナが満面の笑みで言った。
笑顔が怖い。
「そうね!やればできる子のはずだものね」
姉が追従する。
いや、いや、いや。無理なものは無理です。
これ以上訓練メニュー増やされたら死にます。
「……エイダン、何とか言ってくれ」
お前が頼りだ。
「このままでは俺がいてもいつ殺られるか分からない。もっと訓練すべき」
よくしゃべったな!普段口数少ないのに。しかも、何でご主人様の意向を汲まない。
「……エイダン」
走りながら恨みのこもった眼差しを向ける。
「俺、嘘つけない」
俺の視線など、全く気にせずエイダンは俺の後ろを汗一つかかずに、キープして走る。
そう。バングルの効果でエイダンは主人の言うことに絶対服従である。命令もいくつしても良いらしい。(ただ、お願いしすぎると命令に矛盾が生じて、命令の効果がなくなる可能性があるらしく、できるだけ少ない方が良いらしい)
俺がお願いしたのは二つ。
一つ目は俺に対して嘘はつかないこと。
二つ目はできるだけ人を傷つけないこと。
二つ目のお願いはどう言えば良いか迷いに迷った。本当は人を殺さないでほしい。でも、護衛である限り、俺を守るために傷つけることだってあるかもしれない。それなのに殺すなと言って誰かが死んでしまったら本末転倒である。だから、少し曖昧な言葉になってしまった。
「スバルあと5周したら腕立てをするわよ」
あと5周。
……ならばゆっくり走れば……。
少しペースを落とした俺の背中を、今度はスカイが押してくる。
「キュキュキュ!」
スカイ――。何て可愛い……ではない。今は違うんだ。
「キュキュ!」
ゆっくり走れない――!!
エイダンまでが、俺を押しだした。
俺を見てこくりと頷く。
「いやだー――!!!」
俺は叫びながらペースを戻した。(意思が弱い……)
訓練後ぐったりしている俺にスカイがポケットからオレンジを出してくれた。
「キュキュキュ!」
「ありがとう!」
訓練終わりの果物は美味しいからな。また、料理長に頼んでスカイのポケットにいろいろ入れておかないと。
「うまーい!」
このオレンジも甘くて瑞々しくて最高である。
「はぁ、生き返った」
やはり何か食べると、元気がわいてくる。
「スバル何してるの?早くシャワー浴びないと朝食の時間なくなるわよ」
先に、シャワーを浴びに言っていた姉とフェレナがやって来た。
「了解」
朝飯抜きは嫌――!!!
俺はエイダンとスカイ3人でシャワーへと急いだ。




