奴隷商に行こう2
次の日、俺とスカイは父と共に馬車に乗り、奴隷商を訪れた。
奴隷。
前世にはなかったシステムだが、聞けば聞くほど有用性は高い。軽度な犯罪なら比較的短い刑期になるため奴隷として働く時間も短く、反対に殺人などの重犯罪なら奴隷として働く時間も一生となることもあるらしい。前世で言うところの無期懲役である。
奴隷を買うお金は4割手数料が取られた後は、被害者に残りの6割は渡される。お金で全て解決するわけでは無いが、無いよりはある方が良いに決まっている。
「着いたぞ。ここが我が領にある唯一の奴隷商だ」
冒険者ギルドのすぐ隣に奴隷商はあった。見た目は3階建のホテルのような外観で、一見するだけでは奴隷商とは分からない。冒険者ギルドの隣なのは、何かトラブルがあった時に対処しやすくなるためらしい。
「大きいですね」
「キュキュウ」
「戦争やら、組織的な犯罪やらでいっぺんにたくさん奴隷を抱えることもあるからな」
入口を入ってすぐに、屈強そうな男性に声をかけられた。
「何か御用でしょうか」
「辺境伯のスチュアート=ブラッド=バードだが、護衛の奴隷を探しに来た。今日は奴隷主のゴルダ殿はいらっしゃるだろうか。」
「確認して参ります、しばらくおかけになってお待ちください」
建物の中も高級ホテルかと見紛うばかりである。イメージしていた薄汚れたり、寂れたりする雰囲気は全くない。ソファーもふわふわで座り心地も良い。
「父様、思っていた以上に奴隷商は綺麗ですね」
「ああ、犯罪者を受け入れてくれる場所だから、国からも資金が援助されているし、奴隷を買うのも金持ちが中心だから、それに対応できる内装にしているのだろう」
なるほど、売買の金だけではなく、国から犯罪者を預かるお金が入るのか。
「辺境伯様ご無沙汰をしております」
先ほどの屈強な男性とともに、身なりの整った眼鏡をかけた知的な男性が現れた。
「ゴルダ殿、急にすまないな」
父が、立ち上がり声をかける。
「いえ、ご入用の際に、我が商会を利用していただけるだけで、大変有り難いことです」
「そう言っていただけると、助かる。今回は次男の護衛を探しに来たんだ。やんちゃでしょっちゅう外出もするから、家の騎士団の護衛だけでは心もとなくてな。どうか、よろしく頼む。」
慌てて俺も、立ち上がりお辞儀をする。
「辺境伯が次男、スバル=クリスチャン=バードです。よろしくお願いします。隣にいるのは僕のテイムモンスターのスカイです」
合わせてスカイもペコリと頭を下げる。
「キュキュウ」
「丁寧にありがとうございます。……スカイ様もあまり見慣れぬモンスターですね。護衛はお二人含めてということでよろしいでしょうか?」
「流石、話が早いな。そうだ、スバルだけではなくスカイの護衛も含んだ依頼となる。……どうだ、心当たりはいそうか」
「そうですね……とりあえず、スバル様は初めてのご来店ですので簡単に店内を説明させていただいてもよろしいでしょうが」
「頼む」
「分かりました。それでは皆様こちらにどうぞ。ルカはまた、受付を頼む」
「了解しました」
屈強な男性は受付らしい。やはり、トラブル対応のために男性なのかな。
ゴルダ氏に続いて店の奥に進む。ホテルのように個室がずらりと並んでいるが、ドアに大きな窓が付いており、中がのぞける点が違う。
「一階は比較的、刑期の軽い奴隷が暮らしています。とりあえず入ってみましょう」
トントン
「失礼するよ」
鍵はかかっておらず、そのままドアを開ける。
「いらっしゃいませ」
「ませ」
室内は狭くベッドと小さなタンスのみのだが、清潔感はあった。若い獣人族の女性とおそらくその子どもが出迎えてくれた。
「タグを貸してくれ」
若い女性からドッグタグを受け取ると、俺に差し出した。
「どうぞ鑑定してみてください」
心で鑑定とつぶやく。
サラ
獣人族 スキル 家事 才能 掃除
借金奴隷 主 ゴルダ
「借金奴隷?」
あれ、奴隷になるのは犯罪者だけじゃないのか。
「はい、彼女は借金が返せなくなり、奴隷になった者です。借金を全額労働等で返せたら、奴隷ではなくなります」
「主がゴルダさんになっているけど」
「正式な主が決まるまでは私が主になります。ただ、実は彼女は家事能力が高いため、正式に私が雇っている奴隷となります」
これだけ広いと、部屋の掃除や洗濯なども大変だから、奴隷を雇う方がコストも抑えられて良いのか。
獣人族の女性はあっけらかんと身の内を語る。
「ゴルダ様のところに来られて幸いでした。主人を事故でなくして、生活のための借金が膨らみどうしようもなくなり、奴隷となりましたが、息子も一緒に暮らせるよう取り計らっていただいたり、日々の生活も普通に行えたり、働いた分は借金が減りますし、他のところに売られていたらと思うとぞっとします」
奴隷商によって奴隷の扱いも違うのか。
「うちは質を高くして、お値段も高く買い取っていただくをモットーにしております」
ゴルダ氏の眼鏡がキラリとひかる。
この人も賢いな。
奴隷も生活が安定している方がトラブルも減るだろうし、トータルでみたら損しないシステムを作っているんだろうな。
「そう言えば、どこを見たら奴隷と分かるの」
普段町を歩いていてもどの人が奴隷なのかは見分けがつかないもんな。
「すみません。最初にお伝えするべきでしたね。奴隷かどうかは腕を見れば分かります。奴隷は全員制御魔法のかかったバングルをしています」
獣人族の女性と子どもが腕を見せてくれる。
「お子さんも奴隷なんですか?」
子どもも奴隷になるのか。
「いえ、正式な奴隷は私だけです。ただ、こちらで、一緒に過ごすにはバングルがないとダメなのでつけています」
良かった。でも、何でバングルがいるんだ?
「なぜですか?」
ゴルダ氏が丁寧に説明してくれる。
「基本的にバングルをつけている間は主の命令に服従するからです。子どもだからといって油断していて万が一奴隷を逃がしたり、傷つけるようなことがあってはいけないので念のためつけさせていただいています」
獣人族の子どもも元気に答えてくれた。
「僕、朝は学校に行って、帰ってからお母さんと一緒に部屋の掃除をするんだ。そしたらゴルダ様からお駄賃がもらえるから、それでおやつとか欲しい物を買うの」
本当に普通の暮らしをさせてもらえているんだな。
「それでは、2階に参りましょう」
「はい、ありがとうございました」
「キュキュウ」
俺とスカイが頭を下げると、女性も頭を、下げてくれ、子どもが元気に手を振ってくれた。
「またね!」




