鑑定を終えて 4
そのまま場はお開きになった。
「皆様お休みなさいませ」
「ふぁーあ、お休みなさい」
姉とフェレナが連れ立って出ていく。姉は特大の欠伸付きである。しかも手で口元を覆う素振りもない。
女子力よ……。
「じゃあ僕も寝るよ、お休みなさい」
「キュキュウ」
同じく部屋をスカイと出ようとすると、父から呼び止められた。
「スバルは少し話があるから残りなさい」
「あなた、スバル、スカイちゃん、お休みなさい。あまり根を詰めすぎないようにね」
母も部屋から出ていった。
根を詰めるとは……もしかして俺、何かやらかした?
「お前のタグを見ても良いか?」
何だその話か。
そう言えば昼食の時に、言われてたな。俺は自分の首にかけていたタグを父に渡した。
父は目を閉じてしタグを握りしめた。
「……ふむ……やっぱりか……」
「やっぱりって、何が?」
「伏せ字だ、スカイだけではなくお前にもあるだろう。しかも愛し子か……」
父は、眉間にしわを寄せて考え込んでいる。
そうだった、無魔法が嬉しすぎて、伏せ字の方をすっかり忘れていた。たた、愛し子と言っても死神だからな。そんなに大したことはできないだろうし、してもらえないと思うのだが。
「僕の伏せ字は大したことないと思うけど……」
「お前の認識は甘い。俺は伏せ字自体見たことがない。それがお前だけではなく、スカイもとなると、神の寵愛がよほどのものだと考えられる」
神の寵愛……運が良かっただけな気もするけど。
「今はお前が何をすべきなのか分からないが、きっとこの先進む道は平坦では無いかもしれない。何か困ったことがあったらいつでも言いなさい」
心配してくれてるんだな。
「ありがとう、父様」
死神の愛し子だから、きっと世界を救うとか大きなことは無いはず。
長生きできるようにお願いしたし。
ないよな?頼むよ死神。
「それと、過ぎたるは及ばざるが如しというように、神の寵愛も過ぎたるは災いになるかもしれない。神の寵愛があることは俺とお前だけの秘密にしなさい。今後はタグも人に見せないように」
寵愛か……大したこと無い気がするけど、知らない人にとったら、良い鴨だと思われるかもしれないってことだな。
安心安全が一番。父様の言うようにしよう。
「分かりました。タグは誰にも見せません」
「スカイのタグも今後は見せないようにな。それと……もしも…………いや、何でもない」
父は、何か言いかけて、口を閉じた。
「どうしたの父様?」
何でも話てくれる父にしては、珍しい姿である。
「いや、明日から魔法の訓練だろう。しっかり頑張れ!!」
ごまかすような父の姿に少し戸惑ったが、ま、俺にとって必要なことなら、また話をしてくれるだろう。
「はい!じゃあ、僕もこれで失礼します」
ふぁーあ。
姉の欠伸がうつったのか、俺の口からも大きな欠伸が出る。スカイは俺と父の話の途中からうつらうつらし始め、すでにぐっすり夢の世界へ旅立っていた。
スカイを抱き抱えると自分の部屋へ戻った。
♢ ♢ ♢ ♢
「あなた、どうだった?」
「スバルは神の愛し子だった」
薄暗い室内で、2人の密談が始まっていた。
「じゃあ、可能性はあるのね」
「……おそらく。ただ、今では無い気がして、伝えることができなかった」
スチュアートは窓の外の暗闇を見つめながら話を続ける。
「そうなのね。……でも残された時間はあまりないわ」
「分かっている。だが、焦ってもきっと上手くはいかない」
「だけど……可能性があるなら、できるだけ早くしないと……」
スチュアートは語気を強めた。
「分かってる。……俺も親だ。気持ちは痛いほど分かる」
メルリシアは涙ぐみながら続ける。
「……私に力がないばかりに……。何がゴールド級のヒーラーよ。大切な人を救えなければ、何の価値もないわ」
スチュアートはメルリシアをそっと抱きしめた。
「俺を何度も救ってくれたのはお前だ」
「何とかしてあげたいの、だって、ソフィアの忘れ形見なのよ」
「あぁ……だからこそ、我が子の力を信じよう。このタイミングで神の寵愛を受けたのだから、きっと何かしら道が開けるはずた」
「……そうね。私も弱音を吐くのは、今日でおしまいにするわ。スバルとスカイに今教えられる全てを伝えるわ」
「願わくば、我々の思いが神に伝わりますように」
「クレアちゃんが助かる道が開けますように……」
そして室内は暗闇に包まれた。




