新たな人生
というわけで紫藤昴あらため、スバル=クリスチャン=バード、辺境伯バード家の次男として俺は生まれた。
「スバル、早く起きて」
「うげっ…………」
今、俺を体当たりで起こした、目の前の金髪の可愛らしい少女(見た目サギ、中身ゴリラ)はステファニー、11歳。バード家の長女である。
「うん?何か腹立つわ」
勘も鋭い。
「いひゃいです、ほっぺをつままないでください。姉様、準備するのであっち行っててください」
「早くするのよ!今日はいよいよスバルの天昇式なんだから」
そう!今日は俺の7歳の誕生日。この世界では、9歳で自分のスキルを調べる天昇式を行う。
「スバル様、今日は天昇式ですので、白の礼服をお召しください」
こっちの茶髪猫耳メイドはルリア。獣人で何と本物の猫耳メイドである。本物の猫耳…………萌え。
いかんいかん。さっさと準備せねば。
「何で、白の礼服なの?」
「何者にも染っていない自分自身を神様に見せて、スキルを授けてもらうためです」
スキルか…………実は俺が授かるスキルは分かっているのだが。
「ルリアは確か、家事スキルを授かったんだよね」
「はい、母と同じスキルを授かり、こうして辺境伯家で働けて本当に幸せです」
ルリアの母は辺境伯家でメイド長をしている。
俺が転生したこの世界グリアは魔法があり、様々な種族が暮らしている。みんな仲良くと言えれば良いのだが、国によって考え方がやはり異なる。辺境伯家があるテべル国は人族中心だが、比較的種族による差別も少なく様々な種族が暮らしている。隣の獣人国ナフトやエルフ国テリーとも友好な関係を築いている。逆に人族至上主義のガンガルや力至上主義のメフィスなどの国では差別が酷いらしい。
「ステファニー様と同じ、戦闘系のスキルだとよろしいですね。ですが、スバル様は小さな頃から賢かったので、学問系のスキルかもしれません」
そう。やはり俺はやらかしたのだ。地球で生きた記憶を引き継いだため、1歳で様々なことを理解し、2歳で神童と呼ばれた。ふっふっふ…………が、やはり長く続かず、(言語は地球と異なるため)早々に、神童説は勘違いとされ、平凡な一般人となった。短い春であった……。
「スバル、何してんの。早くしなさいよ!」
しびれを切らした姉が、乱入してくる。ちなみに姉は槍術のスキルを授かった。辺境伯家は国境に位置し魔獣の森も近くにあるため、荒事が多い。そのため、戦闘系スキルが喜ばれる傾向にある。
「もう、準備できたよ。今から行くところだったのに」
白の礼服に着替えた俺はいつもより2割増でかっこよく見える。
俺は前世とほぼ同じ髪色、同じ顔で転生した。曾祖父に似ているらしい。父と母に似ればイケメン確定だったのに…………ままならぬものである。
「あら、似合ってるじゃない。下で父様と母様が待ってるわよ」
姉は怒りっぽいが、素直な性格なためどこか憎めない。少し照れくさくなって、うつむきながら姉の手を引く。
「行こう」
姉と手をつなぎ階段を降りると、玄関の前で父と母が待っていた。
「父様、母様、おはようございます」
「おはよう、スバルは本当にいつも通りだな。上2人は天昇式が楽しみで早く起きてきたから、お前もそうかと思っていたが、なかなか起きて来ないとはな」
父の名前はスチュアート=ブラッド=バード、現辺境伯である。姉と同じ槍術のスキルを授かり、辺境の守りを一手に引き受ける騎士団の総大将である。ちなみに二つ名は鮮血のスチュアート。
「おはようスバル、礼服がとても似合っているわ」
若くて美人な母の名はメルリシア、ヒーラーのスキルを授かっている。ちなみに長男はスコット15歳。何と賢者のスキルを授かった正真正銘の神童である。現在は王都の学院で寮生活をしている。長男が15歳ということは母の年齢は……
「スバル、何を考えているの」
笑顔が怖い。これ以上は考えないようにしよう。
「時間が押しているから、朝食は馬車で食べるとしよう。出発するぞ」
「はい!」
天昇式、分かってはいても楽しみである。