疑惑の孤児院へGO 2
孤児院は門が閉まっており、ノッカーを叩く。
「どちら様でしょうか?」
孤児院の門が開き、職員が現れた。
「失礼する。こちらの院長にお目にかかりたい。私は王室近衛隊第2王女隊隊長カイト=フィスニアと申す。今日は王家が出資している孤児院への定期視察件監査に参った。抜き打ちで行なっているので、もし院長が不在なら副院長でも構わない。時間も限られているのでできるだけ早く頼む」
流石隊長。さも別の孤児院でも行なっているように聞こえる。職員の方は後ろに控えている末姫様を見て、本物と悟ったらしい。
「少々お待ちください」
慌てて門の中へと入って行った。
「グリン、頼んだぞ!」
「キャン!」
グリンは空いた門からするりと中に入った。
グリンは小さいから小回りがきく。反面目立つ色をしているから見つかるのは時間の問題……。時間との勝負だな。捕まりませんように……。
すぐにバタバタという足音とともに、複数の職員が現れた。
「私がこの孤児院の院長を務めております、ビルドと申します。……本日視察という話は伺っていなかったのですが……」
「はい。どこの孤児院もありのままの姿を見せていただくために前もって連絡はしておらはません。人数もお忍びのため限られた人数で参っております。それでは視察に入りますので、ご案内お願いします」
すごい。有無を言わせないこの圧。流石近衛隊隊長である。
「流石に少しお時間をいただけたら……」
「何かやましいところがおありですか?」
「そうではなく……分かりました。こちらへどうぞ」
院長は少しためらう素振りを見せたが、そのまま室内へ案内してくれる。院長の他に3人職員の方がついて来ていたが、その人たちも一緒に回るようである。全員院長を囲む形で俺達の前を歩く。
「エイダンどうだ?」
俺はこっそりエイダンに聞いてみる。
「……右と左」
なるほど右と左のヤツが強いヤツなんだな。一応皆に伝えて警戒しとかないと。事前に決めていた、指で後ろのメンバーにも伝える。
前を歩いていた院長が扉の前で止まる。
「こちらが年長者の教室になります。……うちは里親が見つかることが多いので、年長者は最近保護した数人だけです」
扉を開けると、数人の子どもたちが勉強していた。今は語学の授業らしい。……この言語はメフィスのだな。皆の視線がこちらに注目する。
「皆さん、こちらは視察に来られた末姫様です。ご挨拶を」
院長の声で子どもたちが起立し、大きな声で挨拶をしてくれる。
「「「「こんにちは」」」」
「皆さん元気ですね。何か困っていることはありませんか」
末姫様の質問に皆が首を振る。
「ありません!」
「ここに来られてしっかりご飯が食べられるようになりました」
「寝るところもきちんとあるし、寒くないです」
「勉強もできて、将来はミウム領で働けるって」
子どもたちは笑顔ではきはき答える。嘘をついたり言わされたりしている雰囲気はない。今は本当に前よりも良い生活が送れていることが分かる。
なんとなく虐げられていると想像していたので、正直拍子抜けした。でもま、この子たちにとっては良かった。
「そうですか。良かったです。ちなみになぜメフィスの言語を教えられているんですか?」
「ミウム領で働くことを考えているので、学んでおけば働く時に役立つからです。ミウム領はメフィスとの交易が盛んですから」
答えに違和感もない。
グリンのことが無かったら普通に良い孤児院と思ってしまいそうである。
「素晴らしいですね。これからもしっかり学んでください」
「「「「はい!」」」」
末姫様が子どもたちに手を振り、皆で部屋を後にする。
「確かに年長者は少ないですね」
「はい。里親が決まる子や、年長者は働けそうならミウム領で見習いとして働く子が多いので必然的にそうなります」
「なるほど。大変素晴らしいですね」
「ありがとうございます」
院長も褒められて笑顔で返事を返してくれる。
「……では、次に幼児の教室をご案内します」
院長が次の部屋の扉を開きかけた時、バタバタとこちらに走ってくる足音が聞こえてきた。
そして見えたのは黄緑の犬!
グリン!!
一直線に俺めがけて走ってくる。
「待ちなさい!!」
それを追いかけて何人かの職員が走ってきた。
いや、速い速い!!グリンはあっという間に俺の胸に飛び込んできた。
「キャン!!」
嬉しそうに尻尾を振っている。
……これはビンゴかな。
「……院長…………その犬が…………勝手に…………施設に…………入って…………いました」
追いついた職員が、息を切らせながら院長に告げる。
さて、ここをどう乗り切るかだな。




