疑惑の孤児院へGO 1
「ミウム伯爵についてですか?」
一番初めに戻って来たケインのお父さんにミウム伯爵について聞いてみる。ちなみにシェル伯爵家の私兵は何件か先の空き家を借りて身を潜めているらしい。
「はい、今回の孤児院の黒幕っぽいからどんな方なのかと、気をつけることが有ればと」
「う――ん。実は私もあまりよく知らないんです」
「同じ伯爵家でもあまり交流が無い感じなんですか?」
ありゃ。あてが外れたな。
「いえ、実は今の伯爵は1年ほど前に息子さんに代替わりしたばかりなんです。前の伯爵とは同じ隣国に接する領地同士、いろいろ話すことも有りお人柄もおおらかで公明正大な人物だったのですが、少し複雑なお家事情が有りまして」
「複雑なお家事情?」
今回のケインみたいなことかな?
「実は今ミウム伯爵を継がれているのは前伯爵の兄のお子さんなんです。ミウム前伯爵が若い頃後を継ぐはずだったお兄さんとその奥様を不慮の事故で亡くされまして、まだ幼かったお子さんを引き取り、その子が成人するまではと前伯爵は当主になられたと伺っています」
「なるほど。つまり今のミウム伯爵は前伯爵の実子ではなくお兄さんのお子さんで、前伯爵はその地位を返したということですね」
「はい。前ミウム伯爵は実子と分け隔てなく育てられたそうなんですが、現ミウム伯爵はやはり実子でない分居心地の悪さを抱えていたのか進学先は隣国メフィスを選ばれたので、我が国の社交界にはほとんど顔も見せられていませんし、どんな人物かもよく分かっていません」
確かに複雑だな。家のことは正直傍からはよく分からないし……。それに、メフィス国に留学か……ますます怪しいな。
「前ミウム伯爵はどうされているんですか?」
「現在の伯爵が成人されると同時に退かれ、もともとお持ちだった、ケクラン男爵として少し離れた領地を治められていると伺っています」
「なるほど……」
本当はどんな人物か前伯爵にも聞いてみたいけど、誰が本当の黒幕か分からないうちは危険だろうな。前ミウム伯爵がいろいろ自分の手を汚さないためにわざと代替わりしたとかの可能性も無いわけじゃないし。
「手配が完了した」
ヤドリ侯爵も戻ってくる。続けて末姫様も戻って来られた。
「こちらも手筈は整いました。一応今私の方に入ってきた情報をお伝えしますね」
「お願いします」
王家が集めた情報ならかなり正確だろう。
「孤児院の報告書に不審な点はありませんでした。孤児の数も書面上ではそんなに大きく変化はありません」
「改ざんですか?」
「おそらく。この店の方の話と噛み合わないので、改ざんして報告しているものと思われます。また、火災については実は以前から調べさせていたのですが、別の領地で2件孤児院の火災が発生しています。どちらも乳児の行方が分かっていません」
いや、結構大事になってきたな。分かっているだけで、今回で4回目。乳児たちをどこに連れて行ってるんだろう……。俺の時みたいにメフィスに送られてなければ良いんだけど……。
「あと、これは不確かな情報ですが、ミウム伯爵はメフィスに留学中に紅死教に入信したのではと別の留学生が話していたと耳にしました」
「紅死教!?」
またろくでもない名前を聞いたな。どんどんミウム伯爵が怪しく見えてくる。
「はい。そのことも頭に入れておくと良いかもしれません。報告は以上です」
さすが王家!これだけの短時間に結構たくさんの情報がでてきた。
「では、作戦を開始しても大丈夫ですか?」
「「「「はい!」」」」
皆の準備も整ったし、後は上手くことが運ぶことを祈ろう。
「そうだ、末姫様。良かったらぺぺを抱っこしてもらえますか?実はこのぺぺかなり強いので緊急の際も助けてくれるはずです」
俺なんかの何倍も強いからな。
「そうなんですね。ぺぺさんお願いしても大丈夫ですか?」
「ぺぺ!」
ぺぺは張り切って手を上げている。
「グリンは別に孤児院に潜入して、行方不明の孤児たちを探してくれるか?見つかりしだい、俺のところに戻って来てくれ」
「キャン!」
「スカイは俺と一緒に行こう」
「キュウ!」
「……あと、もしもの時は人でもためらわずに攻撃して構わない。自分の命を一番に考えるんだぞ」
できるだけ人は傷つけないように伝えているけど、それで自分の命を失ったら元も子もない。やはり自分の命が一番である。
「キュウ!」「ぺぺ!」「キャン」
3匹とも真剣に返事をする。大丈夫そうだな。
「配置は俺とエイダンが先頭で真ん中に末姫様、最後をカイトさんとクルスさんでも良いですか?」
「「はい!」」
「では後は、グリンがここに来たら突入ということでよろしくお願いします」
「了解した」「分かりました」
よし!いよいよ出発だ。
ちょっと緊張するけど、早く見つけてあげないとな。
さて鬼が出るか蛇が出るか……。




