火事現場
あっという間に火事現場に着いた。
俺はエイダンに下ろしてもらうと、そのまま周りの状況を確認する。
火の手が上がっている建物はかなり大きな建物だった。そして中から避難してきたらしい人たちは子どもが多い。もしやこの建物は孤児院か……逃げて来た人たちの会話に耳を傾ける。
「子どもたちは無事ですか?」
「はい!自分で逃げられる子たちは一緒に逃げて無事です」
「後は乳児クラスの子どもたちと先生ですね……」
「私が見に行った時にはいなかったので、避難したものだとばかり……」
乳児クラス!?末姫様の時と同じである。
しかも見に行った時はいなかった?
まさか……同一犯?
現場は多くの人が集まり騒然としていた。そして、怒鳴り声が飛び交う。
「水魔法をもっと!!」
「やってるが……なかなか消えない」
「中にまだ人がいるらしい」
「俺も手伝います!」
「私も!」
人魚族は水魔法使いが多いらしく、多くの一般人が消火にあたっている。そして集まった人もどんどん消火活動に加わり、人が増えた分火の勢いは少しずつだが弱まってきていた。
消火活動は大丈夫そうである。後は中にいるかもしれない乳児クラスの子どもたちだけど……。先ほどの会話を信じるなら火の手が上がる前にどこかに連れ去られている可能性が高い。
「あの、乳児クラスの子たちって何人いるんですか?」
俺は逃げて火事を見守っている年配の女性に聞いてみる。
「10人です……後は先生が3人。無事でありますように」
女性は祈るように火災現場を見つめていた。
「あの、どなたか乳児クラスの子の持ち物か先生の持ち物をお持ちの方はいらっしゃいませんか?」
「着のみ着のままで逃げてきたから何も……。それが何か?」
女性は怪訝そうに俺を見る。
しまった、何も伝えずに聞いたら怪しさ満点だよな。
「あの、俺こういう者です」
俺は王家のプレートを見せる。
「……これは王家の!!失礼しました」
プレートの効果は絶大である。……ちょっと水戸黄門ちっくである。
「あの、誰かお持ちじゃないか確認してもらえますか?」
「分かりました」
そう言うと、女性はすぐに先生方に確認に行ってくれ、手に何か持って戻ってきた。
「このおしゃぶりがありました。落ちていたのを拾っていた先生がいて」
「少しお借りしても大丈夫ですか」
「もちろんです。よく分かりませんが、よろしくお願いします」
「できるだけのことはしてみます」
よし。今俺にできることをしよう!!
「グリン!!」
俺は大声でグリンの名を呼ぶ。
数分もしないうちにグリンが俺のもとへやって来た。
「観光中すまないな……。急ぎの用事なんだ」
「キャン!!」
グリンも真剣な表情をする。
「この持ち主の場所を探しているんだ……できるか?」
グリンはくんくん匂いをかぐ。
「キャン!」
一声俺を見て吠えると走り出した。
「エイダンすまない、さっきのように俺を背負ってグリンの後を追ってくれるか?」
エイダンはすぐにしゃがんでくれる。俺が背中につかまるやいなや、エイダンも走り出した。
速い――――!!怖い――――!!
さっきと同じで、激怖だが、背に腹はかえられない。必死で背中にへばりつく。
見る見る景色が変わっていくが、前を走るグリンは何の迷いもなくぐんぐん先に進んでいく。
20分程走るとグリンは足を止めた。それに合わせてエイダンも止まる。
よし、生きてる。ヘロヘロになりながら俺はエイダンの背中から下りた。
目の前にはどこかしらで見たような大きな建物が立っていた。近くを歩いていた人に何の建物か聞いてみる。
「この建物はなんですが?」
「孤児院だよ。昨年できたばかりだからまだ、知らない人も多いが。王家が子どもの対策をとってくれているその一環でミウム伯爵家が主導して作られたんだ。今の王家も伯爵家も民に寄り添ってくれてありがたい」
いろいろ教えてくれた。
「グリン、ここにこのおしゃぶりの持ち主がいるんだな?」
「キャン!!」
尻尾を振って頷くから間違いない。
木を隠すには森の中と言うからな……。乳児を隠す場所としてはうってつけである。乳児が増えても違和感もないし。
だが、思っていたより規模が大きそうである。エイダンとグリンと乗り込んで、万が一乳児を傷つけてしまってもいけないし……一度皆と合流すべきか……。
「グリン、皆をここに連れてきてもらえるか?」
「キャン!」
一吠えすると、またグリンは走り出した。
皆が来るまでに何もありませんように……。




