末姫様のリンゴ 4
「あの、それで今日は俺はどうしたら良いですか?」
俺は客室に案内されてソファーに腰掛ける。
「それが、もともと今日は末姫様に息子の婚約のことで話をしたいと言われて設けた場でな。最初から末姫様は婚約解消の話をしてこられると思う」
……それは俺はいて良い場なのだろうか。
かなり、デリケートで重要な場だぞ。
「それなら別日にした方が良かったのでは?」
ケインのお父さんもそう思ったのか口にだす。
「いや。……これは我が家のわがままなんだが、できれば婚約は継続したくてな。何分馬鹿息子が末姫様以外の女性と結婚するとは考えにくくて……あんな馬鹿でも我が息子。やはり好いた女性と結婚させてやりたい。そのためには婚約解消の理由そのものを無くすしか方法がなくてな……それで無理を言ってスバルくんに来てもらったんだ」
なるほど。話し合いの前に治療する必要があるのか。治れば末姫様も婚約解消する理由がなくなると。
孤児院で火災を恐れずに助けに向かった末姫様。火傷の跡を気に病まれての婚約解消なら、ぜひ治してあげたい。火傷があっても解消したくないという息子さんの想いもあるし。
「分かりました。末姫様にリンゴを渡せば良いんですね」
「ああ。だが、末姫様が素直に治療に応じてくれるかは分からんがな。そこは我らのもっていきようだろう」
昨日息子さんが言われていた、自分だけ治るのはダメだという考えだな。そこは俺も末姫様についてはよく知らないからどう捉えるかは分からない。ま、出たとこ勝負でいくしかないな。
……ヤドリ侯爵、息子さんに厳しいと思っていたけど、やはり息子さんのことをよく理解してるな。これなら謹慎も今の息子さんに必要だったのだろう。
「とにかく、できる限りのことはしてみますね」
「ああ、もちろん私も説得する。あと、末姫様にリンゴを使う許可は王家に取り付けてある。万が一後に副作用がでることも含めて王家としてスバルくんに責任を負わせることはないと一筆書いていただいてあるから、そこは気にしないでくれ。また、残りのリンゴもぜひ王家が引き取りたいとのことだった」
「いろいろありがとうございます」
昨日の話を気にしてくれたんだな。とりあえずこれで気兼ねなくリンゴを使えるな。
後は末姫様を待つのみだ。
トン トン トン
「失礼します。末姫様がいらっしゃいました」
「……いらっしゃったようだな。出迎えてくるので、シェル伯爵とスバルくんはここにいてくれ」
「分かりました」
しばらく待っていると、ヤドリ侯爵の声が扉越しに聞こえてきた。
「今日はまず会っていただきたい人がいます」
「分かりました。こちらでお待ちなんですね」
「はい、それではこちらへ」
これはいらっしゃるな。俺とケインのお父さんはその場で立ち上がる。そしてそのまま頭を下げる。
ガチャ
ドアが開く音がする。
「シェル伯爵と隣国テベルの辺境伯バード家のご子息のスバルくんです」
「ご無沙汰しております」
「お初にお目にかかります」
顔を上げると、仮面越しにこちらを見つめる瞳と目があった。
末姫様は噂に違わぬ輝くばかりの金髪に抜群のプロポーション。仮面をしていてもその美しさは損なわれていないように見える。そして、俺たちを認識すると同じく丁寧なカテーシーを披露された。
「こちらこそお会いできて光栄です。私は王家の末娘でヤヨイと申します。カイト貴方は部屋の外で待機なさい」
「はっ」
人払いをして、扉を閉める。
末姫様見た目は西洋人だけど、名前は前世の日本人風だな。
「王家の恩人にお会いできて光栄です」
末姫様は俺にも腰が低く話される。
「いや、恩人と言われるほどのことは何も……」
「父から悪魔病の治療法を授けていただいたと聞きました。今まで治療法もなくただ、苦しんでなくなっていく患者さんが、助かるかもしれないのです。これほどの恩どうやって返せば良いか分からぬほどです」
いや、本当に前世の知識の受け売りなので気にしないでほしい。オレンジはスカイの力だし。
「とりあえず、末姫様もスバルくんもお座りください」
ヤドリ侯爵が声をかけてくれる。その言葉に従いソファーに腰掛けた。
「ところで、ギリアン様は?」
「息子でしたら、自室におります。この話を終えてから必要であれば呼びに行くつもりです」
必要であれば、というのがミソだな。
「それで私にお話とは何のことでしょう?」
末姫様が単刀直入に聞いてくる。
さて、ここからが勝負だ。
なんとか食べてもらう方向に話をすすめないと。




