末姫様のリンゴ 反省会
「お前はいったい何をしに行ったんだ!」
侯爵家に戻って部屋に2人きりになったところでユウクはキリアンを叱りつけた。
「ですが……末姫様のためです」
「理由がどうであれ、くれぐれも失礼のないようにと伝えていただろう」
「……ですが、所詮は隣国の辺境伯家次男でしょう。後見人も伯爵家ですし……」
「身分でのみ人を判断するなど、愚か者のやることだぞ」
「……ですが」
「くどい!!……末姫様のためにもこの婚約は白紙に戻す方が良いかもしれん」
ユウクは大きなため息をついた。
「父上、何を馬鹿なことを……」
「馬鹿なのはお前だ!!……はっきり伝えなかった私も悪いが、そんなにお前が考えなしだとは思わなかった」
「……私だって考えたうえでの発言です!」
「ならばなぜ、薬を自分が全て管理しようとしたのだ」
「だから、末姫様のことを思えばこそです。あの方は優しすぎる……きっと自分だけ治ることは望まれません」
「だが、貴重な薬を全て前回の火災の被害者にあてるなど、誰が聞いてもおかしいだろう。火傷の程度も様々、火傷の場所も様々なはずだ。もっと必要としている人間がいるとは思わんのか?」
「末姫様の御身のためなら些末なことです」
キリアンはきっぱりと言い切った。
「……キリアン。お前この幸運を手放す気か?」
ユウクは眉間を押さえながら、話を続ける。
「どういう意味ですか?」
「スバルくんは家のプレート、コンフ侯爵家のプレート、海蛇様の鱗まで持っている。それもどれも感謝の思いから渡されてな」
「家だけでなくコンフ侯爵、海蛇様の鱗も持っているんですか!」
「ああ、極めつけは王家のプレートだ。……スバルくんは悪魔病の治療薬も見つけてくれてな。その恩に少しでも報いるために王家が授けたものだ」
「悪魔病の治療薬も……」
「それも全て無償で行なっている。これがどういうことか分かるか?」
「…………」
「お前の末姫様を想う気持ちを否定する気はない。だが私欲のみで動くと、おそらく天に見放されるぞ。スバルくんは人が良い。だが、その人の良さも両刃の剣だ。だから、スバルくんの周りには彼を慕うものが集り、おそらく彼に仇なす者には容赦はせんだろう。……それにあれだけの能力、おそらく何らかの加護を授かっているに違いない。お前の不用意な言葉で我が侯爵家にも何らかの罰が下るかもしれん」
「……そんな……」
「まあ、スバルくんは人が良いからな……。今回の話もお前の末姫様を想う気持ちからと言ってくださっておる。……だがな、お前がわしの跡を継ぐにはその偏った見方を直さんと難しい。身分ではなく人を見て判断する力を身に付けんとな」
「…………」
「お前はしばらく自分自身を見つめなおずためにも謹慎しておれ。末姫様の件ではわしが動こう」
「……分かりました」
「ああ、しっかり考えろ……話は以上だ」
ヤドリ家の反省会はそうして幕を閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇
深夜、シェル伯爵家の私室。
シェル伯爵はヤドリ侯爵と通信球で話をしていた。
「すまなかったな。あの後フォローは入れてくれたのか?」
「はい。と言っても侯爵家のためではなくスバルくんのためですが……かなり悩ませていましたよ」
「すまない。家の馬鹿息子のせいで……」
「まあ、スバルくんにとっても自分がもたらす物の価値を知ることは大切ですから、そういう意味では良かったのかもしれません」
「彼は自分の価値をあまり理解しておらんからな……」
「はい。それと、息子さんのことも末姫様を想う気持ちからだから理解できるとも言ってくれていました」
「……そうか」
「それで、侯爵様はあの後どうされたんですか?」
「帰って息子と話をした。ヤツの視野の狭さに今まで気づけなかったのが悔やまれる。とりあえず、自分で考えさせるためにしばらくは謹慎処分にした。これでヤツが変わってくれると良いのだが……」
「子育てはこちらが思うようにはいきませんね……。家もケインを筆頭に頭を悩ませることばかりです」
「ああ、だが泣き言は言っておれんからな」
「……そうですね。それで、末姫様の件はどういたしましょうか?」
「実は別件で明日末姫様が家に来る予定にもともとなっておってな。そこで治療薬の件も話をしようと思うのだがどうだろうか?」
「スバルくんに聞いてみなければ分かりませんがおそらく大丈夫だと思います」
「分かった。では、また確認の上連絡を頼む」
「承知しました」
「シェル伯爵、いろいろ迷惑をかけてすまない。また、よろしく頼む」
「いえ、それでは失礼します」
こうして二人の親の反省会幕を閉じた。




