王城 2
「ふむ。私が話す前に少し茶でも飲もう。王妃入れてくれるか?皆も楽にせよ。ここからは無礼講で構わん」
「はい、かしこまりました」
王妃様は慣れた手つきでテーブルに用意してあった、カップにお茶を注ぐ。お茶はどちらかというと紅茶ではなく日本茶よりのお茶をふるまってくださった。
一口飲むと、口の中に程よい甘さが広がった。
体が温まり自然と体の力が抜ける。
緊張していた空気が緩むのが分かった。
「皆様、どうぞお菓子もお召し上がりください」
王妃様がどこかに用意してあったお菓子も皆の前に置いてくださる。
「ヤドリ侯爵家自慢のプリンには負けるかもしれんが、これもなかなか美味だぞ。杏仁豆腐というらしい」
杏仁豆腐!?
確かに目の前の小皿にはあの白いプルンとした物体がのっている。
「遠慮なく食べてくれ」
王様の勧めに従いスプーンですくって口に入れる。
美味い!!前世と同じ優しい味がする。
そのままスプーンを口に何度も運び、あっという間に完食した。
「どうだ?なかなかであろう?」
皆の食べっぷりを見ながら、王様も満足そうである。
「ところで陛下、今回の件、もともと無条件で受け入れるつもりだったとはどういうことですか?」
ケインのお父さんが皆の気持ちを代弁して聞いてくれる。
「ふむ。それを答える前に私も聞いてもよいか?コンフ侯爵とヤドリ侯爵はなぜ後ろ盾を引き受けたんだ?」
「実は……そこにおります、スバルくんの護衛に我が娘の命を助けていただきまして、そのお礼代わりに引き受けました」
ヤドリ侯爵が答える。
「私も、妹と息子がクラーケンに襲われていたのをスバルくんたちに助けていただき、そのお礼を兼ねて引き受けました」
続けてコンフ侯爵も答えた。
自分はほとんど何もしていないのに、こうして名前を呼ばれるとなんだか居心地悪さを感じる。俺は主なだけです……。
「……なるほどな、ちなみにスバルよ。お主海蛇様の鱗も持っているのではないか?」
これは俺がしゃべってよい流れだな。
「はい、もらったのは私のテイムモンスターですが。今は私が持っております」
これも俺じゃなくて、スカイだもんな。
「やはりそうか……実はな先日珍しく神殿から連絡が来て、神託が下ったと言ってきてな」
「「「神託!?」」」
……もしや、死神か?
「ああ、『海蛇の鱗を持つ者の願いを叶えよ、さすれば幸いもたらされん』とな」
……なんかスケールがデカくなってるけど、おそらく海蛇様の子どもを助けたことのお礼なんだろうな……でも幸いはもたらせないぞ。
「それで、我が王家の影を使って調べたところそこのスバルが持ち主で、しかもシェル伯爵家の関係者と分かってな。おまけににシェル伯爵家からは奏上したい旨があると連絡が来ておったし……これだと思って待っていたわけだ」
死神……ありがたいができたら俺に前もって連絡を……っていうかあまり神殿に行けていない俺が悪いのか……。またお礼をかねて行かないとな。
「あの……ですが、幸いをもたらす力などは持っておりませんが……」
そう。そこが引っかかる。なんか詐欺みたいだしな……。
「いえ、スバル様はもう幸いをもたらしてくれております」
俺を見て王妃様が微笑む。
「確かに」
「そうだな」
「うむ」
侯爵様やケインのお父さんお祖父さんも頷く。
えっ?俺、何かした?
「悪魔病だ。お主悪魔病の治療方法を医者やそこの伯爵や侯爵に伝えただろう。そのおかげで我が国で不治の病とされていた悪魔病が治る可能性がでてきた。今、悪魔病の患者にオレンジを食べさせているが副作用もなく回復傾向にあると報告が来ておる」
いや……それも前世の知識……。オレンジはスカイの能力。俺がもたらした幸いじゃないような……どちらかというと、スカイがもたらした幸い?
「そなたは我が国で聖人認定されることが決まっておる」
「聖人認定?」
いや、それは勘弁願いたい……。
「あの……実はオレンジも悪魔病のことも俺自身ではなく人から聞いたものを俺が代弁しているだけで、聖人認定は遠慮させていただけたらと思うのですが……」
冷や汗がダラダラでてくる。聖人……ムリムリムリ。残念ながら俺に主人公気質は備わっていない。
「ははははは、聞いていた通り欲がないな。ま、そういうだろうと思って、聖人認定はここだけの話にするつもりだ。世間にはある聖人が悪魔病の治療法をもたらしたとだけ伝え、その代価として家門の件の解決を願われたことにするつもりだ」
なるほど。それなら王家も批判をあびることがないな。
「だが、本当に対価はいらないのか?望むなら何でも用意させるぞ」
王様は太っ腹な発言をしてくださる。
欲しい物か……特に今は困ってないしな。
そうか……それなら……。
「もし、今後何か困ったことがあった時相談しても構いませんか?」
これだ!!
何かあった時に王様が味方なら怖いものなしである。
「もちろんだ。そもそもそなたには王家のプレートも渡すつもりだったから、もし何かあればいつでも言ってくれ……そなたがもたらした知識はそれほど我が国にとってはかけがえのないものだ。我が国を代表して改めて礼を言おう。本当にありがとう」




