海蛇様
さて、ヤドリ侯爵家、コンフ侯爵家当主にケインのお父さんに連絡をとってもらいそれぞれの王都にある別宅で会うことになった。ちなみに自分のことなのでとケインのお祖父さんとセリン嬢も一緒である。
なんと王都はシャクヤ侯爵家の隣にあり、海中タクシーで3時間程だそうだ。朝食を食べ準備する。皆でタクシーに乗り込み、王都へ出発した。
「皆様、王都は初めてですか?」
「はい」
「というか、このアクア国に来るのも実は初めてです」
「それでしたら、またゆっくり観光に回られると良いですわ」
「……あの、何かおすすめの食べ物はありますか?」
食いしん坊のハイドが聞く。
「そうですわね。最近王都ではゼリーフィッシュのゼリーが人気らしいですわ!あとは定番の海鮮丼もおすすめです」
聞いただけでもかなり食べてみたい!!
「ゼリーフィッシュに海鮮丼か……頼んで連れて行ってもらいます!」
実はハイドはやはり侯爵家への訪問は遠慮したいとのことだったので、家のテイムモンスターとともに、ケインのお父さんがつけてくれた護衛の方に王都の観光案内をしてもらうことになっていた。
本音を言うと俺も正直そっちに行きたかった。また、何日か滞在するなら連れて行ってもらおう。
窓の外を眺めていると、護衛の方が動き出し急に慌ただしい雰囲気に変わる。
「何事だ」
代表して、ケインのお祖父さんが尋ねる。
「……それが、滅多にこちらに姿を現さない海蛇様がいらっしゃっているようで……それもなぜか道の真ん中に横たわっていらっしゃるらしく……」
「何?」
ケインのお祖父さんと護衛さんの会話を聞きながら、小声でケインに確認する。
「……海蛇様って?」
「この海域でおそらく一番強いモンスターです。基本的に性格は温厚でこちらが手を出さない限り自分の縄張りからは出てこないのですが……どうしたんだろう?」
海蛇様と様付けで呼ぶことから、かなり人間にも友好的なモンスターなんだろうな。
「侯爵家の守り神とも言われています。海蛇様がいらっしゃるおかげで、モンスターも人の街におりて来れないので」
セリン嬢が付け足す。
「エサとなるモンスターが減ったなどは」
「特には聞いておりません」
「何か領民が気にさわるようなことをしでかしたのか……とりあえず、現場まで進めろ」
「はっ!」
ということで、行けるところまでタクシーをすすめる。
「……これ以上は進めません」
「分かった、降りてわしが対応しよう」
そう言って、ケインのお祖父さんが1人でタクシーを降りる。慌てて、俺も声をかけた。
「あの、家のテイムモンスターがもしかしたら海蛇様と話せるかもしれません。とりあえず、一緒に行っても良いですか」
スカイ、ぺぺ、グリンを見ると既にタクシーを降り、準備万端である。本当に家の子たちは賢いよな。
「それはありがたいが……危険は無いとは言えんぞ」
「大丈夫です。エイダンも来てくれるか?」
エイダンもこくりと頷く。
「では、行くぞ」
「はい!」「キュウ!」「ぺぺ!」「キャン!」
ケインのお祖父さんについて歩いていく。
遠目にも何か巨大な物体が道の真を塞いでいるのが分かる。
近づくとその巨大さに息をのんだ。形は自分が前世で見たことがあるウツボに似ている。ただ大きさが5メートルほどと巨大でかなり威圧感がある。といっても牙を剥いているわけではなく、ただ、そこにじっと留まっている。
少し離れたとにころに人が集り不安げに海蛇様を見つめている。
ケインのお祖父さんは臆することなく歩み寄り、大声で叫んだ。
「我が名はテイタン=シェル。海蛇様、何用でここにいらっしゃる?」
シーン
海蛇様は全くこちらを気にする素振りもなく、ただただそこから動かない。
「あの、上手くいくかは分かりませんがスカイに頼んでみます。スカイ、行けるか?」
「キュウ!!」
スカイが海蛇様の元に向かう。
「キュウ!キュ、キュウ!!」
おっ、海蛇様がスカイの方を向いた。
「シュー、シュ、シュー」
「キュウキュウ、キュ、キュウ?」
「シュー」
「キュ!」
スカイが、金の桃とゴールデンオレンジを取り出す。
海蛇様がスカイに向かって大きな口を開ける。
「スカイ!!」
俺は近寄ろうとするが、ぺぺとグリンが俺を止めた。
「ぺぺ!」「キャン!」
2匹の様子を見ると行かない方が良いんだな……。
スカイの姿が海蛇様で見えなくなったが、海蛇様が顔を上げるとスカイの無事な姿が見えた。
スカイの手から金の桃とゴールデンオレンジが消えているので、どうやら口の中に入ったらしい。
「シュー」
海蛇様がスカイに頭を下げる。そして、そのまま空へと上がり泳いで行った。




