4人寄れば文殊の知恵
「それにしても、セリン嬢めちゃめちゃ可愛いし、ケインのことも考えてくれる良い子じゃん」
ハイドが呟く。
……だよな。普通、今の状況ならケインのお祖父さんに乗っかって、仮結婚を押す方が得なのにそれをしないなんてかなり人柄も良さそう。
「俺達のことも知ってたし、手紙のやりとりも結構やってたのか?」
「はい。婚約してから定期的に手紙のやりとりを行っています。僕の冒険者の話も嫌がらずに読んでくれて毎回返事もくれます」
いや、かなりできた婚約者だな。
「……だからこそ困ってるんです。正直僕には荷が重すぎます」
ケインは俯いてため息を吐く。
その気持ちも分からなくはない。
可愛いくて、性格も良くて、家柄も良い。
欠点がない方がかえって自分と比べてしまうこともあるからな。
「それに……前にも話した通り、彼女のことが怖いんです。生理的に難しくて……」
「種族性って言ってたやつだな」
カツオとサメが結婚。確かに昔は不可能だっただろうな。
「それは克服できないのか?」
「……分かりません。ただ、今の僕には難しいです」
じゃあ、やっぱり婚約解消を考えるべきか……。
「なぁ、ケインはセリン嬢のことをどう思ってるんだ?」
ハイドが突っ込む。
確かに。解消したい理由の中に、ケインの彼女に対する気持ちが入っていない。
「……嫌いじゃありません。どちらかといえば好ましく思っています」
あれ?思ってた反応と違う。
ケインもしかして……
あれだけ可愛いし、なんかケインのことも彼女嫌いじゃなさそうだったしな。
「じゃあ、とりあえず婚約したままでも良いんじゃね?」
「いや、それだと仮結婚しなくてはいけなくなりますし……」
「いや、婚約と仮結婚は別でしょ?そもそも仮結婚の話がなければケイン婚約を続けてたんじゃね?」
「……それは」
ハイドが鋭い。
「真面目なケインのことだから、本当に嫌ならもっと前に解消してるだろ?それをしてないってことは、ケインも彼女に気があるんだと思うぞ。冒険者になって力をつけたら結婚しても良いって考えてたんじゃね?」
「……否定はしません。でも、今の状況では無理です」
俺は全然気がつかなかった……。ハイドすごいな。
「だから、とにかく婚約のままが続いたら良いんだろ?」
「そうですが……その方法が無くて……」
「スバルが何とかしてくれるって!な、スバル!!」
「えっと……」
ハイド急に無茶振りしてきたな。
いや、どうしよう?
「……使えないか?」
黙って聞いていた、エイダンが金のプレートを取り出す。
「確か、今2枚持っているんだよな……」
ヤドリ侯爵家とコンフ侯爵家。
「そういや、この国の侯爵家っていくつあるんだ?」
「3つです。ヤドリ侯爵家とコンフ侯爵家、それにセリン嬢のシャクヤ侯爵家です。」
「3つのプレート集めたら王に直訴できないかな?」
「……聞いたことがありません。そもそもプレートはその侯爵家に有効な物ですし……」
「いや、3侯が賛同してセリン嬢の後見人としてケインのお祖父様を推したらどうだろう?このプレートで王に直訴する際の味方になってもらったら?」
「誰もやったことはありませんから何とも言えませんが……やってみる価値はあると思います」
「よし!じゃあこの案をお祖父様とセリン嬢に提案しよう!!」
よし。とりあえずの案は出たぞ!!
「なあ、ところでなんでケインのじいちゃんあんなにセリン嬢推しなんだ?」
またも、ハイドが突っ込む。
「……それが、セリン嬢のお祖父様と親友で婚約の約束をしたからというのもありますが、どうやらセリン嬢のお祖母様が初恋の人らしく、しかもセリン嬢がその方にそっくりだそうで……」
「自分が果たせなかった恋を、孫に叶えてもらおうと?」
ケインがこくりと頷く。
「……おそらく。ですので、今もセリン嬢からは何も言われていないのに勝手にやって来て領地経営を手伝ってるんです」
「頼まれたんじゃないの?」
「自主的にやっているだけです」
なるほど。でもケインには悪いけど脳筋ぽかったけどお祖父様が後見人で大丈夫なのか?
「なあ、ケイン、お祖父様で大丈夫なのか?」
少し失礼だが確認しておかないとな。
「はい。あんな見た目と言動ですが、かなり頭は切れる方で領地経営においては問題ないかと」
そうなんだな。ま、ケインが言うなら間違いないだろう。
「とりあえず、方針は決まったな。ケインのお祖父様をセリン嬢の後見人として認めてもらうように王様に頼もう!その際にこのプレートの侯爵家に味方になってもらう。とにかくこれで提案してみよう!!」
「「了解!」」こくり
やはり、4人寄れば文殊の知恵だな。
とりあえず第一関門のケインのお祖父様を説得できますように。




