クラーケン襲来 2
部屋の中には布団が敷いてあり、乳幼児の子どもたち10数人ほどが横になっていた。そのお世話をする大人の人が3人程いる。
いつもと違う場所だからか、大人の緊張を感じ取ったからか泣いている子たちが多い。だが、明らかに大人の手が足らず、子どもたちは泣き続けていた。
扉を開けた俺と目が合った大人の方が近づいてくる
「……あの、どちら様でしょうか?」
訝しげな目で見られてしまった。
「実は逃げる最中にこちらにまだ逃げ遅れてる方がいらっしゃると聞き、確認のため来ました」
スカイにだけど。
「ありがとうございます。見ての通り子どもたちがいるのですが何分大人の手が足らず避難は難しいと思っていたんです。……ですのでこちらで皆で集まっていたのですが……」
確かに3人で全員を避難させるのは難しいだろうな。しかも療養中の子たちだし。前世の保育所で見た手押しカートみたいな物があれば良いんだろうけど。
「……ここだったらクラーケンに耐えられるか?」
俺はこっそりケインに確認する。
「……難しいでしょう」
そうか。それなら逃げる方法を考えないと。
「ここから移動したら症状が悪化しますか?」
「いえ、悪魔病は特に治療薬もありませんので、こちらで様子を見ているだけですから大丈夫です」
それなら手分けして避難するか……。
「じゃあ、俺たちも手伝うので皆で逃げましょう!」
大人の人たちは1人ずつ、3人抱えられるとして、あと10人か。
「エイダン、4人いけるか?」
エイダンがこくりと頷く。
「ケインとハイドは1人ずつ」
「「了解」」
俺も1人抱えられるから、あと3人。
「ぺぺ!」
ぺぺが手を挙げる。
確かにぺぺは力持ちだから3人でも余裕だろうけど、問題はぺぺが小さいってことだよな。何か3人が入る物があれば良いんだけど……。
箱か……何か使えそうな物は……。
俺はその場を見渡す。
あれは……
「あのベビーベッド使っても大丈夫ですか?」
「はい、構いませんが……」
よし。……でも足が邪魔だな。
「また、弁償しますので足を壊しても大丈夫ですか?」
「はい、弁償もしなくて大丈夫です!」
「エイダン、足を切れるか」
エイダンはこくりと頷くと、一瞬でベビーベッドの足を切断する。鮮やかな手際である。
「このベビーベッドに3人乗ってもらうんですが、自分から落ちない子を選んでもらって良いですか?」
大人の人に、3人ベビーベッドに乗せてもらい、後は1人ずつ抱えていく。
と、泣き叫ぶせいでなかなか上手く抱えられない。
何か手はないか。
「スカイ、子どもたちにオレンジを配ってくれ!!」
「キュウ!」
スカイは早速オレンジを配っていく。
物で機嫌がマシになると良いんだけど。
子どもたちはオレンジを手に取ると、嘘のように泣きやんだ。
あれ……死神、何か効果追加してくれた?
ま、とにかく抱えられるようになったのは良いことだ。俺たちは無事に1人ずつ抱えることができた。……エイダンは両手に2人ずつだけど。
ぺぺもよいしょと軽々とベビーベッドを持ち上げる。
ベビーベッドの子たちも落ち着いている。大丈夫そうだな。
「よし、準備完了。逃げよう」
「「了解」」「「「はい」」」「ぺぺ!」
皆で一斉に部屋から外へ走る。
あらかた皆の避難が終わったのか、外は人気がなくなっていた。
「確か真っ直ぐ、急ごう!!」
とにかく全力で走る。
五分くらい走り続けると、大人の人の足どりが重くなってきた。俺たちは以外と体力があるので大丈夫だが、普通はそうだよな。
「スカイ、大人の人にオレンジを食べさせてあげて」
オレンジで体力を回復してもらい、あと五分頑張ってもらおう。確か、仲居さんが10分くらいと言っていたからあと半分のはず。
「この、オレンジすごいですね。ありがとうございます!!」
スカイのオレンジを食べてもらうと、また体力が復活したようで足どりが元に戻った。
「あれだ!!」
ハイドが指さす。確かに詰所らしき物が見えてきた。ゴールはあと少し。子どもたちも何とかぐずらずにもっている。あと50メートル!!
「……来る」
エイダンが声を上げると同時に後でドンと大きな音がした。振り返るとメンダコを巨大にした生き物がいくつかの家を踏み潰していた。手負いなのか、血が流れているがまだまだ元気そうである。
騎士団や護衛の姿は見えない。
クラーケンが逃げてきたのか。
イライラしているのか。触手でバシバシと家を粉々にしている。
「「「「「うぇーん」」」」」
子どもたちが一斉に泣き始めた。
いや、怖いよな。
でも、その結果クラーケンにこちらのことが気づかれたようである。振り返り、こちら側に正面を向ける。
そして目が合う。
クラーケンの目が血走ってる。
これはもしや、ヤバい展開?




