人魚族の街 シエル(出発!)
「エイダン、絞ってくれるか?」
絞り器などが見当たらなかったので、エイダンに頼んでスカイの普通のオレンジの方を絞ってもらう。(ちなみに手で握り潰してもらいました……)それを器に入れてケインのお母さんに渡した。
「……飲めると良いのですが」
魚しか受け付けないと言っていたけど、どうだろう。
ケインのお母さんはグズグズ言っているミーヤちゃんの口に持っていく。スカイのオレンジは甘いから飲めれますように……。
固唾を飲んで見守っていると、無事にミーヤちゃんがゴクンと一口飲むことができた。その後、おいしかったのかごくごく飲みすすめる。
「……ちい」
良かった。とりあえず飲むことはできた。
「確か、すぐには変化が見られないけど毎日欠かさず飲めば回復すると書いていました。あと、海藻類も効果があると書いてたはずです」
今はまだミーヤちゃんに変化は見られないが、おそらく毎日飲めば元気になるはず。
「……残念ながら他の薬はありません。治る可能性にかけてやってみましょう」
先生も賛同してくれたので、俺はケインのお母さんにオレンジを大量に渡す。
「これを使ってください」
「……こんなに!!……このお礼はまた、必ず」
ケインのお母さんとお父さんが深々頭を下げる。
「いえ、上手くいくかは分かりませんが……上手くいくことを願っています」
万が一のときはゴールデンオレンジもあるしな。
「……あの、少しよろしいでしょうか?」
先生が俺の方に向き直る。
「はい。なんでしょう?」
なんだろう?
「そのオレンジをあるだけ私に売っていただけませんか?同じ症状のお子さんに試してみたいんです。……私も食に原因があるのではと、いろいろ食べさせようとしたのですが美味しくないのか全く食べてもらえず……このオレンジなら上手くいくかもしれないと思いまして……」
乳児にご飯食べさすのは一苦労だからな。
「良いですよ。あと、今回は効くかどうか分からないので無料で大丈夫です。もし効果が確認できたら、また辺境伯家で売り出しますので購入してください」
もし、壊血病で苦しんでいる子がいるなら役立ててもらいたい。効果が確認できたら安価でこの国に卸そう。
「ありがとうございます!!」
俺は今あるだけ全てのオレンジを先生に渡した。先生はさっそく試してみると、足早に部屋を立ち去った。残された俺たちも部屋から出て、最初に案内された部屋に入った。
「スバルくんありがとうございます」
ケインも深々頭を下げてきた。
「いや、お礼ならスカイに」
スカイがいたから何とかなったからな。
「スカイ、本当にありがとう!!」
「キュウ!」
スカイも自分のオレンジが役に立って嬉しそうである。
「ケイン、あの場では言えなかったけど、万が一オレンジでダメなら別の方法もあるから遠慮なくまたミーヤちゃんの状態を教えてほしい」
「分かりました。本当にありがとうございます」
ケインはもう一度丁寧に頭を下げてきた。
「さ、時間がおしてしまった。出発するぞ」
ケインのお父さんが部屋を覗いて声を掛ける。準備が整ったらしい。
「「「はい!」」」「キュウ」「ぺぺ」「キャン」
俺たちはまた海中タクシーに乗り込んだ。
「それにしても、スバルくんはすごいな」
窓の外を覗いているとケインのお父さんに話しかけられる。
「何がですか?」
「いや、若いのにいろいろなことを知っていると思って。今回の娘の件でも、スバルくんが本を読んでいなかったら試してみることさえできなかったからな」
前世の知識でずるしてるだけなんです……とは言えず。
「たまたま読んだ本に書かれていたのを覚えていただけで、そんなにたくさん知識はないですし、偏りもあるんで」
「そうか……。それなら私たちは幸いだったな」
なんとか誤魔化せたかな。
正直勉強はそこまでできないからな。知識不足がどこかで露呈しそうで怖いぞ。
「スバルのは、どっちかっていうとヒラメキがすごいと思うぞ、俺の風魔法でもいろいろな使い方を教えてくれたしな」
「はい。後は幸運もあると思います。スバルくんと一緒にいるといろいろハプニングは起こるんですが、最後は必ず良い結果になっているので」
「……そうかな」
いや。やっぱり死神の加護のおかげかもな。
「そうか、幸運か。望んでもなかなか手に入らないものだからな……今回ケインが一緒に来てほしいと頼んだのも頷ける。その幸運パワーでケインの仮結婚の話もなんとかなると良いのだがな……」
3人寄れば文殊の知恵とも言うしな……。皆で何か打開策を考えられたら良いのだが……。
「どのくらいかかるんですか?」
薄暗い景色が続いているので、少し飽きてきたハイドが聞く。
「1日くらいだが夜は途中の町で宿泊予定なので、もう少しかかると思う」
今回はタクシー泊じゃないんだな。
馬車のように盗賊など何もトラブルが起こりませんように……。(決してフラグではありません)




