人魚族の街 シェル 1
ついにやって来ました。
人魚族の街シェル。色鮮やかなネオンが光り、どことなく夜の街を連想してしまったけどごく一般的な大規模の街らしい。
人族の足よりも人魚族のヒレで歩く人の方が多いことからも、他国に来たんだなと実感する。といっても足で歩く人も結構見かけるため、特に俺たちが目立つこともなかった。
「とりあえず、私の家にご案内します」
見るもの全てが目新しくて、完全におのぼりさん状態だが、とりあえず本筋のケインの家に行かなければな。
ケインに先導されて歩くこと20分。一際大きな建物が見えてきた。4階建てのホテルのような外観で、特に塀などで囲ってはいない。玄関の前に槍を持った人魚族が二人立っている。
「ここが僕の家です」
他の建物に比べてとにかくデカい。ケインはためらうことなく玄関へと進む。
「父上にケインが帰ってきたと伝えてくれる?」
「ケイン様!!」
「ケイン様がお帰りになられたぞ!旦那様にお伝えしろ!!」
ケインが帰ったとわかるやいなや、慌ただしく室内に入っていく。
「お客様がいらっしゃるというのに……礼儀が行き届いておらず大変失礼しました。どうぞお入りください」
執事さんがドアを開けてくれる。
ケインを先頭に中に入る。室内も高級ホテルのような内装である。
「ケイン!よく戻った」
2階からよく響く声とともに、1人の男性が下りてきた。人魚族らしく足はヒレだが、ケインによく似た水色の髪に青い瞳、おそらくこの人がケインのお父さんだな。
「……帰りました」
ケインはやはり帰りたく無かったのか、声も小さい。
「あら、ケインちゃんこちらの方たちは?」
もう1人器用にヒレを使って2階から下りてきた。ピンクの髪に水色の瞳。かなりの美人さんである。若く見えるけど……
「母上、こちらは地上でお世話になっているチームメイトです」
「スバル=クリスチャン=バードと申します。辺境伯バード家の次男でケインくんのチームメイトです」
「ハイドです。獣人族の平民でケインのチームメイトです」
「エイダン。スバルの護衛。ケインのチームメイト」
「キュウ!」「ぺぺ!」「キャン!」
「なに、この子たちは!?とっても可愛らしいんだけど……この子たちがケインちゃんが話してくれたテイムモンスター?」
ケインのお母さんはさっそくスカイたちに釘付けである。
「ケインからいつも話を聞いております。ようこそ人魚族の国アクアへ。私はケインの父親でこの街シェルの領主を務めております、ダミアンと申します」
ケインのお父さんが笑顔で話しかけてくれる。良かった、急な訪問だけど歓迎してもらえるようである。
「私はケインちゃんの母親でマイヤです。いつもケインちゃんがお世話になっております。自分の家と思って滞在してくださいね」
ケインのお母さんはやはり3匹に釘付けである。触りたそうに手をもじもじさせている。
「……マイヤ様、良かったら家の子たちを触りますか?」
「良いの!!」
「大丈夫だよな?」
「キュウ」「ぺぺ」「キャン」
3匹とも許可が出たので、マイヤ様に3匹を差し出す。
「うわぁ――!!もふもふね。手触りが良いわ」
3匹とも種族は違うけれど、モフモフさ加減は同じだからな。マイヤ様も幸せそうに微笑んでいる。
「マイヤ、その辺にしておきなさい。……本来ならゆっくりおもてなしをするべきところですが、すぐにケインを連れて行かなければなならない場所があって……」
「ケインくんの婚約者のところですか?」
「……ご存知でしたか。もう猶予があまりなく……」
「結婚は絶対にしないからね!!」
「ケイン!!」
間髪入れずケインが答えるが、ケインのお父さんから鋭い声で名前を呼ばれる。
「父上には悪いけれど、なんと言われようとも無理なものは無理だから」
「……分かっている。だが話し合わねばそれこそ父上が強硬手段に出かねんぞ」
どうやらケインのお父さんもケインの気持ちを分かってくれているらしい。
「あら、ケインちゃん。いざとなれば籍を抜けば良いのよ。平民になっても家族でいられるんだから」
「マイヤ!!」
ケインのお母さんもどうやらケインの気持ちに沿ってくれるらしい。ただ、提案された方法は少し、いや、かなり過激だが。
「……そうですね。平民か。いざとなればそれでいきましょう」
「ケイン!!」
ケインのお父さんは平民になることに反対のようだ。とにかく婚約者に会って良い解決策が見つかると良いけど。
「あの、俺たちも良かったら付いていって良いですか?みんなで考えれば何か良い案が思いつくかもしれませんし……」
俺の言葉にケインのお父さんは思案しているようである。ま、普通は身内の話に部外者が入るのは望ましくないよな。
「スバルたちが一緒じゃなきゃ行かないから」
ケインがダメ押しをする。
「……分かった、皆で行こう」




