人魚族の国へGO 2(馬車にて)
ケインの馬車には大きな窓もついていて、スカイ、ぺぺ、グリンは外の景色を楽しそうに眺めている。
そういや俺、初めて自分の領地から出るんだよな。
「ハイドは領地の外に出たことあるのか?」
「いや、初めてだ。だから正直わくわくしてる」
「いや、ケインには悪いけど俺も一緒!」
「いえ、せっかくなので楽しんでもらえるほうが良いです」
この感じ、前世の修学旅行みたいだよな。お目付役に執事さんがいてみんなでわいわい言いながら、目的地に行く感じ。
「そういやケインはカツオがルーツなんだろ?」
「はい」
「他のヤツのルーツも見れば分かるのか?ちなみに獣人族は鼻が良いから、だいたい何の動物か分かるぞ」
「僕も先祖返りで感覚が鋭いため分かることが多いです。ただ、普通のサメをルーツにもつ方には特に何とも思いません。相手も先祖返りしている方のみ、その気配が強くてだめなんです」
「……そうか。なかなか難しいんだな。獣人族なんかで先祖返りは能力が強いからみんなに一目置かれるのに」
「人魚族でも同じです。ただ僕は珍しく人族の血も現れてしまったので、どっちつかずになってしまいましたが……」
「でも今不自由なく暮らせてるんだろ?だったら良いんじゃね」
「はい。僕も今の暮らしが楽しくて……だから何とか断りたいんです。……彼女以外にも先祖返りの方がいたら、おびえてしまうかもしれません。そんな状態では社交なんてきっと難しいと思うんです」
ケインもよくよく考えてのことなんだな。
「そういや、家の母が人魚族は王様に直接お願いできることがあるって言ってたぞ。それは使えないのか?」
「あるにはあるんですが何か顕著な功績がないと無理です」
そりゃあそうか。難しいな。
「ま、行ってみたらなんとかなるだろう。な、昼食はどこで食べるんだ?」
「辺境伯家の外れの方に、小さな町があるんですがそこで食べる予定です」
「ケインは行ったことがあるの?」
「はい、いつも実家に帰る時はそこで食べるので」
「おすすめ料理は?」
「シチューが美味しいです!お肉をトロトロに煮込んであって」
そんな話をしていたらお腹が空いてきたな。
「ケインあとどのくらいで昼食?」
「ゼン、どのくらいかかりそう?」
「あと1時間ほどです」
御者席から返事が返ってくる。執事さんはゼンさんと言うんだな。
「……止まれ」
急にエイダンの鋭い声が響き、その合図で馬車が止まった。
「急にどうしたんだ?モンスターか?」
エイダンが馬車を止めるなど何かあったに決まっている。
「……馬車、襲われてる」
「どこだ?」
目の前にはだだっ広い道しか見えない。
「……もう少し前」
今は見えないけど、もう少し進んだら遭遇するんだな。って、流暢に構えてたらだめだな。
「エイダン助けられそうか?」
エイダンがこくりと頷く。
「ぺぺ、グリン、念のためにエイダンと一緒に助けに行ってくれるか?」
「ぺぺ!」「キャン!」
「……俺たちは足手まといにならないように、しばらくここで待機で」
「「了解」」
「エイダン、ぺぺ、グリン頼んだ」
その言葉を聞くやいなや、3人ともに馬車を飛び出し前へ走っていく。
詳しく分からないけれど、誰も死んでいませんように……。
しばらく、待機していると3人が戻ってきた。
「無事、終わった」
「ぺぺ!」「キャン!」
「怪我は?」
「みんなない」
良かった。3人とも元気そうである。
「相手の馬車に怪我人は?」
「……いた。だから、桃をあげた。まずかったか?」
エイダンが心配そうにこちらを見る。
「いや、怪我人がいたら手当をするのが当然だ。よくやったなエイダン」
俺がそう告げると、エイダンはどことなく嬉しそうな顔をした。
「そういや、何に襲われてたんだ?」
「……盗賊」
なんと人間!!
「そいつらは?」
「連れて行ってもらった」
良かった。後始末も人なら大変そうだからな。
「それで、その馬車は?」
「……急ぐから、先に行った」
よし、それじゃあ俺たちも出発してよさそうだな。
「3人ともありがとう!じゃあ、出発しようか」
「ぺぺ!」「キャン!」こくり
少し時間がとられてしまったけど安心安全が第一だからな。執事さんが馬に指示を出し、馬車が動き出す。
「エイダン、ありがとうな」
もう一度お礼をいうと、エイダンはこくりと頷いたあと懐から何か取り出した。
「お礼にもらった」
金に光るプレートで、何か紋章が彫られている。助けたのは貴族だったのかな。そして、そのプレートを俺に渡そうとする。
「エイダンが助けたんだから、エイダンがもらっておくべきだよ」
「俺、スバルに言われて行った。ぺぺもグリンも」
「いや、でも俺は何もしてないし」
さすがにもらえないぞ。
「……じゃあ、ぺぺかグリン」
いやいやいや、ぺぺもグリンも持てないし。2匹もいらないのか首を横に振っている。
「……」
エイダンはどことなく不満そうな顔をして俺を見つめている。
「……分かった。俺が必要とするまでエイダンが預かっておいてくれ」
その言葉に納得できたのか、エイダンはこくりと頷くと御者席に戻った。
エイダン……難しいやつだな。
ま、何にしろみんな無事でよかった。




