人魚族の国へGO 1
「人魚族の国だが、スバルはどのくらいのことを知ってるんだ?」
「えっと……国名がアクアで、海中に国があることくらいかな……」
自分で言ってみて、全然知識が無いことに気づく。
「アクアは他種族とも友好関係を築いているが、やはり人魚族の国ということだけはあって、人魚族の者が優先される。虐げられはしないが、優先順位が違うから気をつけろ。……あとは、確か頭をなでることがタブーとされていたはずだ、ま、なでる場面など滅多にないと思うがな」
「そういや、言葉は通じるのかな?」
「ああ、なまりはあるかもしれないが、基本的に言語は一つだから心配はいらない」
良かった。話ができないと話にならないからな。
「スバルも聞いたように、政治の仕組みも我が国とは少し異なるところもあるわ。仮結婚のようにね。……確か王への嘆願も時と場合によったら身分を問わずに叶うと聞いたわ。どんな時と場合かは分からないけれど、それを狙ってみるのも有りかもしれないわね。後は……食事や生活様式など様々違いはあると思うけれど、行ってみないときっとわからないわ」
「ああ、後は直接自分の目で確かめてきたら良い」
「そうね。楽しんでらっしゃい」
父と母が優しく微笑んでくれる。
「……スバル、お前はやりたいようにやれば良い。それがきっと良い縁を生んでいる」
死神の御縁が関係してるのかも。確かに俺は人には恵まれている。
「そうそう話はかわるけど……スカイちゃん、抱きしめても良いかしら」
「キュウ!」
もちろんと言うようにスカイは手を挙げる。
「スカイちゃんのおかげで私の大切な人の一人娘が助かったの。本当にありがとう!!」
母は少し涙声である。
そう言えばクレアちゃんはギルドマスターの一人娘だったな。奥さまも亡くなられてるって聞いたはずだ。その二人と両親は一緒にチームを組んでいたらしいから、やはり気になってたんだろうな。
「……ああ、本当に。未来に希望がたくさんでてきた。もちろん、スカイだけじゃなくぺぺもグリンもエイダンもいつもありがとう。これからも息子を頼む」
「キュウ」「ぺぺ」「キャン」「……はい」
父の言葉に皆元気よく返事するなか、エイダンも珍しくはっきり答えた。
「スバル、気をつけて行ってくるんだぞ」
「はい!」
本当に俺は良い縁に恵まれている。またお礼を言いに行かないとな。
こうして、俺は人魚族の国に行けることになった。
次の日いつものように冒険者ギルドに行くと、既にハイドが来ていた。
「スバル!おはよう。どうだった?」
「行ってもいいって!」
「やったー!!じゃあ皆で行けるな」
「ということはハイドも大丈夫だったのか?」
「父ちゃんが相手の家が良いって言ってくれたら構わないって。ただ他国の貴族の家だからスバルとケインに必ずついとけって」
ケインも執事さんも良いって言ってたから、多分大丈夫だ。ただ、ハイドは平民だからハイドの親父さんが言うように厄介なことに巻き込まれないように注意がいるな。
「二人ともお待たせしました」
ケインが執事さんと走ってやって来る。
「いや、今来たところだから大丈夫!」
「それより走ってどうしたんだ?」
「二人とも許可は取れましたか?」
「ああ」「取れたぞ」
「……良かった。それで本当に急なんですが今から一緒に人魚族の国へ行ってほしいんです」
「今から!?」「そりゃあ急だな」
準備を全くしてないぞ。
「……実は昨日父からの通信で、もしこのまま帰ってこないようなら当主の一存で仮結婚を成立させると言われてしまって……早く帰らないと結婚させられてしまうんです。急なんですが一緒に行ってください!!」
「……お、おう。良いけど泊まる荷物の準備してないぞ」
「それに服装も冒険者の服で貴族の家に行く服じゃないし……」
可能なら一度家に帰りたいけど……。
「身一つで構いません。お願いです。一緒に行ってください!!」
ケインと執事さん二人で頭を下げる。
俺とハイドは顔を見合わせて頷いた。
「良いぜ!」
「なんだかケイン切羽詰まってるみたいだし。行くのは許可が出てるしね」
「ありがとうございます!!さっそく行きましょう!」
俺たちはケインが準備してくれた馬車に乗り込み、早速人魚族の国に向かう。
ケインの用意した馬車はかなり広く、俺の家の馬車の倍はあった。そのため、4頭の馬が引いている。御者は執事さんが務めていた。ちなみに念のためエイダンもその横に座って護衛をしている。
「……広いな」
「長旅に不自由しないよう特注品です。ソファーを引き出すとベッドになるので、少し狭いですが夜も寝転べますよ」
「すげぇ!!」
確かにすごい。揺れも軽減魔法のおかげでほとんどなく快適である。この間の暴走馬車とは大違いだ。
スカイ、ぺぺ、グリンも楽しそうに馬車の中を確認している。
「確か、海まで1日かかるんだよな」
「はい。途中食事で休憩しますが、基本的には馬車で過ごします」
「これなら不便なく行けるな!!あ、忘れてた。家に連絡しないと」
そうだ俺も!!今日から行くとは言っていない。
「先程私の方で連絡致しました。また夜にでも通信球でご連絡ください」
執事さんが御者席から声をかけてくれる。
じゃあ、焦る必要もない。
とりあえず初の旅行、楽しもう。
俺は窓の外をゆっくり眺めることにした。




