ケインと執事さん 1
食堂で飲み物を注文し、まったりしているとハイドとケインが入ってきた。
「スバル、大丈夫なのか?」
「エイダンさんから急な腹痛と聞きましたが……もう、お腹の調子は大丈夫ですか?」
えっ、えっ?どういうこと?エイダン?
エイダンはこくりと頷く。
いや、こくりじゃなくて……そうか、俺が拐われたことを念のため隠してくれていたんだな。確かに、話をして俺を探していたらハイドとケインも捕まってたかもしれないし。
でも、姉とフェレナがわざわざチームセブンと名乗っちゃったしな……知らずに巻き込まれてもいけないし……。
「いや、実は……」
俺は二人には話すことを決め、小声で一連の流れを説明する。
「……そんなことになってたのか……」
「すみません、知らずに呑気に依頼を受けていました」
「いや、伝えてなかったこっちが悪いんだ……ただ、今後紅死教とメフィス国には注意しておくほうが良いと思って」
「そうだな。ま、自分たちから関わることはないけど、知ってたら回避できることもあるかもしれないしな」
「はい、気をつけるようにします」
「でも、スバルが無事で良かった」
「はい。ケガなども大丈夫だったんですか?」
「ああ、捕まったあとすぐにぺぺやグリンが助けに来てくれたからな。それにスカイの桃とオレンジも持ってたから、回復もできたし」
「盗られた物は大丈夫なのか?」
「リュックとアイテム袋、多少のお金は盗られたけど、大した物は入れてなかったから、高い勉強代と思うようにするよ」
裏路地には今後絶対に1人ではいかない。
「だな。そしたら、スバルの無事の生還を祝って乾杯するか。今日は思い切り注文しよう!!」
「「お――!!」」「キュウ!」「ぺぺ」「キャン」こくり
皆めいめい食べたい物を注文し、テーブルの上はズラリと食事が並んだ。
「よし!食べよう!!」
皆でもぐもぐと食べすすめていく。
久しぶりのシャバの料理は格別である。
皆とワイワイしゃべりながら楽しい一時を過ごすことができた。
テーブルの料理があらかた片付いた頃、いつの間にか初老のスーツを着た男性がひっそりと控えるように目の前に立っていた。
……どこかで見た顔だな。
「……ケイン様」
そうか、ケインの執事さん!
……あれ、ケイン?
珍しく、ケインは無視して食べすすめている。
「……どうか、一度お戻りを」
「嫌です」
一言だけ告げてまた食べすすめる。全く執事さんの方を見ない。執事さんも頭を下げた態勢のまま動かない。
……正直気になる。
「……なぁ、どうする?」
「いや、どうするって言っても……」
ハイドにこっそり声をかけられるが、どうしたものか。
俺たちが触れても良い話題なのか……ダメな話題なのかそれが難しい。
「そこに立たれていると、食べづらいから帰ってくれる」
誰だ?これ。こんな強気なケイン初めて見たぞ!!
執事さんはケインの言葉に反応せず、ただただ頭を下げた状態を崩さない。
見ているこちらが、心配になってくる。
「なぁ、ケインよく分からないけど、とにかく執事さんとよく話したら……こんなに頭を下げてるし」
「ああ、そうしろよ。俺たちいない方が良かったら、食べ終わったし先に出ても良いぞ」
俺とハイドが席を立とうとすると、ケインから慌てて声をかけられる。
「いてください!!」
「「……はい」」
とりあえず椅子にもう一度腰掛ける。
だが、2人が話す素振りがない。
おまけに執事さんはずっと頭を下げっぱなしである。頭に血がのぼらないかな……。倒れないかとそちらも心配である。
シーン
いや、どうしたら良いの。これ。
「……話かけても良いか?」
「……はい」
しびれを切らし声をかける。
「執事さんも、その態勢は気になるので良かったら座ってください」
執事さんは全く動かない。俺はケインに目配せする。いや、ヤバいって。
「……座ったら」
「失礼します」
ケインの鶴の一声でようやく執事さんも椅子に腰掛けた。
「キュウ!」
ほら、スカイが心配してオレンジを執事さんに持っていってる。
「良かったら疲労に効果あるので、召し上がってください」
遠慮せずに食べてほしい。……これで少しは場が和むと良いんだけど……。
シーン
ですよね。執事さんはオレンジを持ったまま動かないし、ケインも話しかけるつもりはないのかひたすら横を向いている。
重い。とにかく空気が重い。
「えっと……。あの、いてほしいとのことなのでとりあえず話を聞いても良いですか」
とにかく、話を聞いてみよう。




