事後報告
目が覚めると見慣れた天井が目に入ってきた。いつの間にか自室で寝ていたらしい。足元には、スカイとぺぺとグリンがヘソ天で寝ている。
窓の外はかなり明るい。
……明るい?
俺どんだけ寝てたんだ?
「……エイダンいるか?」
「……いる」
呼ぶとすぐに俺の前にエイダンが現れた。
「俺どのくらい寝てた?」
「丸一日」
丸一日!!よっぽど疲れてたんだな。
「俺が寝ている間に何か分かったことがあるか?」
「……メフィス国、紅死教」
「紅死教!?」
ぺぺの神もどきの宗教だな。
確か強い者、特にその中でも紅い者が正義の国だったな。
「何のために集められたんだ?」
「分からない……みんな死んだ」
エイダンは何のためらいもなく口にする。
……嘘だろ。
「なんで………わざわざ殺さないようにみんな手加減してただろ?」
「呪いか、魔法。話そうとすると皆死んだ」
うわぁ。口止めか。
やることがえげつない。
まぁ、あれだけの人を拐おうとしていた組織だから、過激派には違いないけど……後味が悪いな。
「人質は全員無事か?」
エイダンはこくりと頷く。
人質が助かったのだけは不幸中の幸いだな。
「とりあえず、起きるか。お腹もすいたし。姉さんやフェレナは?」
「1週間訓練禁止。部屋で勉強」
いや、確かにいろいろやらかしてたからな……。でもま、1週間訓練が無いのはラッキーだ。
「スカイ、ぺぺ、グリン。起きるぞ、朝ごはんを食べよう」
「……キュウ」「……ぺぺ」「……キャン」
3匹ともまだ眠そうだが、とにかく起きよう。
部屋の外に出ると、屋敷の中がバタバタと慌ただしい。
「目が覚めた子どもたちの朝食の準備を」
「使っていた毛布の回収と洗濯」
「乳母の経験がある者を、当面の世話係りに」
どうやら子どもたちもここで仮眠をとったらしい。その世話でてんてこ舞いのようである。この分だと両親もその対応に追われているだろうな……。お礼を言いたかったけど、また時間に余裕がある時にしよう。
ルリアを呼び、簡単な朝食を部屋に用意してもらう。
「スバル様、お目覚めになられたんですね。ご無事で良かったです!」
「うん、心配かけて悪かったね」
「本当ですよ。エイダンから速達で拐われた情報が入ったときどれほど心配したことか……」
「ルリア……」
普段はそんな素振りを見せないけどやっぱり俺のことを大切に思ってくれているんだな。
「スバル様のお世話ほど楽しい……いや、楽……いえ、やりがいがある仕事はありませんから!」
ルリア……。最初に本音がだだ漏れだったよ……。
ちょっとがっかりしながら朝食を食べすすめる。
「そういえばルリア。犯人についての情報が何か耳に入ってる?」
「メフィス国の紅死教が関わっているらしいとしか聞いていません」
エイダンの情報と一致しているな。
「でもどうやってそれが分かったんだろう」
確かみんな死んでしまったと聞いたけど……
「何でも犯人の一人が死ぬ間際に国旗と教典を懐から取り出したらしいですよ」
ふむ。ダイイングメッセージか。もしくは死ぬ前に神に祈りたかったか。
紅死教……。ぺぺのこともあるから、一度じっくり調べないとな。しかし、ろくでもない宗教である。
「あと、捕まってた人たちみんな家にいるの?」
「いえ、騎士団の聞き取りが終わった人から帰れる方はお家に帰られてます。今家に残っているのは自力で帰れない小さなお子さんが30名ほどですね」
ギランさんは妹さんのこともあるだろうしきっと家に帰っただろうな。最後に挨拶したかったけどこればかりは仕方がない。
「ありがとう。朝食も食べ終えたから片付けてくれる?あと、街に行きたいから馬車の手配をお願い」
「かしこまりました。……これからは気をつけてくださいね」
そう言うとルリアは部屋を出ていった。
「そういやエイダン、シロチビちゃんは見つかったんだろう?どこにいたんだ?」
誘拐騒ぎですっかり忘れていたが、そもそもシロチビちゃん探しをしていたのだ。
「御屋敷、馬車でひかれそうなのを保護してた」
そうか。無事に良い人に拾われてたんだな。
「院長先生に報告は?」
「とりあえず、連れていった」
じゃあ、依頼は無事に達成だな。
「ありがとう。依頼書の達成はまだ報告してないのか?」
エイダンはこくりと頷く。
じゃあ、とりあえず孤児院に行って、その後冒険者ギルドだな。あと、ケインとハイドにも連絡を取らないと。
「とりあえず、通信球で連絡を取るか……」
「……スバル様」
珍しく、エイダンから話しかけてくる。
「俺……護衛失格」
表情は変わらないから分かりにくいが、今回俺が拐われたことに責任を感じているらしい。
「いや、俺がそもそも別行動を頼んだんだから、その間護衛ができなくて当たり前だよ」
そんなことに責任を感じてほしくない。
「離れた俺が悪い……罰いる」
いやだから……。
妙に思いつめているらしく、俺の言葉に納得してくれない。
「じゃあ、今週はお休み無しで護衛すること。といっても、睡眠や食事はきちんととること。それが罰で」
ブラック労働だけど、そのくらいエイダンにはへでもないはず。
「……罰?」
「罰です」
エイダンは少し考えた後、こくりと頷いた。
「ずっと一緒にいる」
傍から聞くとヤンデレなストーカーみたいな発言だな。ま、エイダンだから良いけど。
「それじゃあ、行くか」
スカイ、ぺぺ、グリンも朝食をしっかり食べてバッチリ目も覚めたらしく、ベッドの上で飛び跳ねている。そんな3匹を抱きかかえて部屋を出る間際、また、エイダンに声をかけられた。
「……御屋敷の女の子、スカイオレンジあげた」
体調でも悪かったのかな。
「スカイがあげたなら、別に構わないよ」
俺というより、本来はスカイのオレンジだからな。スカイがあげたかったならあげたら良いと思う。
「オレンジ、いつもと違った」
うん?新しいオレンジを出せるようになったのかな。
「どんなオレンジだったんだ?」
「これ」
エイダンが取り出したのは、金色に輝くオレンジだった。形はいつものオレンジと変わらないが、色や艶が全く違う。
「……なんだ、このオレンジ?」
また、厄介そうな匂いがするぞ。とほほ。