猫探しパート2 1(孤児院へ)
受付のオリビアさんに依頼書を持って行く。
「スバルさん、難しい依頼ですが大丈夫ですか?」
「はい。依頼に失敗してもペナルティがないようなので、やってみます!」
オリビアさんが心配してくれる。本当にいつでも変わらず初心者に優しい対応だよな。
「では、頑張ってくださいね」
「はい!」「キュウ」「ぺぺ」「キャン」こくり
俺達は冒険者ギルドを出て、孤児院を目指す。すれ違う人を見るとちらほらリュックを背負っている人を見かけるようになった。
先月アダムス商会で新しく売り出したリュックが辺境伯領で大ヒットし、空前のリュックブームが到来していた。もとは保冷バッグのつもりで作ったが、おしゃれ目的で買う人や機能性で買う人の方が多く、新作を出せば飛ぶように売れてるわとアダムスさんが嬉しい悲鳴をあげていた。あまりに売れすぎて店頭に出せばすぐ売り切れるため、しばらくは予約制にして販売するらしい。
もとはルルちゃんのために作り出した保冷リュック、ルルちゃんはアダムスさん作メーシープリュック、エイダン作、スカイリュックどちらを選んだかというと……。
どちらも可愛いすぎて選べないとのことだったので、二つともプレゼントした。
ルルちゃんは日によってメーシープリュックとスカイリュックを使い分けているらしい。
ちなみに保冷剤の方も好評で、こちらはアダムス商会の隣にF&K商会というお店を構えている。スライム膜に接着剤を塗って形を作る作業は孤児院に依頼し、今では孤児院の貴重な収入源になっているとのことだった。保冷剤は1週間ほどで効果が切れるため必要に応じて買い直しか魔法のかけ直しをする方式をとった。そして子ども料金と大人料金を設定した。やはりお金をあまり持っていない子どもにも必要に応じて使ってほしい。
こちらはフレイさんとカレンさんが店長となり、お店を切り盛りしていたのだが、こちらも人気のため手が足りなくなり、人魚族の応援を頼んでなんとか切り盛りしているらしい。やはり人魚族のための保冷剤というよりも、ひんやり枕や長時間の生物の運搬などに重宝されているようだ。
ちなみにルルちゃんは職業訓練先にアダムス商会を選んだ。メーシープリュックとスカイリュックに一目ぼれし、自分でも作りたいと強く希望し、アダムスさんに自分が作ったものを持ち込んで売り込んだらしい。その技量と熱意がアダムスさんに認められ、今は職人見習いとしてアダムス商会で働いている。メーシープ牧場よりも距離がかなり近いため、体調面でもちょうど良かったようだ。この間会いにいくと、リュックにつけるマスコットを作っていた。なんとそのモデルがメーシープとスカイとぺぺとグリン。
それもルルちゃん発案で、飛ぶように売れているとのことだった。その結果何が起こったかというと……
「キャースカイちゃん可愛い」
「いやいや、ぺぺちゃんが」
「グリンちゃんよ」
最近三匹を連れて歩いているとこちらを見て立ち止まったり、声をかけられたりすることが増えた。ちなみに俺はそのキャーキャー言われるメンバーに入っていない。ちなみにエイダンはというと……男前なので別の意味でキャーキャーされることが多くなった……。いやいや、平凡が一番。悲しくなんてないぞ!!
そんなこんなで呼び止められたり、キャーキャー言われたりしながら、無事に孤児院に着いた。いつもなら五分で着く道のりに倍以上かかったから、このまま人気が続くようなら対策を考える必要があるかもしれない。無視したら良いんだろうけど、3匹とも人好きだから無視はできなさそうだし……。
入口では、いつものように院長先生が掃除をしていた。
「先生、おはようございます」
「あら、スバルくんこんにちは、今日はスライジェルの件?」
スライムジェルの件では院長先生にかなり感謝された。職人にも冒険者にも向かない子たちの受け皿としてかなり有益だったらしい。
ただ、感謝は伝えてくれるが、その他は普段通りで俺のことを特別扱いしない院長先生は、やはり人格者だと思う。もともと誰に対しても丁寧なのもあるけど。
「いえ、実はこの依頼を引き受けてきました」
俺は依頼書を院長先生に渡す。
「まあ、猫探しを引き受けてくれるの?ありがとう。シロが4匹赤ちゃんを産んだんだけど、そのうちの1匹が数日前から姿を現さないの。もしかしたら、巣立った可能性もあるかもしれないけれど、他の3匹がまだシロのもとにいるからお世話をしてくれている子がひどく心配していてね。それで依頼を出したの」
「そうなんですね。見つかるかどうかは分かりませんが全力を尽くします」
子猫なら体力もないだろうから、はぐれてそのまま儚くなってしまった可能性もある。
「ええ、見つかる可能性は低いと思ってるの。だからもしかしたら、依頼に失敗するかもしれないけれど大丈夫?」
「はい!ペナルティは無いと伺っているので、前回猫探しでのご縁もありますし、やれるだけやってみます」
「ありがとう。そうしたら、子猫について一番よく知っている子のところに案内するわね」
「お願いします」
俺達は院長先生に続き、孤児院へと入った。
どうか、子猫が無事に生きてますように……。