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第6話 白い衝撃(前編)

トニという新しいチームメンバーが入った。若い魔工師だ。経験をつませるために、クラウスから入れてくれという指示があった。


「セナさん、ビョルンさん、アネッタさん、よろしくお願いします!」

トニが、緊張しながらも、若々しく返事をする。

黒髪を眉の高さで切りそろえた青年は、頼りなさそうな声を精一杯出して挨拶をした。


「よろしくなトニ」

「よ、よろしくお願いします……!」

「そんなに緊張すんなって。大丈夫だ」

ビョルンが、トニの背中をポンと叩き、リラックスを促した。

トニが、弱々しく『はい……』と返事をする。


「トニは、ビョルンと同じ魔工師の学校を出てるんだっけ?」

セナが、トニに話しかけた。トニはそれを聞かれたことが嬉しかったのか、目をぱっと輝かせる。

「はい。ビョルンさんは、僕と同じ寮の出身でもあって……すごく有名なんですよ」

興奮したようにビョルンを見る。ビョルンと一緒に働けることが嬉しいらしい。


ビョルンは、研究所内でも名高い魔工師だ。第一線の魔工師と言っていいだろう。

彼は研究所内で特許をいくつか開発している(残念ながら、研究所の所有物なのと、技術公開をしているので、特許料は入らない)その技術は、現在も一般的に普及されて使われており、人々の生活の向上に役立っている。


ビョルンは、たまに「独立してから公開すればよかった」と冗談で言っているが、この設備と同僚たちがいなければ、作れなかったことも理解している。仕事をする上で、仲間との掛け算が大事な事を、彼はよく理解している。それが、ビョルンを第一線で一流としている大きな理由の一つだろう。


「ビョルンが卒業してだいぶ経つよね?学校で有名ってどういう事?」

「ビョルンさんが、”やったこと”が有名なんです。」

トニが、少し楽しそうに笑った。


「おっとっと。その話は……」

ビョルンが慌てて割り込む。何の心当たりがあるらしい。


「え!それ聞きたい!トニ話してよ!」

「私もききたいわね…!」

セナとアネッタが、すぐさまビョルンの過去の話に食いついた。初めて聞く話だ。


「トニ。喋ったら、重い作業から振る、新卒にはキツイやつをな」

ビョルンがトニに軽く警告するが、トニは喋るかどうか、判断しかねていた。

「トニ、ビョルンの言うことなんか気にしないで。私がこのプロジェクトのリーダーだよ」

セナが、肩書を使ってビョルンを牽制した。


「……ビョルンさん、すみません!ビョルンさんは、魔工の実験で寮の角部屋をひとつ吹き飛ばしているんですよ。今では、そこはパーティーをするためのバルコニーです。ちなみに、壁にその爆発時の写真が貼ってあります。学生たちが二度と繰り返さないように、教授が貼ったんです。」


「ホント!?」

セナが思いっきり吹き出した。アネッタも驚いている。

トニは、ビョルンの方を見て、機嫌を伺っている。


ビョルンがばつが悪そうな顔をして、しぶしぶ話しはじめた。

「言っちまったか……本当だ。この髪も、元々ヘーゼル色だったんだが、その魔工の事故のせいで、白髪になっちまった。目立つようになって女にはモテるようになったけどな」

ビョルンが、自慢の白髪をかきあげる。これは魔工事故の産物だったのか。


ビョルンが、『これが七転び八起き』と言っていたが、セナはその発言を無視した。

仕事場で、ビョルンが安全手袋や安全確認を、他の人よりしっかりやるな。とは思っていたが、事故をおこしていたからというと、納得が行く。


ビョルンが話を続ける。

「誰も死ななかったが、俺は重症で、しかも死ぬほど学校に怒られた。退学寸前までいったんだが、その時の学長が守ってくれたんだよ。んで、その学長が、前話した鉱脈で鉱石を掘ってるじいさんだ」

「よく研究所が、鉱石を買ってる、あのおじいさんなの!?」

「そうそう。今は鉱脈の管理してんだよ」


世界は、つながっているんだな、とセナは感心した。しかし、若い頃のビョルンが、あまり……なんというか……猪突猛進だったんだな。ということに驚いた。


「トニ、お前、言った通り、重いタスクを振るからな?」

ビョルンはニヤニヤしている。

「がんばります……!」


トニは、良い新人になりそうだ。とセナは思った。



 * * *



トニが仕事を始めて1週間が経過した。彼は天才というわけではないが、一生懸命だった。

ノートを頻繁にとっており、ビョルンの顔色を伺う部分はあるが、わからないことは質問する。


魔工師は、元々努力家や秀才の類が多いが、トニは努力家だった。

失敗もするし、何度も同じことを聞くこともある。これは優秀な人間が多い研究所では少し目立ってしまう。


しかしセナは、初めてこの国に来た時のことを、トニに重ねて思い出していた。


トニのように、私もとにかく、何でも必死でメモを取っていた。

私の場合、そもそも、言語が聞き取れなくて、何度も質問して、怒られたり呆れられたものだ。

実際の上司だと大変だろうが、私自身は、トニは同僚としては嫌な気分ではない。

トニは、分からなかった時に、どう学べばよいのか、勉強の仕方がわかっているタイプではあった。なので、それも助かっていた。


ビョルンも、忙しいときは対応が難しいが、何も質問されず事故が起きるのを一番恐れているので、「それなら聞け」とよく言っている。

ビョルンとトニも役割分担がうまく出来ていて、これなら、今後もいいチームとして機能するかもしれない。


トニの将来は誰にもわからないが、良い技術者になるだろう。

セナは、そう思いながら、自分の仕事をにもどった。


 * * *


更に数日後、テスト段階の魔法陣を、道具の初期調整などを行いながら、大きな部屋で組み立てていた。


ビョルンとトニは魔法陣に魔工具をつけて、魔力の流れや、出力のテストを行っていた。何日かに分けて、魔鉱石の種類や、魔力量の確認を行っている。

セナはテスト魔法陣を見ながら、設計が合っているかどうか、変更すべき場所があるかどうかを、書類と見比べながら確認していた。


「よし。トニ、じゃあ昨日の続きからだ。昨日の設定は何も変更していないな?」

ビョルンが、安全手袋をはめる。

「はい。そのままです。僕はなにも触っていません」

「俺も、さっきゆるく魔法陣に魔力を流してみたが、異常はなかった」


ビョルンがトニに指示を出す。

「じゃあ、スイッチをつけるから、魔力が流れたら、それぞれの魔鉱石の魔力量をテスターで測って記録してくれ」

「わかりました。」

トニも手袋をはめる。


「じゃあいくぞ。3,2,1!」

カチンとビョルンがスイッチを入れる。魔力が一気に流れ、魔法陣と魔鉱石が光り始めた。今日は魔鉱石の負荷計測なので、強めに魔力を流している。


「…あれ?」

魔鉱石の一番近くにいたトニは、魔法陣の小さな異変に気づいた。

どこかで、パチパチと音が鳴っている。トニは、冷や汗をかいた。

音のする方をみ見ると、大きめの魔鉱石に接続したコードから、とても小さく、火花のようなものが散っていた。エネルギーの負荷に耐えきれていないらしい。


だんだんと魔力量が上がっている魔法陣に対して、音を立てている魔鉱石から、むき出しのエネルギーが目視で確認出来るほど漏れていた。

「ビョルンさん!まずいです!」

ビョルンも、その異変に気づいた。

「なんだ!?」


ビョルンがスイッチを切ろうとするが、すでに大量の魔力が流れている。

トニはあわてて、近くにいたセナを退避させようとした。

セナは、書類を見ていて、気づくのが遅れている。

魔鉱石の接続部分から、バチバチと大きな音がする。


「セナさん!あぶない!!!!!!」

それと同時に、バチバチッと嫌な音がした。

トニがセナを押した後、一瞬、視界が青い閃光に包まれ、なにも見えなくなった…



バチッ!ドンッ!!!!



衝撃波がセナの体を襲った。真正面から受け、強制的に心臓マッサージを受けた様になり、セナはその場に倒れ込んだ。呼吸困難になる。息ができない。鼻から血が出ているのを感じる――大量の魔力を一気に浴びたせいだ。


耳が何も聞こえない。キーーーンという耳鳴りがしている。


呼吸ができない――手は――足は――大丈夫なようだ。落ち着いて呼吸を整えようとする。続いて目をならす、火災は起きてない。有毒物質を使う様な代物はない、大丈夫、大丈夫、とセナは頭を整理する。


トニとビョルンはどうなった?


視界は光のせいで何も見えていないが、パラパラと室内が粉塵と煙で充満されている音、緊急用のアラートが鳴っているのが少しだけ聞こえる。


窓は、大丈夫だ。特殊な魔法防壁で、窓ガラスや建物自体は飛び散らず、液体のように修復していくだろう。今は窓があった部分に穴があき、中の煙を出すためにファンのようなものが回っている。


セナが四つん這いになって床にはりついていると、誰かがこちらに慎重に歩いてくる振動を感じた。そして、黒い影が目の前にある。急に、肩に手がかかった。誰かが抱き上げて、部屋から連れ出そうとしてくれている。

肌に鼻血がポタポタと滴る。自分の血だった。


目が慣れてきた、顔を見ると、ダミアンだった。真剣な表情で、私に何かを話しかけている。しかし、何を話しているのか聞き取ることができない。

セナが、掠れた声で絞り出す。


「トニとビョルンは……?」

声が出てるのか、出てないのかもわからない。


ダミアンはその名前を聞いて、煙が充満した奥の部屋を振り返り、中に向かって何かを叫んだ。そして、部屋の外にセナを連れ出し、無事を確認すると、もう一度部屋の中に入っていった。


そのままセナは救護用ベッドに乗せられ、医療室に運ばれていった。

その頃には、だいぶ落ち着き、「トニとビョルンは!?」と急いで問いかける。

医者が困っていると、扉の外から声が聞こえた。


「ビョルンは大丈夫だ。」

その声を共に部屋に入ってきたのは、ダミアンだった。


「あいつは安全対策をちゃんとやってたようで、軽い全身打撲だ。3日で起き上がれる。トニも命に別状はない。だが……」

ダミアンが目を伏せながら話す。


「今は病院にいる。至近距離から衝撃波を受けて、片目の網膜剥離、鼓膜の破裂、全身打撲、片手の骨折。あと手の火傷だな。全治4ヶ月での絶対安静だ。脳は大丈夫だ。身体は元には戻るが、時間がかかる。」

私はその話を聞いて、生きていることに安堵した。しかし、体の状態は悲惨という他ない。


「また貴様がやったのかと思ったが、今回は違うようだな……休め。」

そう言って、ダミアンは出て行った。

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