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魔法陣エンジニア|その天罰は、加護だった。群像×魔法犯罪×サスペンス  作者: chamoro
第二章 血濡れの魔法陣

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閑話休題 騒がしい医務室

「お。終わったかセナ」

「セナ、ご協力感謝する。」

「いえ。お役に立てて良かったです」


 アルノーの黒縁眼鏡の奥の、灰緑の瞳が笑った。

 その隣で、ジャンが腕組をして壁によりかかり、部屋から出てきたセナを見ている。


 セナは襲われた時の骨折が完治し退院した後、事件の聴取をしたいとの事で、騎士団の本部に来ていた。


 セナが被害者という事もあり、知り合いは居ないほうがいい。との配慮の元、セナの聞き取り調査は騎士団が担当することとなった。

 そういう事もあり、今日はセナの何度目かの聴取と経過観察の日だった。


「アルノー。俺は用事があるから先に戻る。じゃあな。セナ」

「ジャンさん、送っていただきありがとうございました」

「ジャン、またな。」

 そう言って、ジャンは後手に手を振る。右腕全体に入ったタトゥーがちらりと見えた。

 白髪交じりのグレイッシュブブラックの頭髪に、たてがみのように束ねた後ろ髪をなびかせていた。

 そして、巨体の背中が、建物の曲がり角に消えた。


「じゃあ、最後に、医務官のメンタルチェックを受けるんだったかな?」

 残されたアルノーがセナに話しかけた。


「はい。よろしくお願いします」

「では、夫……医務官の所へ向かうか」


 そう言い、アルノーとセナが廊下を歩いてゆく。

 そこに―――


「ん?フェリオか?」

「あっ……!お、お疲れ様です!アルノー副隊長!」


 フェリオが、声の方へ急いで振り向き、ビシッと片腕を額にあてて挨拶をする。

 しかし、その力強さとは裏腹に、フェリオは少し疲れた様子だった。

 セナがフェリオをよく見ると、顔や体に、擦り傷がある。


 そして―――右足の義足が、不自然にバチバチと魔力漏れを起こしていた。

「フェリオ、それどうしたの?」

 セナがそれを見て、思わず質問する。


「あっ…これは…そのっ……」

 フェリオは、あたふたと慌てながら、アルノーとセナから視線をそらした。

 それを見たアルノーが、何かを察し、苦笑しながらため息を漏らす。


「フェリオ……また無茶して追跡したな?」

「す、すみません……犯人を捕まえはしたんですが……」

「はぁ、まったく……ちょうどいい。お前も医務室に行くぞ。」


 アルノーからそう言われると、フェリオの肩が緊張でビクリと跳ねた。


「ぅッ……る、ルシアンさんの所ですか?」

「怪我してるかもしれないからな。部下の健康把握も上司の仕事だ。行くぞ」


 そう言って歩き出した背の高いアルノーの後ろを、セナとフェリオがついて行った。


 * * *


 まだ医務室から距離があるはずなのに、誰かの怒鳴る声が聞こえる。

 どんどん3人が近づいていくと――――医務室から、男性の怒鳴り声がきこえてきた。


「そのまま動くな! 動いたら縫い目開くぞコラ!」

「包帯は飾りじゃねえ! 取るなつってんだろ!! バカか!?」


 騎士団医務官のルシアンは、大忙しだった。

 騎士団員は危険な場所に出向くことが多い。

 そのため怪我人が多く、ルシアンはその治療に常に追われている。


 ルシアンの服装は、白衣の下にパンクロックバンドのTシャツ、細身の黒いGパンというラフな格好だった。

 捲られた白衣の袖口から、びっちりとタトゥーが入っている。さらに鎖骨か左頬かけてタトゥーが入っており、口元にもピアスが光っていた。


 薄い色の短い金髪に、目つきの鋭い明るい青い瞳。顔にはそばかすが散っている。

 怒鳴り続けているせいか、色素の薄い肌はうっすら紅潮していた。


「バカ!加護は無限じゃねぇんだよ! 良いからてめーは寝てろタコ!」


 ベッドから起き上がろうとした団員の頭を抑えてつけて、ルシアンが団員の男性を怒鳴りつける。

 相手も中々の強面の大男だったが、ルシアンに脅されて、しぶしぶベッドに戻っていった。


 その時、医務室のドアがコンコン、と軽くノックされて、開いた。


「よかった。今日も元気そうだ」

 アルノーがそう言いながら医務室のドアを開ける。

 そしてルシアンの様子を見て、ニッコリと微笑んだ。


 その後ろから、 セナとフェリオが、申し訳なさそうに医務室へ入った。


「何処がだ!? っと、後ろに居るのはセナか? あと、フェリオ…」

 ルシアンがフェリオの姿を捉えた時、体中の擦り傷と、右足の義足がパチパチと魔力漏れを起こしている事に気づいた。


 ―――ルシアンはそれを見て、カッと頭に血が上り、怒り肩でアルノーの方に向かってゆく。


「お前また無茶させやがってぇぇ!!」


 ルシアンは眉間に皺を寄せ、大股でアルノーへと迫る。

 あまりの気迫のある表情に、フェリオとセナはひっと肩をすくめた。


「アルノー! てめー! またフェリオに無茶させたのか!?」

「フェリオ! てめーも無茶すんなって言ってんだろうが! 耳ついてんのか!?」


 ルシアンがフェリオに怒鳴りつけると、フェリオの肩がびくりとはねた。フェリオは怖くてルシアンの目が見れないようだ。


 しかし、当のアルノーは、優しい笑顔と穏やかな雰囲気で、ルシアンに微笑んでいる。


「うんうん。ごめんね。いつもありがとうねルシアン」

「アルノー! 職場でそれやんなっつってんだよ!! メスで刺すぞ!」


 ルシアンが本当にメスを持ち出す勢いで、アルノーの胸元に指を立てる。

 アルノーは怒られているのを理解しているのか、していないのか分からないが、飄々とした態度を一向に変えなかった。


 ルシアンがそれを察し、ため息を漏らし、フェリオの傷を軽く見ながら呟いた。

「まったく……どいつもコイツも俺の話全然きいてねぇじゃねぇか……」

 そうブツブツと良い、備品を取りに倉庫に行った。


 そのルシアンの後ろ姿を見て、セナがアルノーに話しかける。

「あの……団員の皆さん、医務官の言う事を聞かなくて良いんですか…?」

「いや、今日は聞いてる方だよ、皆。」

 アルノーがさらっと言い、周りのベッドで寝てる人や、負傷者を見渡した。


「……そ、そうですか……」

 セナは、困惑しながら、そう控えめに言った。


「そういえば、今日ジャンは来てねーのか? さっき見た気がしたんだが」

 フェリオの傷を消毒しながら、ルシアンがアルノーに問いかけた。


「彼は用事があるから帰ったよ。セナの付き添いだけだったから」


「そういえば……ジャンさんも元騎士団なんですよね?」

「ああ、彼は俺の同期だからな。正直……あんなに落ち着くとは思ってなかった」


「……ジャンさんの若いころって、どんな感じだったんですか?」

 フェリオが、純粋な興味を持って、アルノーに質問をする。

 フェリオは『鉄皮のジャン』の騎士の称号に憧れを持ち、騎士団に入っている。

 若い頃はどんな人間だったのか、とても気になるのだろう。



「ジャンの若い頃? そりゃもう手に負えなかったよ。……あいつは今の方が百倍マシだな……」

 アルノーが、懐かしそうに目を細める。目尻の笑い皺が深くなった。

 灰緑の瞳が、柔らかく室内の光を反射する。


「そ、そんなに……?!」

 フェリオが、予想と違った返答が来たので、驚いて目を丸くした。

 セナも、普段の兄貴肌のジャンしか知らないので、その発言を聞いて驚きを隠せなかった。


「そんなにだよ」

 アルノーがふふっと笑う。そして、懐かしそうに口を開いた。


「ジャンは仲間想いで、能力があるから。仲間が攻撃されたら、すぐ頭に血が登ってな……すぐにやり返しに行ってたよ」

「アイツの怪力、見たことあるか?」

 ふと、アルノーがセナとフェリオに問いかけた。


 セナとフェリオはお互いの顔を見合わせる。

「いえ、私はちゃんとは見たこと無くて……」

「俺は、少しだけ見ました」


 それを聞き、アルノーは話を続ける。

「ジャンの怪力は、一般人は敵わない。無理だ。馬車が突っ込んでくるようなもんだ。大体相手を骨折させて、戦闘不能にしてたよ」


「アイツは加護も強かったからな。ちょっとやそっとの魔法攻撃じゃ致命的なダメージにならなかった。」

「……それを過信しすぎて、無茶するときもあったが……」


「あのバカ熊、加護を過信しすぎて、何度医務室に来てたかわかんねぇよ」

 ルシアンが、フェリオの傷を消毒しながら、アルノーの思い出話に参加した。


「一度、肋骨骨折と出血、鎖骨が折れたまま来て、何で歩いて来てんだクソ熊ってキレた事があったな。足が折れてねーから来たんだと。」

「流石ジャンだな……振り切ってる」

「もちろん、その後ベッドに縛り付けた」


 そう言ってるうちに、ルシアンはフェリオの擦り傷の治療が完了したらしい。

「これでよし……あぁ、セナ、あの後、脚は大丈夫か?」

 ルシアンが、突然セナに向き直り、セナがびくりとするが、声は平静を装った。


「あ……はい。怪我は自分で転んだ骨折だけで、もう治りましたし」


「ふーん……そうか、ならいいんだが。精神的なストレスは感じるか?」

 ルシアンがタトゥーだらけの手の中でセナのカルテをめくり、呟いた。


「いえ、それは特にないとは思います。」

「そうか。精神的なダメージは、あとから突然きたりもするからな。何か少しでも変だと思ったら、俺に連絡しろ。治癒師への紹介状書いてやる。」

「あ、ありがとうございます」

「気にすんな。仕事だから。」

 そう言って、ルシアンがパタンとカルテを閉じた。



 アルノーが、自慢げにセナとフェリオに向き直る。目尻の笑い皺が深く刻まれていた

「……ね?うちのルシアンは優しいだろ?」

「うるせぇ。てめーは黙ってろ」

「君の怒ってる顔、かわいいね」


 アルノーがそう言うと、ルシアンが照れたのか、怒ってカルテでアルノーのおでこをバシンと叩いた。

 アルノーは衝撃でメガネがずれてしまい、わたわたと慌てて直す。


 それを見て、セナが小さく笑った。

「騎士団って、もう少し堅い組織だと思ってました。治安維持が担当ですし……」

「はは……まあ、緊張も強い仕事だから、メリハリはあるかもしれないな」


 アルノーは柔らかく笑う。それを見て、ルシアンがぽそりと呟いた

「うるせぇし、騒がしくもあるが……ま、総合的に見て、悪くはないと思うぜ。……人によってはな」


 ルシアンがそう言って、ちらりとアルノーの方を見た。

 そして、すぐに立ち上がり、乱雑に置かれた道具を片付けに戸棚の方へ向かった。


 そしてまた、医務室には怒鳴り声と、軽い笑い声が混じり合い始めた。

 その中でも、ルシアンの声がひときわ大きく響いていた。

いつも読んでいただきありがとうございます。


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