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魔法陣エンジニア|その天罰は、加護だった。群像×魔法犯罪×サスペンス  作者: chamoro
第二章 血濡れの魔法陣

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番外編 年末の大断水

 ―――――――

 17:30 断水

 ―――――――


「あれ?水が出ないな…?」


 年末。12月31日。

 セナは仕事納めも終わり、冬季休暇を満喫していた。

 食事の片付けをしようと水を汲んでいたら、急に水が止まってしまった。


 セナ「おかしいな・・?故障したのかな?」

 セナがシンクの下を覗き込むが、特に何も異変がない。


 その時、部屋のドアをどんどんと叩く音が聞こえる。

 セナ「はーい。どちら様?」

 ドアののぞき穴から見ると、管理人の壮年女性が立っていた


 セナ「あれ?管理人さん?どうしました?」

 管理人「大変だよ…いまニュースでやってたんだけど、地中の水道管が破裂して、都市の半分、東側の地区は水が完全に止まってる」

 セナ「えっ!?な、なんで…」

 管理人「ラジオだから詳しくはまだわからないみたいだ。今、騎士団と解呪師が向かってるって言ってたよ」

 セナ「ニュースはまだゲルマン語だけですか?」

 管理人「そうだよ。アンタ、現地のゲルマン語わからないだろうから、急いで教えなきゃと思ってね。まだ共通語に翻訳されてないから」

 セナ「た、助かりました…ありがとうございます」


 管理人「全く……年末なのに困ったね。アンタ、魔術師だろ?魔法で水は出せないのかい?」

 セナ「コップ一杯や飲料用ぐらいであれば可能ですが……数人分のお風呂ぐらいの量を作り出すのは無理ですね…大魔術の儀式が必要なレベルです」

 管理人「ハァ……やっぱりそうよねぇ…」

 セナ「そうなんですよ……お役に立てなくてすみません」


 管理人「私は今日は郊外の息子の家にいくわ。アンタ、どうするの?」

 セナ「うーーん…何も考えてなかった……ちょっと断水の様子を見て考えます」

 管理人「そうしなさい。困ったらちゃんと人を頼るんだよ。アンタ、独り身なんだから」

 セナ「ありがとうございます」


 そう言って、セナはドアを締めた。

 困った……どうしよう。年末で、お店もやっていないし、宿もあまり開いてないと思う。

 断水がすぐに直ることを祈るしか無い。

 とりあえず、あまり聞き取れないがゲルマン語のラジオを付けた。



 ―――――――

 18:00 情報

 ―――――――


 通声石がぼんやりと光る。

 ビョルンから、連絡が来たようだった。


 ビョルン「よお。元気か?セナ、突然だけど、お前の家の水出るか?」

 セナ「いや。駄目だねー。さっき大家さんが来て、ここ一帯の水が止まってるって」

 ビョルン「まじかよ……そっちも止まってんのか。うちも駄目だ」

 セナ「困ったね……ねぇビョルン、お風呂入れそうな所知らない?」

 ビョルン「風呂?……あ、仕事場!あそこ、都市とは別な場所からも水引いてるし、貯水湖もある。ちょっと警備の人に水使えそうか聞いてみる。待ってろ」


 そういって通話がきれた。

 しばらくすると、またビョルンから連絡がきた


 ビョルン「話してきた。シャワーも水も十分に使えるらしい。あと、既に他の同僚たちもシャワー借りに集まってきてるってさ。俺も今から向かう。お前も来るか?」

 セナ「本当!?よかったー!私も行く!」

 ビョルン「おう。じゃあ、職場の門の前で待ってるから。アネッタとビビアナは俺から連絡しておくよ。一応な。」


 そう言って、セナは急いで着替えやシャワーを借りる準備を始め、いそいそと出ていった。



 ―――――――

 18:30 集合

 ―――――――


 セナ「ビョルン!」

 研究所の入口の門に、背の高い白髪の男を見つけ、セナが声をかける。

 腕を組んで寄りかかっているが、セナに気づいて手を上げて挨拶をしている。


 セナ「ビョルン久しぶり。」

 ビョルン「おう。また年内に会うとはな。年末何してた?」

 セナ「家でゆっくりしてた。ビョルンは?」

 ビョルン「俺も今年は自宅。魔工具のテストしてた。しかし…まさかそれが仇になるとは……」

 セナ「水道管が年末に破裂するなんてね。しかも被害甚大」

 ビョルン「俺もこんなの始めてだよ」


 ビョルン「ニュースのラジオ聞いてたけど、水道管が復旧するの、まだ未定らしい。真夜中すぎる可能性濃厚」

 セナ「えーー!!……はぁ……とりあえず、研究所でお風呂入って考えるよ」


 セナ「はぁ…、魔法って便利なのに……」

 ビョルン「魔法で大量の水が出せたら、俺達今頃、インフラ水道屋始めて、大金を稼いでるだろうな…」

 セナ「そもそも、魔術師がインフラ全部押さえるの、法律で禁止されてるじゃん」

 ビョルン「まあな」

 セナ「そういえば、アネッタとビビアナさんは大丈夫だった?」

 ビョルン「アネッタは郊外の彼氏の実家なので問題なし、ビビアナは来るんじゃないか?」

 セナ「そっか」


 二人は、研究棟の男女別のメインシャワー室の前に到着したが……そこには沢山の人が並んでいた。

 セナ「男女どっちも並んでるねー」

 ビョルン「こりゃ……俺も入るのに時間かかるな」


 ビビアナ「ビョルン先輩!セナさん!」


 その時、背後から声が聞こえた。

 振り向くと、そこにはビビアナが立っていた。


 セナ「ビビアナさん!来てたんだね」

 ビビアナ「はい!ビョルン先輩連絡をもらって、今来たところです……やっぱり、皆来てますね」

 セナ「そうだよね。年末だし困るよ…お店は殆ど閉まってるから、飲水すら買えないし……」

 ビビアナ「これ、並ぶしかない…ですよね?」

 ビョルン「……いや、まて、あそこのシャワー室なら空いてるかも」

 セナ「?シャワー室って他にあったっけ?」

 ビョルン「まあ、ついてこいよ」


 ―――――――

 18:45 シャワー

 ―――――――


 マルコ「いやーほんと、テロじゃなくて良かったすね!」

 フェリオ「それにしても、すごい量の水だったな。フェリオ流されてたぞ」

 マルコとジャンが、タオルで頭をふく。近くにダミアンが立っている。

 3人とも髪が濡れている。

 廊下は、年末なので暖房が切られていて寒い。


 マルコ「あれ?ビョルンさん?」

 ビョルン「お!おつかれ!もしかして、水道管破裂の現場に行ってたのか?」

 マルコ「そうなんですよ。今戻ってきたところでして」

 ジャン「冬にびしょ濡れで凍えそうになって、シャワー入ったんだよ」

 セナ「うわ……過酷ですね……」

 ジャン「まあ加護はあるが、寒いもんは寒い。いやーでもやばかった。」

 ビビアナ(やばいで済むんだ……)


 セナ「そういえば、水道管破裂の原因はなんだったの?」

 ダミアン「……ただの点検漏れだ。100年以上点検してなかったらしい」

 セナ「100年!?」

 ビョルン「おいおい、適当な仕事でインフラ握られてんのかよ俺達は……」

 ジャン「で、お前らもシャワー使いに来たのか?」


 ビョルン「ああ、実はそうなんだ……メインシャワー室のほうが人が多すぎてな。こっちで借りようかと」

 セナ「女性用もかなり並んでて、ここで使わせてもらいたいのだけど……」


 ダミアン「構わないが……女性が入っているときは俺が見張っておく」

 マルコ「お、俺、変なものないか一応確認してきます!」

 ジャン「ないだろ。……多分」

 ビョルン「先入れよ。レディーファーストだからな」

 セナ「ありがと」

 ビビアナ「じゃあ、お先に使わせていただきますね」

 ダミアン「終わったら備品は所定の場所に。……何かあったら呼べ」


 そしてセナとビビアナが、静かにシャワー室に入っていった。


 ―――――――

 19:00 クリス合流

 ―――――――


 クリス「やあ、皆さん。奇遇だね」

 ビョルン「クリスじゃねぇか!久しぶりだな!」

 クリス「やあビョルン。君、もシャワーを借りに?」

 ビョルン「まあな。……なあ、クリス、なんか息上がってないか?」

 クリス「……気のせいじゃないかな?」

 ジャン(額、ちょっと汗かいてるんだよな……)

 マルコ(クリスさん、家の水が止まって、慌てて来たんだろうな……)

 クリス「僕も……シャワー、借りてもいいかな?」

 ダミアン「ああ。今は女性が入っているから、その後だ。備品は使うか?」

 クリス「タオルなどは持参しているよ。お気遣いなく。」


 そうこうしているうちに、セナとビビアナがシャワー室から出てくる。

 髪が水で濡れ、廊下との気温差で湯気が立っていた。


 セナ「わ、廊下寒い!あれ?クリス?」

 クリス「やあ。セナ。僕もシャワーが使いたくて」

 セナ「丁度良かった!どうぞ次使ってください。」

 ジャン「廊下は寒ぃから、とりあえす詰め所入れ。暖房がある。風邪引いたら大変だからな」

 セナ「ジャンさんありがとうございます。助かります」

 マルコ「何か温かい飲み物だしますね。」

 ダミアン「ビョルン、クリス、シャワー室が空いたぞ。俺は詰め所にいる。」

 ビョルン「おう。後で俺も行くよ」


 そう言って、ビョルンとクリスがシャワーに入った。



 ―――――――

 19:30 解呪師の詰め所

 ―――――――


 セナとビビアナが暖房の前でお茶を飲みながら髪を乾かす。

 二人とも、毛布にくるまっている。


 ビビアナ「髪乾いてきましたね」

 セナ「ここ、男用だからドライヤー無いの知らなかったね」

 ジャン「俺達はいらねぇからな」


 ビョルン「入るぞ。うー!廊下さみぃ!」

 クリス「僕も失礼するよ。すこし体を温めさせてもらえるかい?」

 マルコ「あ、じゃあお茶いれますね」


 ビョルンとクリスがシャワー室から出てきた。

 髪が濡れて水が滴っている。


 ジャン「主任、断水の件どうだ?」

 ダミアン「今ニュースを聞いているが……明日の朝の可能性があるそうだ手こずってるらしい。」

 ビョルン「まじかよ。まいったな……」

 マルコ「俺、郊外のホテルとか連絡してみます。俺も困るし」


 マルコ「郊外や水がある地区のホテル、連絡してみましたけど満室ですね。キャンセル待ちすらムリ」

 ビョルン「多分、別地区のバーやナイトクラブとかも、行く場所がなくて人であふれてると思う」

 ジャン「家に戻っても水は無ぇし」

 ビビアナ「研究所の他の部屋は寒いし……」


 セナ「……だったら、ここにいた方がよくない?水もあるし……」

 クリス(しずかにお茶をのむ)


(全員しばし沈黙)


 ビョルン「……確かにな。集まってると温かいし。向こうの会議室は冷蔵庫だったぞ」

 ビビアナ「解呪師さん達はいいんですか?この部屋がたまり場になって」

 ジャン「年末だし、いいんじゃねぇか?俺達の仕事は一応終わってるしな」

 ダミアン「……俺はかまわん。どのみち、待機の予定だからな。」

 セナ(かまわないんだ……)


 ビョルン「……じゃあ、もう酒飲むか? あったまるし」

 セナ「いいかも。この都市、水はないけど酒はどこにでもあるし」


 クリス「……飲みすぎなければ、体温維持には適しているね」

 ビビアナ(クリスさんが乗った……)

 ジャン「なら、俺んとこに保存してた酒、持ってくる」

 マルコ「ジャンさん酒持ってたんすか!?」

 ジャン「いつかのイベントで残った酒あるんだよ。口が開いてるから早く飲まないと」

 ビョルン「俺も、仕事場に余ってるビールちょっと持ってくる」

 クリス「僕も頂き物のワインがあるから、それを持ってくるよ」

 ダミアン(静かにグラス用意してる)


 ―――――――

 20:30 酒盛り開始

 ―――――――


 ジャンとビョルンが持ってきた酒を皆で手に取る


 ビョルン「じゃあとりあえず、乾杯する?」

 ジャン「まあ気持ちだけな。」


 セナ「年末でこんなことになるとは……」

 ビョルン「酒くらい飲まないと割りに合わないよな」



 ビョルン「……バーもホテルもダメって、ほんと“解放特区”行きになるとこだったな」

 マルコ「「あそこ、年末どんな感じなんすかね……冬でも全員外で酒飲んでそう」

 ビョルン「そんな感じだろうな……でも、あそこは水あるぞ。かなりでかい貯水地が合ったはずだから」

 マルコ「水があっても、俺はちょっと……」

 ビョルン(苦笑しつつ)「知り合い何人かいるけど……年末に顔出すのもな」

 ビビアナ「……(情報としては知ってる)」


 セナ「えっ……?解放特区ってどこ?みんな知ってる感じなの?」

 全員「…………(無言)」


 ビョルン(誰か言ってくれよ……)←何度か行ってるけど、同僚の前で言いたくない

 マルコ(刺激が強すぎて、上手く説明できないな……)←一度仕事で行って、若干トラウマになってる

 ジャン(ここで俺が言うのもな……)←仕事&常連で何度も行ってるけど、ここで言いたくない

 ダミアン←仕事で行ってるだけで、説明が難しい


 クリス「……君は知らなくてもいいことだよ……」

 セナ「??クリスがそういうなら……」



 ―――――――

 21:30 解呪師の秘密

 ―――――――


 ジャンがボトルを持ち、カップに透明な液体を注いでいる。

 セナ「あ、ジャンさんそれ白ワインですか?……って、えっ、ウォッカ!?それストレートで飲むんですか!?」


 ビョルン「何で職場にウォッカ?!さすがの俺でもウォッカは持ってこないぞ」

 ジャン「貰い物。イベントで飲みきれない強い酒を、皆持ってくるんだよ」

 ビビアナ「何で皆そんな事を……?」

 マルコ「……”酔わないから”ですよ」

 セナ「酔わない……?」


 ジャンが、グラス片手に「知らねぇのか」と言いながら、体勢を変えた。


 ジャン「解呪師ってな、精霊の加護で酒が効きにくいんだよ。強いとかじゃない、酔わねぇ。しかも、酔ってもすぐ冷めちまう」

 セナ「え……!?そ、そんなウォッカストレートで飲んでも……!?」

 ビョルン「え、ちょ……それ普通に怖くないか?それでこの量飲んでるの?」

 ビビアナ「ええと…加護の力で解毒されちゃうって事ですか?」

 ジャン「そういうことだ。流石に、蒸留酒3本とか一気に呑んだら加護も効かないけどな」

 ジャン「なまじ効くのは呪詛だけってな」


 ジャンがガハハと笑って、ウォッカストレートをぐいぐい煽る。


 ビョルン(解呪師って酒のコスパ悪すぎるな……)


 クリス「……周りが酔ってる中で、時々、寂しくなったりしないのかい?」

 ジャン「いやいや、楽しんでんだよ?気分は上がってんだよ。でも……“酔う”って感じじゃない」


 セナ「え、本当に全く酔わないって事?」

 ジャン「……んー、俺、最後にしっかり酔ったの、いつだっけな。主任は?」

 ダミアン「……覚えてない。たぶん、加護が強くなってからは一度もない」


 それを聞いて、全員、静かになる。


 ビョルン「……マルコくんも酔わないの?」

 マルコ「俺は加護が主任やジャンさんほどじゃないんで、蒸留酒1本開けたらほんのり酔いますね。でも、“しっかり”は無理っすね……」


 ダミアンのグラスのワインを見て


 ビョルン「ダミアン、ワイン美味しいのか?」

 ダミアン「……ワインの味はしっかりする。だが……それだけだな」

 ビョルン 「……じゃあ俺が代わりに酔っとくよ。酔っ払い役、まかせておけ」

 ジャン「おう。頼んだ」



 ―――――――

 22:00 悪ふざけ

 ―――――――


 クリスは、一度研究室に戻って溜め込んでいた未読の論文を読むと言い、解呪師の詰め所を出ていく。

「皆が夜中まで起きているようなら、また戻ってくるよ」と笑顔で去っていった。


 ビョルン「やっぱ職務が上がると、色々大変なんだな……」

 ビョルンがそう言いながらビールを喉に流し込んだ。

 セナ「準備しないといけないことが多すぎる感じだよねぇ」


 そんな中、隣の倉庫でマルコがゴソゴソと探し物をしていた。

 マルコ「あった!これこれ!」

 マルコがスピリタスを持ってきた。食料庫の片隅に「医療・燃料・緊急用」として1本だけ置いてあるものだった。


 マルコ「主任、前から思ってたんですけど……これ、加護あっても効くんじゃないですか?実験的に、一口だけ……!」

 ビョルン「スピリタス!?なんでそんなもんがここに!?これほとんど医療用アルコールだぞ?」

 ビビアナ「火をつけたら燃えますよそれ……」

 ジャン「それ、俺の魔工具と一緒に保管されてたぞ?」


 マルコ「加護があっても、この濃度なら酔いが出るのでは?ってずっと思ってたんすよね」


 ダミアン(スピリタスを見て)「……それは飲み物ではない。燃料だ。」

 マルコ「俺、自分の限界を試してみたくて……!」

 ダミアン「……好きにしろ」

 ジャン「いやお前、俺達より加護弱いんだから無茶すんなよ」

 マルコ「いや、ジャンさん、この実験は今じゃないと出来ないんですよ……!俺、家で一人じゃ絶対怖くて出来ないです」

 ジャン「いや、まあそうかも知れねぇけどさ……」

 マルコ「じゃあ。いきます!」


 一口いった瞬間

 マルコ「……(無言で白目むいてソファに崩れ落ちる)」

 セナ「だ、大丈夫!?」

 ジャン「お前……ほんとに賢いのか?」

 ビョルン「彼、考えて失敗するタイプだよね」

 ビビアナ(今の考えた上での行動だったの……?)

 ダミアン(無言で手を伸ばしてスピリタスを取り上げ、棚の奥に置く)


 1回だけ口をつけたマルコが、ソファで3分間無言で固まっていた。

 どうも、あまりにもショックが大きすぎて、動けなかったらしい。


 飲んだあとの感想をマルコ聞くと、重い口を開いた。

「味?ほぼないっす。一瞬甘いけど熱い。痛い。あと喉が燃える」

「酒じゃない。“火”です」

「水で薄めないとマジで危ない。というか、これは原液で飲むもんじゃない」

「頭の中で、精霊の加護にヒビが入る音が聞こえた」


 とのことだった。



 ―――――――

 22:30 差し入れ

 ―――――――

 ジャン「あー…なんか腹減ってきたな……」

 マルコ「何か買ってきます?」

 ジャン「とは言ってもな。この時間だとファストフードぐらいしか開いてないと思うぞ」


 その時、ドアがノックされる。

 一瞬、全員が「え?」という顔で振り向いた。

 ドアが開くと――


 アネッタ「あんたたち、やっぱりまだここにいたのね」

 セナ「アネッタ!?あれ?彼氏の家に泊まってるんじゃなかったの?」

 アネッタ「泊まってるわよ。買い出しもあってちょっと街に来たの、ここはついで。」


 アネッタ「さっきビョルンに連絡したら、今日は泊まる予定だって聞いたから、スーパーにギリギリで駆け込んで、お惣菜とかパンとか買ってきたのよ」

 セナ「アネッタ!ありがとう!」

 ビョルン「流石!助かる。ありがとうな」

 マルコ「アネッタさん!助かります!」

 ダミアン「……感謝する」


 そして、アネッタがセナとビビアナに小声で耳打ちする。

 アネッタ「二人とも、風邪ひかないようにね。」

 ビビアナ「ありがとうございます!」


 アネッタ「じゃあ、皆さん。良いお年を!」

 そう言って、アネッタは一陣の風のように去っていった。



 ―――――――

 23:00 ゲームタイム突入

 ―――――――

 ジャンが静かにラジオで断水のニュースの続報を聞いている

 それを見てセナがジャンに声をかけた。


 セナ「ジャンさん、断水のニュースどうなってますか?」

 ジャン「クソッ。だめだな、まだ修理中らしい。こりゃ本当に明け方までかかるな」

 ビビアナ「本当に大規模な補修工事なんですね」


 マルコ「主任、これ出していいっすか? 部署のイベントでもらったやつですけど……」


 そう言って、倉庫にしまってあったであろう、ボードゲームなどが入った大きな袋を取り出した。


 ジャン「お、いいな。どうせ寝れねぇし、それで時間潰しとくか」

 セナ「……このボードゲーム初めて見る。やったことない」

 ビョルン「じゃあ、俺が説明するよ」


 ~~数十分後~~


 マルコ「よし!勝ったァ!ジャンさんの土地いただき!」

 ジャン「はぁ?!んだよそれ!もう適当でよくないか!?」

 マルコ「駄目に決まってるでしょ!?」

 ビョルン「マルコくんが1位か。最下位は……セナか」

 ビビアナ「セナさん……あんまりボードゲーム強くないんですね?」

 セナ「なんか、ダイスの出目がいつも悪いんだよね……」



 それを聞いたマルコが、テーブルゲームが入った袋の中をごそごそと探し始める。

 そして、トランプを取り出した。


 マルコ「じゃあ次は、……シンプルにカードゲームとかはどうです?」

 セナ「あ、いいね。大富豪とか、ババ抜きとか、色々できるね」

 ビビアナ「私カード混ぜますね」


 ふと、ビョルンがダミアンの座っているデスクの方を振り向く。

 ダミアンは仕事の書類を見ていた。


 ビョルン「ダミアン、一緒にやらないか?」

 ダミアン「……俺は構わない。だが、ゲームは得意ではない」

 セナ「せっかくだし、一回くらいどう?」

 マルコ「え、主任も参戦ですか!?え、えっ!」



 ダミアンが執務机から立ち上がり、皆が座っているソファの空いている場所に座った。


 ダミアン「……ルールは覚えている」

 ジャン「……」



 ~~ゲームが始まって数ターン後~~


 マルコ「じゃあこれ出そうかな?」

 ダミアン「マルコ、それを出すのは早いように思うが?」

 セナ(めちゃくちゃ指示出すなこの人……)

 マルコ「ちょちょっと主任!ここ現場じゃないんで指示出さなくても大丈夫です!」

 ビョルン「ダミアン。チーム性じゃないんだから、指示NGだぞ」

 ダミアン「……すまない……」

 ビビアナ(あ、この人本当に落ち込んでる)



 ~~ゲームが始まって十ターン後~~


 ダミアン「上がりだ」


 ダミアンがゲームで何気なく勝った後、全員しん……と静かになった。


 ビョルン「は!?ちょ、ちょとまて、早すぎじゃないか?」

 セナ「え?え?もう終わったの?」

 ビビアナ「な、なんだか、カードを毎ターン4-5枚くらいずつ出してませんでした?」


 他の人の手札は、まだ10枚程度ある。

 ダミアンが異常に早くカードが無くなってしまったのだ。


 ジャン「あー、やっぱな。主任、運だけはマジでとんでもねぇからな」

 ビビアナ「え、運?どういう事ですか?」

 ジャン「その言葉のままの意味だ。主任、部署の懸賞ゲーム参加禁止になってるからな」

 セナ「え、なんでです!?」

 ジャン「毎回最短でビンゴ。くじも一発で一位。全員のやる気なくなるからって、明文化された」

 ダミアン(少しだけ眉を寄せて)「……俺はただ、くじを引いただけだ」

 セナ(その強運が問題なのでは……!)


 それを聞いたビョルンがマルコに耳打ちし、マルコもビョルンに何かひそひそと話しかけた。

 そして、ビョルンが徐に財布の中からカードを取り出す。それはロトくじ(番号を選ぶタイプ)だった。


 ビョルン「……待てダミアン。これを見てくれ。今度買うロト番号。俺の代わりに選んでくれ」

 マルコ「ジャンさん、止めないでください。これは俺のためじゃない。世界のバランスのためです」

 ダミアン(無言で紙を見て)「……自分で選べ。俺はやらん。」

 ビョルン「そんな事いわずに!!頼むよ~!」

 ジャン(頭抱えて)「お前らいいか、次にその番号出たら、主任の仕事の危険度が上がるかもしれないんだぞ……!」



 ―――――――

 01:00 ゲームタイム突入2

 ―――――――


 ワイワイとゲームをしていると、クリスが戻ってきた


 クリス「やあ。まだやってるようだね。ハッピーニューイヤー!」

 セナ「あ!もう新年になってる!」

 ビョルン「ホントだ。ハッピーニューイヤー!」

 クリス「僕もさっき気づいてね。まだ何かゲームしてるのかい?」

 ビビアナ「いえ、とりあえず終わって一段落ついたところです。」



 マルコ「次どうします?何かやります?」

 ビョルン「じゃあ“I have never everネバーゲーム”とかは?」

 ジャン「おぉ、懐かしいじゃねぇか。俺、久しぶりにやるな」


 セナ「……なにそれ?“やったことないゲーム”って」

 マルコ「“I have never ever”ですよ。“私は〜したことない”って宣言して、やったことある人が酒を飲むってやつです。」

 セナ「??え、なにその変なルール」

 ビビアナ「パーティーゲームの一つなんですよ。相手の事を知るアイスブレイクゲームですね」

 ビョルン「いや、意外と奥深いんだって。軽いやつでやれば楽しいぞ」

 クリス「“話す”のではなく、“戦略を持って選ぶ”のがこのゲームの面白いところだよ。」


 ビョルン「……つまり、“飲まない”のも答えのひとつってわけ」

 セナ「???ごめん…よくわかんない……」

 ビョルン「ま、やりながら覚えていったらいいよ」

 マルコ「じゃ、とりあえずポイント制で、一番最初に5回飲んだ人が勝ちって事で」


 ~~ゲーム開始~~


 セナ「“私はパンを作った事がない“!」

 マルコ(あ~~セナさん、まだルール理解してないのかな?)←止めずに苦笑して飲む

 ジャン「マジか!?」←笑いながら飲む

 ビョルン(質問が子供みたいだ……)←笑いながら即飲んでフォロー

 ビビアナ(まあ最初だから……)←飲む

 クリス←何事もなかったかのように一口



 ~~ゲーム中盤~~


 マルコ「……じゃあ、“俺は恋人と別れた後に、仕事で会ったことがない”」


 ジャン「おーそう来たか……」

 マルコ「いい質問ですよね?」


 マルコがニヤニヤと笑う。


 ビョルン←少し照れて一口

 ジャン←やや苦笑して静かに飲む


 ……しばしの間の後。

 クリスが、静かにグラスを口に運んだ。


 全員「………………」

 セナ(ポカンとしながら)「……クリス?」

 マルコ(口が半開きで固まる)

 ビョルン「ちょ、まさか……マジ?」

 ジャン(やるなぁと感心して口笛を吹く)


 そしてクリスは、穏やかに微笑んでこう言った。

 クリス「……仕事は、いつも冷静でいなければならないからね」



 ビビアナ「じゃあ次は私ですね。……“私は仕事場で恋人と手をつないだことがない”」


 ジャン「なんか色恋の方向になってきてねぇか?」

 ビビアナ「それを知れるのがこのゲームの醍醐味ですから!」


 マルコ←静かに飲む

 ビョルン←目が泳いだが飲まない

 クリス←ふわっと笑ってグラスを口にする


 ジャン「……っておい、クリス。絶対今の嘘だろ」

 クリス「さて……どちらでしょう?」


 クリスが涼しい顔で、ふふっと静かに笑った。



 ~~ゲーム後半~~


 マルコ「主任、よかったら参加しませんか?」


 ダミアンが執務机で仕事をしながら酒を飲んでいると、マルコに声をかけられる。


 ダミアン「……俺が?」

 ジャン「せっかくいるんだから参加しようぜ。一回だけでいいから。何か無いか?」

 セナ「えー。ちょっと気になる~~」

 ビョルン「セナ、酔っ払ってるな……水飲んどけ」

 ビビアナ「あっこれお水です」


 クリス「……部下やほか部署との交流は上司として大事だよ。ダミアン」


 クリスにそう言われ、ダミアンが少し考えこむ。その顔も無表情のままだった。

 そして、間を置いて、ダミアンが静かに口を開く


 ダミアン「……“靴下を左右逆に履いて一日過ごしたことがない”」


 そして、自分でグイと酒を飲んだ。


 それを聞いて、全員が一瞬、えっという顔をする。

 そして、ジャンとマルコがお腹を抱えて笑い出した


 ジャン「主任、それ自白じゃねえか!!」

 ダミアン(微妙に目を伏せながら)「……気づいたのは帰宅後だった」

 セナ(ダミアンにもそういう所あるんだ……!)



 ―――――――

 03:00 眠気

 ―――――――


 流石に全員に眠気が襲ったのか、解呪師の詰め所は静かになっていた。


 マルコとジャンは、ゲームで盛り上がりすぎて、急に電池が切れたかのように眠っている。

 毛布の数の数が微妙に足りないので、一緒の毛布でくるまって、背中合わせに寝ていた。


 ビビアナも、ソファで毛布にくるまって静かに寝息を立てている。

 ダミアンは、静かに執務机で書類や本を読んでいた。

 他に起きているのは、セナ、ビョルン、クリスだけだ。


 セナ「ジャンさん、急に電池切れたように寝てたね。」

 ビョルン「……爆睡だな」

 クリス「二人は、水道管破裂の現場にも行ってたから……疲れてたんだよ」


 セナは窓辺に座って、毛布をかぶりなおした。そして、窓の外を見る。

 外は、雪が降っていた。


 セナ「なんか……すごい変な夜だったな……面白かったけど」

 ビョルン「本当にな。でも、多分もう一度やれって言われても、俺できないかも」

 セナ(ふふっと笑って)「だね……」

 クリス「……今日は、ここにいてよかった。久しぶりに楽しい時間を過ごせたよ。学生時代みたいにね」


 クリスが、優しくふふっと上品に笑う。

 寝不足なはずなのに、そんな気配は感じさせないのはなぜなのだろう。



 ―――――――

 06:30 朝

 ―――――――


 ──外がうっすら白んできた頃、

 静かな声が、部屋の中で交差している。


 クリス「ああ、夜が明けてきたね。ダミアン」

 ダミアン「ラジオも聞いていたが、断水も終わったらしい」

 クリス「よかった。……忘れられない夜になったね」

 ダミアン「……まぁな。」


 その声に、セナが毛布の中でもぞぞと動き、少しだけ顔を出した。


 セナ「……ん……もう、朝?」


 その声に、ダミアンとクリスが振り返る。

 クリスがセナを見て、静かに微笑んだ。


 クリス「おはよう。セナ。何か食べるかい?」

 ダミアン「……コーヒーを入れる」


 セナがあくびをしながら起き上がると、コーヒーの香りが鼻をくすぐった。


 セナ「……変な夜だったね。でも、悪くなかった」


 三人が窓の外の光を見つめる。


 セナ「ダミアン、クリス。……あけまして、おめでとう」

 ダミアン「……ああ。新しい年だな。」

 クリス「……おめでとう。今年が皆さんにとって、少しでも静かな年でありますように」



 しんと静かな空間に、コーヒーの香りと、朝の気配が穏やかに広がっていった。


 窓の外は―――雪で、真っ白な世界になっていた。

 空は青く晴れやかで、透き通っている。


 朝日が、静かに室内に差し込んでくる。

 光が、舞い戻ってきた。

 また、新しい一年が始まる。




―――――――

今年一年有難うございました!来年もどうぞよろしくお願いいたします。

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