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魔法陣エンジニア|その天罰は、加護だった。移民女性の魔法技術者が秘密を暴く、多文化群像ドラマ  作者: chamoro
第二章 血濡れの魔法陣

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第2話 ツバメのフェリオ

「あいつ……とんでもねぇ体幹してんな?!」

ジャンは犯人を追いかけながら、フェリオのその移動の様子を見て、愕然としていた。

肩で人を弾きながら、風のように建物を移動するフェリオを追いかける。


「おい、フェリオ!危ねぇから下に降りろ!」

「だ、大丈夫です!これなら、俺のほうが早いんです!」


実際、人混みをかき分けるより、パルクールで移動しているフェリオの方が早かった。


フェリオが風のように進む。

屋根瓦が義足で叩き割られる。

二度。三度。と壁を蹴る。


そしてフェリオの進路が、途中で足場が小さな立てた鉄パイプだけになった。

しかし―――


「どんな足場でも―――俺なら行ける!」


―――鉄パイプも迷わず蹴る。義足の裏から火花が散り――飛んだ。


フェリオの移動を見た市民から、声が上がる。


「あの騎士団員、まるで飛んでるみたいだ!」

市民が、軽快に建物から建物へ移るフェリオに驚いて、指を差している。

フェリオはその声を聞き、顔を赤くしながらも、心が踊るのを感じた。

―――自分の速さが認められることが、こんなにも嬉しい。


ジャンが、犯人もフェリオも見失わないように、地上で走って追いかける。

「クソッ、あいつ、鳥みてぇな動きしやがって! 追いかける身にもなってみろ!」

ジャンは、フェリオの危なっかしい移動に、内心ヒヤヒヤしていた。


そんな中、犯人は、後ろを振り返り、フェリオを見て目を剥いていた。

「な、なんだあいつ!?」


そして、地上で追いかけてくるジャンにも目をやる。

「クソ、道からも追いかけられてる!」


犯人は露天をひっくり返したが、ジャンは露天のテーブルを掴み、力を込めて横に避けた。


テーブルは、ジャンの握力でバキッと破損し、掴んでいた部分が折れかかった。

テーブルが置かれた地面は、石畳が割れている。


犯人はそのジャンの怪力を見て、悲鳴を上げた。

「ど、どんな握力なんだよ!? バケモンどもがぁっ……!」


犯人はスピードを上げようとするが、人混みでなかなか前に進まない。

「クソッ!鳥みたいなやつと熊みたいな怪力……俺はサーカスに追われてんのか!?」

犯人が前をむいた時、あっと思った。


眼の前が、行き止まりだ。ゴミ捨て場だった。


「確保――――!!」


その声とともに、フェリオが壁を蹴り、犯人に向かって飛び込んだ。

そして犯人に勢いよく掴みかかかり、犯人と共に道に倒れこんだ。

しかし、勢いが強すぎて、そのまま犯人と一緒にゴロゴロと転がり、二人でゴミ捨て場に突っ込んだ。


「クソッ!追いつけたのに…いてて……あ!まて!」

「はなせ!」


ゴミ袋の間で、フェリオが犯人を羽交い締めにしようとするが、体格差があり、犯人が確保できない。

フェリオが追いかけようとするが、足に力が入らず、立ち上がる事ができなかった。

肩でぜぇぜぇと息をしている。全身を使った移動でスタミナ切れを起こしていた。

その隙に犯人が、急いで立ち上がり逃げ出そうとする。


しかし―――グンと左腕を引っ張られ、強い握力で捻り上げられた。

「いっ―――!?」


あわてて犯人が振り返る。そして、反対側の手も捻り上げられる。


「よぉ。逃げるんじゃねぇよ。俺とまだ遊んでねぇだろ?」

手首を捻り上げているのは、ジャンだった。


「ジャンさん!」


フェリオが叫ぶ。ジャンは、信じられない力で犯人の手首をひねっていた。

手首の骨が、ミシミシと悲鳴を上げる。痛みで犯人から変な声が出始めた。

このままでは、骨が捻られて折れる。


「も、もう真面目に働くから許してくれぇ!」

犯人が泣きながら、ジャンに懇願をした。


そして犯人は、ジャンに横っ面を殴られ、地面に叩き伏せられた。

犯人は痛みに呻くが、腕が捻り折られるよりは、遥かにマシな痛みだった。


「ったく……余計なことさせやがって」

犯人が静かになり、ジャンがそのまま捕縛魔工具で拘束する。

犯人は、静かなものだった。


ジャンは、ゴミ捨て場でころんだままのフェリオに目を向ける。

「おいフェリオ、大丈夫か? ひっくり返ってるぞ?」

「す、すみません! ちょっと早すぎて止まれませんでした!」


ジャンはフェリオの右足の義足を見て、静かに質問した。


「……お前、もしかして『ツバメのフェリオ』か?」

「っ、や、やめてくださいよ、その呼び方……!」


フェリオが、急に顔を真赤にし、唇がわなわなと動いた。


「やっぱりな。この辺の地区で、噂になってる新人団員がいるって聞いたんだよ」

そう言いながら、ジャンはフェリオに手を差し出し、ゆっくりと立たせた。

「その新人が入ってから、担当地区だけ異常に捕縛率が上がってるってな。まさか義足とは思ってなかったが」


「……『ツバメのフェリオ』か、確かにな。建物の間をツバメみたいに飛び回ってた」

「そ、それは皆が勝手に……」

「そんな恥ずかしがるなよ。通り名が欲しいのに貰えないやつもいるんだ。胸はれよ」


あとから数人の騎士団員が追いかけてきたので、ジャンが犯人を引き渡した。

もちろん、盗まれたハンドバッグは取り返した。


そして、フェリオとジャンはまた最初の事件現場付近に戻る。

戻ってきた二人を見て、セナとビョルンが驚いた顔をしていた。


フェリオが、取り返したハンドバッグを初老の婦人渡すと、女性がにっこりと微笑む。

「あら~ありがとう!騎士団のツバメちゃん!」

「!?やっ、やめてください!また騎士団の先輩にからかわれるんでっ!」


「……ツバメちゃん?彼がですか?」

セナが、きょとんとしながら、女性に話しかける。

「すごいのに小さくて可愛い、騎士団新人の『ツバメちゃん」。皆そう呼んでるわ」

初老の女性が、フェリオを見てふふっと柔らかく笑う。


「ツバメちゃん、すごいけと、確かに可愛い……」

「ちょ…!俺はかわいくないですっ!」

セナが呟くと、フェリオが、顔を赤くして強く否定する。

初老の女性の方は、その若さによる頑固さも、可愛いと思っているのだろう。


「ふふっ、いつも有難うね。じゃあまたね。かっこいいツバメさん」

女性はバッグを大事に抱え、嬉しそうに去っていった。

『かっこいい』と言われたフェリオは、相変わらず耳が赤かったが、口元だけがほんの少しほころんでいた。


「ツバメちゃんねぇ……」

「……!ジャンさんまで!やめてくださいよっ……」

ジャンはフェリオを見てニヤついたが、本人が恥ずかしがっているので、それ以上からかうのはやめておいた。


その時、マルコが倉庫から出てきた。ジャンを見つけると、小走りに向かって行き、声をかける。

「ジャンさん。犯人捕まえたって聞きましたよ。さすがっすね」

「いや、俺じゃなくて、最初に捕まえたのはフェリオだ。俺は手伝い」


ジャンがフェリオを指差す。ジャンは走って汗だくだったが、フェリオも追跡で汗だくだった。

フェリオが熱くいのか、インナーシャツの裾から空気を入れようと、お腹の所で服をばたぱたさせている。


しかし、セナは見てしまった。フェリオの腹筋が、まるで板チョコレートの様に溝が刻まれていることを。

身長と比べて、相当な筋肉量と体幹を持つのだろう。

……やはり、可愛い新人というだけではない。


ビョルンもそれに気づき、口から思いの外言葉がこぼれた。

「フェリオ、すげぇ筋肉してんな……だから壁走り出来るのか……」


それを聞いて、マルコが嘘でしょ?と質問をする。彼はその瞬間を見ていない。

「え? 人って壁走れるんですか??」

「……走ってたんだよ……」

「まじですか!?」


「……すげぇとは思う。が、危なっかしくてヒヤヒヤしたぞ……」

ジャンが、腕を組みながら、フェリオを上から眺める。

その光景は、無茶を叱る先輩のそれだった。


「俺、速さしかないんで……でも、それで役に立てるならと思って……」

フェリオは、しゅんとしながら、だが、速さだけは譲れない。と強い意志を込めて言った。

「ま、悪くはねぇがな」

ジャンはそう言って二カッっと笑った


その時、小屋のほうから低い男性の声が聞こえた。


「何をしている。現場にもどれ」

長身痩駆の黒衣の男が、こちらへ歩いてくる。ダミアンだった。

「ジャン、ひったくり犯を捕まえたところで悪いが、現場に戻れ」

「了解、主任」


そして、ダミアンはセナとビョルンに向き合う。

「貴様らは、引き続き、あの奇妙な文字や、過去に似たような魔法陣があったか調べてくれ」

「わかった。調べてみる」


セナとビョルンはそう言い、事件現場から離れた。


――この時はまだ誰も、何が起こっているのか、理解しているものは、一人もいなかった。


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