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第3話 大精霊祭用の魔法陣

セナ、ビョルン、アネッタがステージに乗り、魔法陣全体を歩いて見渡す。


「じゃあ、さっそく調べていくか」

ビョルンが防護用の手袋を両手にはめる。魔法陣にしゃがみ込み、埋め込まれている鉱石などを調べていく。


そして、ビョルンが腰の道具入れをゴソゴソと探し、メーターがついた、魔力の流れを計測するテスターを取り出した。めぼしい鉱石を確認すると、そこに魔力テスターを固定し、スイッチを入れた。テスターのメーターが回り、微量の魔力がゆるく魔法陣に流れていくのがわかる。魔法陣全体が、蛍石の様に、薄くぼんやりと光っていた。

アネッタも魔法陣に沿って歩いたり、書かれている線を触ったりしている。


セナも、魔法陣を観察し始めた。

さすが大精霊祭用の魔法陣だ。絢爛豪華な作りをしている。確か、資料で見たときは、250年ほど前につくられたものだと書かれていた。


ただ、現在の技術と比べると、魔力の無駄も多い作りだった。


すべての線がほぼ均一に書かれており、過剰に魔力を消費する構造になっている。使われている線の素材もあまり種類が無いように思えた。とはいえ、それらを差し置いて考えても、250年前でこの技術は目を見張る物がある。


ビョルンが、光る鉱石を確認しながら言う。

「祭りの装飾という意味ではいいが、不必要に複雑な装飾も多いな……儀式に影響を与える部分とそうでない部分が見分けにくい」


それを聞き、セナも考えていることを口に出していく。

「私も魔力の流れを見ていたけど、細かな調整ができていないみたいだ。ほら、こことか線の交差点で魔力が渦を巻いてる、無駄な力が漏れているみたいだね」

「うーむ。性質が逆の魔力がぶつかって、圧力がかかってるのかもしれないな」


アネッタもこちらに来て会話に加わる。

「ざっと見てきたわ。呪文が古代精霊語で非常に美しいけど、一文読み上げるごとにエネルギーを消費するようね。ただ、これを変えるかどうかは、セプティム教会に相談したほうがいいように思う」


今は確認のために、緩く魔力を流しているだけだが、魔力の光がちらつき、どこか不安定な印象を与えていた。

「セナ。全体を見て、どう思う?」


セナが少し考え込んだ後、目視で確認できる範囲で、思った事を話す。

「……神官を七人必要とすることと、呪文の詠唱に三時間かかるというのは、別な問題として考えたほうがいいかもしれない」


「どういう事?」

アネッタが質問した。


「仮定だけど、神官を七人必要とするのは、魔法陣に効率よく魔力がたまらないため。呪文の詠唱に三時間かかるのは、古代精霊語で書かれており、効率よく溜まらない魔力を詠唱にも使ってしまうからでは?と考えたんだけど、どうだろう?」


「なるほどな。それはあり得るかもしれない」

ビョルンが意見に同意する。アネッタが、それに続いて口を開いた。

「この呪文を解析しないとわからないけど、その仮定で原因を探して見ましょう。戻ったら、1/10スケールの魔法陣で試すのは良いかもしれないわ。どのくらい古代精霊語が魔力を消費するのか見てみないと」


セナが、グレースに振り向き、質問を投げかけた。

「グレースさん、古代精霊語に関してですが、この言語を発音できる神官の方は、ここにどのくらいいらっしゃいますか?」


「実は、今いる神官の中では、六十歳以上の神官の方しか発音ができません」


ビョルンがそれを聞いて納得したように腕を組んだ。

「その年齢の方が三時間詠唱するのは確かにきついだろうな。椅子に座るわけにもいかないし」

なるほど、だから今回、依頼が来たのか。セナは合点がいった。

「おそらく、魔法陣のほうは改善のしようがあるが、呪文のほうをどうするか……」


古代精霊語を採用している意味はわかる。古代精霊語は安定性があり非常に強力だが、場合によってはオーバースペックになりうる。お湯を沸かしたいだけなのに、地獄の業火を使う必要があるのか? しかも、その業火を発生させるために、まず難解な発音を何度も練習しなければならない。

これでは、効率が悪すぎる。


近しい言語の代替え案として、近年採用されている新精霊語を採用するのがよいと思われた。

古代精霊語よりは低レイヤーへの解像度が下がるが、この祭りではそこまでの機能性を必要としないはずだ。特定の名のある大精霊を具現化して召喚するとかなら話は別だが。

新精霊語の構造上、補えないものは、魔工でサポートする方向にしたい。この言語のいいところは、魔工装置に適応しやすい言語であるということだ。


前にこの魔法陣を設計した人は、非常に能力が高く、拡張性を考えて設計してくれたのかもしれないが、人口の減少で拡張どころか縮小する事になったのは予想外だったのだろう。

それでも、複雑な事には代わりないが。


セナは魔法陣全体を、もう一度見回した。

……胸の奥に、ひっかかることがある。


技術的改善は、これでいいだろう。しかし、それとは別に、一つ問題がある。

――どこまで変えることを、受け入れてもらえるか?だ。


セナは、光のゆらめく魔法陣の中心に立ち尽くし、その問いの重さを感じていた。

それは技術的な問題ではなく──誰かの信念を、静かに揺らすことになるかもしれないから。

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