番外編 解呪師チーム、爆発現場へ
※これは、爆発事故のあの日。
セナやビョルンが被害を受けた現場に、解呪師チームが駆けつけたときの記録。
解呪師たちの“仕事の顔”の一幕。
* * *
研究棟、解呪師チーム詰所。
その別室で、ダミアン、マルコ、ジャンたちが任務報告や装備整理をしていた
そのとき、遠くから爆発音――明らかに“ただごとじゃない”音が響きわたる。
部屋の空気が、一瞬で“緊急対応”に切り替わったのは、爆音が天井を震わせたときだった。
マルコが顔を上げる。
マルコ「……この距離でこの振動、普通の実験ミスじゃない。魔力の暴走っぽかったですね。規模的にレベル2ぐらいか?」
その後、三人同時に立ち上がり、ほとんど意思が存在しないかのように、装備が置いてある棚へ向かった。
ジャン「現場は多分、北棟第二区画だ。煙が見える。あそこにいるの、大精霊祭用の魔法陣作ってるってチームだったよな?」
ダミアン「…現場に向かう。装備は最小にしろ。全力で動け」
三人は言葉少なにそれぞれの道具を手にする。
マルコは小型の計測道具を、ジャンは補助用の防護魔工具を、ダミアンは人命救助用の魔工具を手にした。
廊下に出た瞬間、何かが焦げた匂いが鼻を刺した。マルコは顔をしかめる。
マルコ「うわ、もうここまで魔力の痕跡がある」
ダミアン「行くぞ」
ジャン「主任、現場まで何分で着く?」
ダミアン「八分。……だが、五分で動け。遅れれば、死人が出るかもしれん」
廊下を曲がった先に、床が吹き飛んだ研究室が現れた。
爆風で蝶番が外れたドアから、もくもくと煙が立っている。
ドアの中は、床材がめくれ、煙が充満し、濃い魔力がまだ渦巻いている。
ジャン「魔力がこれ以上漏れないように防護結界を張る! マルコ、残留魔力の確認をしろ!」
マルコ「魔力の濃度が濃い……。部屋の左奥が爆発現場です」
ダミアン「中を確認する。マルコ、俺とジャンの後方支援にまわれ。ジャンが結界を張ったら行くぞ」
ダミアンがジャンと共に瓦礫を乗り越え、二手にわかれる。
そこから距離をとり、マルコが後ろから防護魔法をかけ続けている。
ジャン「おい!誰かいるか!?」
ダミアン「……おい。あそこ」
煙で前が見にくいが、散乱した机や棚の間に、小さくうずくまる影を見つける。
ダミアンがそれに近づく。煙の中でも輪郭がはっきりしてきた。
ダミアン「その黒髪……おい、貴様、セナか?」
セナと呼ばれた影は、呼びかけに反応はしなかったが、意識はあった。
ローブの裾が焦げ、四つん這いになって突っ伏している。顔は見えない。
血を流してるのか、床にポタポタと赤い点を作っていた。血は少量なので、重症ではなさそうだ。
セナ「……!」
ダミアン「喋るな。息を整えろ」
セナの上体を支えて立ち上がらせる。
顔を見ると、鼻血が出てる事が確認できた。しかし、こちらの問いかけには、反応がない。
彼女の温かい血が、手の甲を伝った。
鼓膜と目がやられているのかもしれない。
火傷と打撲の痕は少しあるが、大した物ではなさそうだ。これは幸運だ。
セナを抱き上げると、小さな体が、小刻みに震えていた。
セナ「トニとビョルンは……?」
セナが、かすれた声で弱々しく呟いた。
ダミアン「!」
ダミアンは、二人の名前を聞き取ると、後ろを振り向きジャンに伝える。
ダミアン「ジャン!トニとビョルンがいる、探せ!」
ジャン「主任!発見しました!二人は奥に倒れてる!」
ダミアンは、「今向かう!」と叫びながらまた煙の中に入っていった。
* * *
少し奥、崩れた棚の下――
ビョルンは頭を打ち、瓦礫で頭を切り、小量の血を流しながら壁にもたれていた、意識は薄くある。普段からの安全確認のおかげで、重症は避けられたようだ。
その向こうで、トニが伏せた状態で倒れていた。床に爆発の痕が滲んでいる。
ビョルンの薄く開いた視界に、黒い影が飛び込んできた。
ダミアン「ビョルンを発見した。全身打撲、意識はあるようだ」
ジャン「こっちは意識混濁。……反応が鈍いな、脈も弱い。急がないと、持たないかもしれないぞ」
ダミアン「マルコ、手伝え。トニは俺が運ぶ。すぐ応急処置をする。ビョルンはジャンが運べ。……ここはすぐに封鎖する」
ビョルン「ト……トニは無事か?」
ダミアン「……ああ。無事だ。助かる」
ジャン「心配すんな、主任がついてるから助かる」
ダミアンとマルコが、トニに振動を与えないように、ゆっくりと運ぶ。トニの体から、血がポタポタと流れる。歩いた後が、血の道標のようになった。
ダミアン「トニの応急処置をする。マルコ、医療班が来たら状況説明しておけ。ジャンはここをすぐ封鎖しろ」
マルコ、ジャン「了解。」
ダミアンが、集中してトニの応急処置を始めた。
解呪師は治癒師もかねており、医療知識もある。しかしダミアンができることは応急処置が主だ。
「……大丈夫だ。血圧も、脈も安定し始めている」
人命救助用の魔工具のおかげで、トニの血圧が一定値で安定した。これですぐに医療室に運べば、助かるだろう。
セナとビョルンを無事に医療室に運ばれた。
そこから数分後、騒ぎを聞きつけた、医療班が飛んできた。
「クレヴァンスさん!おそくなりました!」
ダミアン「もっと早く来い、トニの応急処置は終わっている。マルコ、あとは任せる」
そして、ダミアンは、念の為の確認で、再度、煙の中へ足を踏み入れた。
「毎回あの速さって、現場につくの早すぎます……見てると背筋が伸びますね」
医療班の一人が呟く。
マルコ「こういうとき、クレヴァンス主任って無敵なんすよね……何かの力が降りてるのかも」
夏の中にいた、そんなお話―――
* * *
「……ダミアン……ありがとう……」
混乱状態のなか、担架に乗せられ、セナがぽそりと枯れた声でつぶやいた。




