生徒会室 政春
「さっきは危なかったわねぇ」
一時間目がおわるとすぐ、恵梨華は私の席に来た。
「そうねぇ。生徒会長の妹が遅刻なんてしたら笑われるところね」
花鈴は恵梨華に返す。
恵梨華の兄は3年生。運動から勉強まで何でもこなす。そんな恵梨華の兄・政春も数多い花鈴ファンのひとりだ。
恵梨華は相変わらずクスクス笑っている花鈴を軽く睨んだ。
「もう、花鈴。いつまで笑ってるのよ」
「ごめんね。でもあなたに遅刻なんて似合わないんだもの」
わかってるわよ、そんなこと。だから恥ずかしがってるんじゃない。それに自分だって、田端財閥のご令嬢が遅刻しそうだったくせに!
恵梨華は内心穏やかではない。
「ほらあ、いつまでもそんな顔してないでさ、ちょっと生徒会室まで付いてきてくれないかしら」
はいはい、わかりました、お嬢様。首相の孫娘でよろしければ行きますとも。
恵梨華はぼやきながら仕方ないか、と諦める。
だって、花鈴はそのふわふわしたとこが良いんだもの。
そしてにっこり笑い、花鈴を追いかけた。
「花鈴ちゃん早くこないかなー」
政春は目の前に積まれている書類の束を見るともなく眺めながら、花鈴のうっとりさせるような笑顔を思い描いた。
花鈴に好きな人がいるらしい、という噂がたち、政春はいてもたってもいられず、くだらない理由で花鈴を生徒会室に呼び出したのだ。しかし、花鈴に好きな人がいたからなんだと言いたいのか、政春はまだ自分自身よくわからなかった。
ひとりしかいない部屋でため息が大きく響いた。