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妖幻ファイターザムシードⅠ 凡人ヒーローと天才美少女の物語  作者: 上田 走真
第20話・酒呑童子の鼓動(vs茨城童子・虎熊・金熊)
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20-3・紅葉の覚悟~燕真14才

-数秒後-


 愛し合う姿を他人に見られるのは嫌だ。血祭りに上げた粉木を土蔵の外に棄てて、扉をピシャリと閉める。

 紅葉は、寝ている燕真の前に立ち、ゴクリと唾を飲んでから、緊張した表情で、再びインナーシャツに手を掛け、スウッと息を吸って、勢い良く・・・


ガシャン!!

「んぎゃっっ!!」


 お氷が、紅葉の脳天に、氷柱を思いっ切り叩き付けた!

 捲り上げたインナーから手を離して、頭を抑えて蹲る紅葉。


「ぃったぁぁ~~~~~ぃ!!!」

「愚か者・・・妄想が暴走しすぎだ。誰が、今すぐに繁殖行為を行えと言った?」

「・・・・・へ?だって・・・燕真を助けたきゃ、燕真とェッチをしろって・・・」

「それくらいの覚悟はあるのか?と聞いたのだ。

 たいたい、ただの繁殖行為で、闇に食われかけた人間が助かるわけが無かろう。

 最後まで話を聞け。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・だぁってぇ~~」

「まぁ・・・今の行動を見れば、覚悟は充分に伝わった。」



-土蔵の外-


 壁に背もたれにして座って待機する粉木の前に、人影が立つ。


「オマン・・・有紀ちゃん?」


 それは、紅葉の母・源川有紀。口に人差し指を当て、「土蔵内の娘に存在を悟られないように」とジェスチャーをする。


「お氷を寄こしたんは、やはり、オマンやったか?」

「引退した身で深入りは避けたかったのですが、見過ごせる状況ではないので。」

「オマンが提供してくれた『酒』メダルに足元を崩されるとは思わんかった。

 オマンが退治屋の足を引っ張るとは思えんが、魂胆はなんや?」

「このあと、紅葉や佐波木君がどうなるのかは、私にも解りません。

 メダルの提供も、佐波木君が汚染されることも・・・彼の意思です。」

「・・・『彼』・・・か。」


 粉木は「彼」を信用しているわけではない。だが「彼」を信用する有紀のことは信頼している。完全に詰んだ今の状況を打破する為に、粉木は有紀の意思に託すことにした。



-土蔵内-


 お氷が紅葉に、燕真を救う方法を説明する。


「決して難しい事ではない。だが、危険はある。

 場合によっては、おまえ(紅葉)も死ぬかもしれない。

 それでも、試す覚悟はあるか?」

「ぁるょ!・・・そんなの、決まってるぢゃん!」

「・・・ならば」


 お氷が「仰向けに寝かせた燕真の上に、闇に汚染された和船ベルトを置くように」と指示をして、紅葉が言われた通りする。準備が整うと、お氷は和船ベルトに手を添え、凜とした掛け声と共に、冷気を送り込んだ。


「これで、一時的に、闇を凍てつかせて動きを鈍らせた。

 しばらくは、霊的干渉を行っても、闇が暴走する事はないだろう。」


 闇に食われた人間を救う方法。

 それは、体内に巣くう闇を染めるほどの霊気を送り込んで闇を洗い流す。それだけならば、紅葉でなく、粉木や雅仁でもできるだろう。むしろ、霊術に長けた雅仁の方が得意だ。

 しかし、それだけでは、傷だらけになった魂が保たない。体の中が浄化されても、闇の中で無防備にされている魂が死んでしまう。傷付いた魂を救う為には、それを護る為の術者の心が必要なのだ。

 術者は「心の中の最も隠したい部分」を対象者にさらけ出して、触れられるほどの覚悟が必要。お氷は、それを「裸を委ね肉体を結ぶのと同じ覚悟」と表現した。

 術者の心で対象者の心を起こして、対象者自身の意思で魂を防御する。力だけでは心を壊し、心だけでは力に届かない。心と力を併せ持つ必要がある。粉木や雅仁には不可能だが、紅葉ならば可能かもしれない理由が、其処にある。


「一番隠したぃ気持ち・・・燕真にゎ、そんなの無ぃから大丈夫!」

「助かるも助からぬも、あとは、おまえ次第。

 人間如きの為に、ここまで手を貸してやったのだ。徒労には終わらせるなよ。」

「ぅん!ァリガトウ、お氷!」


 お氷は、そう言い残すと、土蔵から出て、紅葉の死角で待機をしている有紀とアイコンタクトを取り、吹雪を纏ってその場から消えた。


「・・・燕真。絶対に助けたげるっ!」


 紅葉は、仰向けに寝ている燕真に跨がり、燕真の胸の上に置かれた和船ベルトに手を添える。

 あとは紅葉の力量と想いの強さ次第。一途な想いを乗せた燕真の救出が始まる。




-富運寺の石段-


 ギガショット発動!鳥銃・迦楼羅焔から、発光した白メダルが発射され、立ち塞がる鬼を貫く!鬼は雄叫びを上げて爆発四散!

 周辺の鬼は片付けたが、牛頭鬼と馬頭鬼の姿は無い。まだ倒していないので、これから仕掛けてくる?それとも、撤退した粉木達を探している?


「今は、迷っている時では無い。」


 心配だが、今は防戦を尽くす時ではない。鬼達の巣窟に攻め込み、牙城を陥落させなければならない。

 ガルダは、袋に入った銀塊を確認する。銀塊に込められた念を使えば、戦いで消耗した妖幻システムのエネルギーをチャージできる。あと5~6戦を行うくらいの残量は充分にある。


「本隊がアテにできないのは厳しいが・・・全部の鬼を相手にする必要は無い。

 軍団の一点をこじ開けて、大将クビを捕れれば充分だ!」


 ガルダは、次の戦地となるべき富運寺を睨み付ける。




-YOUKAIミュージアム・土蔵-


 燕真の胸の上にある和船ベルトに、念を送り続ける紅葉。念は和船ベルトを通過して、燕真の体の中に流れ込んでいく。


「んんんっっ~~~~~~~~~~~~~~~!!!」


 急速的に力が抜けていく。流石に、石礫のような銀塊1個に念を込めるのとは違う。紅葉の中にある全てを注ぎ込んでも足りないのではないか?しかし、そんなことはどうでも良い。余力を残すつもりはない。全てを投入する。


「絶対に燕真ゎ助かるっっ!!」


 紅葉の中で大きなと音を立てて、何かが弾けたような気がした。


「んぇぇ?」


 霊術を学んでいないがゆえの「限界の読み違え」だろうか?不思議なことに、「ァタシの中にある力ゎこのくらい」と考えていた内包量を越えても、ダムが開かれて堰き止められていた水が流れるように、霊力は次から次へと溢れ出してくる。


 力が抜けて意識が朦朧とするのに、高揚感を錯覚する。


「・・・60・・・ばん」


 ホワイトアウトをしていく視界の中で、紅葉は、陸上競技場を走る少年を見詰めていた。




***燕真の意識体の中***


 光在る上空から遠ざかり、暗い海の中を沈んでいくような感覚。光を求めて懸命に手を伸ばすが、体が全く動かないので、暗い海から浮かび上がることができない。


 ブラックザムシードに変身して以降、何度も同じ夢を見た。暗い海の中を沈んで、苦しくて必死に藻掻き、何とか海上に這い上がった所で目が覚め、夢だったと安堵をする。そして、また同じ夢を見る。身も心もボロボロになっていくような気がして怖かった。それでも、護る為には、ブラックザムシードに変身するしかなかった。


 今までは、這い上がって悪夢から逃れた。しかし、今回は違うようだ。這い上がりたくても、闇に縛られて体が動かず、沈む一方。

 このまま抗えずに闇の中に沈んでいくのか?これがブラックザムシードを行使した結果なのか?燕真、「もう何もできない」と受け止めることしかできなかった。何もかもを諦め、そっと目を閉じ、消えていくことに身を委ねる。


「・・・燕真!」

「????」


 何処からか、自分の名を呼ぶ少女の声が聞こえる。とても懐かしい声なんだけど、それが誰の声なのか思い出せない。


「ガンバレ!!」

「・・・え?」


 また、少女の声が聞こえる。


「紅葉か?・・・いや、違う?」


 幼い少女の声。遠い記憶の底に、その声を聞いた覚えがある。


「ガンバレ!60番!!」


 燕真は眼を開いた。中学生だった頃、地区の陸上競技部の大会で、スタンドから応援してくれる少女がいた。髪の毛を2つ結びにした小学生の少女。


 燕真に支給されたゼッケンは60番。校内では、特に期待をされた番号ではない。

出場した3000m走の中盤で転倒をしてしまい、痛めた足を引きずりながら最下位を走り、自分を見てせせら笑う声が聞こえる気がして、恥ずかしくて何度もリタイヤをしようと考えていた。

 どうせ、バスケ部の補欠が、陸上部の数合わせに呼ばれただけ。ハナっから、記録を作る気も、陸上に対する思い入れもない。・・・だけど、懸命に応援してくれる女の子がいた。


「ガンバレ!60番!!」


 女の子がどこの誰なのかは解らない。どんなに頑張って走っても、最下位は覆らない。だけど少年時代の燕真は、女の子の声援を勇気に変えて最後まで諦めずに走りきることにした。途中で止めてしまったら、女の子の期待を裏切るような気がした。


 ゴールをした時、会場のみんなが、自分に声援を送っていることに初めて気付いた。投げ出さずに最後まで走った燕真には、温かい拍手が送られていた。スタンド席にいる女の子も、懸命に拍手を送ってくれている。

 正直言って恥ずかしかった。もっと活躍をして拍手を貰いたかった・・・でも、少しだけ嬉しかった。


「なんで・・・今頃になって、あの時の?

 走馬燈ってやつ・・・か?」


 燕真は、凡才で要領も悪い為、思い通りに行った経験など、殆ど無かった。だけど、「適当にしかやらなかったから上手く行かなかった」と言い訳をするのが嫌い。自分を裏切りたくないので、できる限り全力で挑んだ。

 数合わせの陸上大会で、ゴールまで最下位を走りきって拍手を貰ったことは、何も為していない燕真にとっては、僅かな勲章だったのかもしれない。


「・・・燕真!」


 また、自分を呼ぶ声がする。理由は解らないけど、中学3年生の夏と同じ「応援してくれる小学生の女の子を裏切らない為に、最後まで頑張らなきゃならない」って気持ちが芽生えてくる。

 闇に沈みながら、声のする方に手を伸ばす燕真。闇の中から、小さな手が伸びてくる。小さな手が誰の物なのかは解らない。だが、以前にも同じようなことがあった。


 無様に走り終えた後、医務室で「捻挫」を告知された燕真は、大会帰りの公園でブランコに座り、痛めた足首を眺めていた。この足では、バスケの最後の大会には出場できない。しかし、どうせ補欠だ。レギュラーが故障した時か、勝ちが決まったゲームにしか、出場をする機会は無い。


「捻挫した足を口実にすれば・・・試合に出られない大義名分になるか・・・。」


 燕真は「仕方無くスタメンから外される理由」を作ったあと、それが「自分を誤魔化す為の言い訳」と気付いて直ぐに訂正する。


「あれ?・・・俺、何、言ってんだろ?バカじゃね?」


 他人に走ることを押し付けられて転倒して、他人の所為で中学最後の夏が終わったわけではない。仲間に誘われて、その気になって出場して、自分の責任で足を痛めた。


「どんな言い訳をしたって、悔しいのは悔しいんだよ。」


 溜息をついて顔を上げると、公園の入り口で、先ほどの2つ結びの女の子が、ジッと燕真を見つめていた。眼が合うと、何故か女の子は逃げようとする・・・が、途端に公園入り口の車止めポールに足を引っ掛けて、持っていたお菓子をぶちまけてスッ転ぶ。スカートは全開で捲れ上がり、パンツは丸見え・・・まぁ、小学生のパンツを見ても、嬉しくも何ともないが。


「おいおい、大丈夫か?」


 燕真は、痛めた足を引きずりながら女の子に近付き、女の子を抱っこして立たせ、服に付いたホコリをポンポンと祓ってやる。


「・・・60番?」

「・・・ん?」

「ゼッケン60番の人?」

「あぁ、そうだよ」

「・・・・・・・・・・・・・」

「応援してくれて、ありがとな。」

「・・・うん。」

「膝・・・同じになっちゃったな」

「・・・ん?」


 不思議そうに眺める女の子に対して、自分のズボンの裾をめくって膝を見せる燕真。女の子の膝と同じ、転んだ時の傷がある。


「あ!痛そう!」

「君もな」

「・・・うん」


 バラ巻かれたお菓子を拾い上げ、袋に入れて女の子に返す。女の子は、袋からお菓子を1個出して、燕真に差し出す。


「・・・食べる?」

「ん?・・・あぁ・・・ありがとう」


 その時、お菓子を握って差し出された手が・・・今、闇の中で、燕真に伸ばされた小さな手と同じに見える。

 ‘あの時の手’に向かって懸命に手を伸ばす燕真。重たくて動かない体を奮い立たせ、小さな手に少しでも触れようとする。

 やがて、伸ばされた燕真の手が、小さな手に触れて結ばれた!


パァァン!!

 途端に、合わされた手から光が発せられ、眩しい洪水が暗い海を照らしていく。


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