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妖幻ファイターザムシードⅠ 凡人ヒーローと天才美少女の物語  作者: 上田 走真
第20話・酒呑童子の鼓動(vs茨城童子・虎熊・金熊)
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20-1・鬼印に汚染された燕真

 茨城童子は、容赦無くブラックザムシードとの間合いを詰めて、両手の鋭い鬼爪を振るい、ブラックザムシードは防戦一方になる!


「ふははははっ!先程までの威勢はどうした、小僧!?」


 ブラックザムシードは急激に体が重くなったように感じる!『酒』メダルを発動させてから4分が経過をしたが、応戦に必死で時間管理をしている余裕が無い!

 茨城童子は妖気の気配で臨界を感じ、勝ち誇った目でブラックザムシードを睨み付けた!


「貴様如きが御館様の力を振るった罪は、万死に値する!」


 茨城童子が3歩ほど退いて間合いを空け、ブラックザムシードに向けて掌を翳す!ブラックザムシードは妖気の衝撃波を警戒したが、発動したのは妖気乱舞に非ず!和船型バックルに鬼印が広がる!


「なにっ!?」


 今の戦いで鬼印を打ち込まれた覚えは無い!だが、間違いなくブラックザムシードを鬼印が捉えている!


「うわぁっっ!いつの間に!?」

「私が、いつから、貴様を陥れる手段を考えていたのか・・・

 思慮の浅い人間如きには想像できまい!」


 茨城童子が鬼印を打ち込んだのは、優麗高で戦った時。劣勢の状況下で、わざわざダメージにならない鬼印を発生させたのは、数日後にザムシードを陥れる為。鬼印が、ブラックザムシードに弾き返される直前で、茨城童子は爆発をさせて、その一部でザムシードを汚染した。

 念を掻き集めて妖怪を憑かせるには、鬼印の一部を打ち込むだけでは不完全。それでは妖怪は育たない。だが、既に妖怪が存在しているなら話は別。

 制限時間がオーバーして、臨界を越えてしまった『酒』メダルが、鬼印と混ざり合う!


「う・・・うわぁぁっっっっっっっっっ!!!」


 ブラックザムシード全身の至る所で小爆発が発生!糸が切れた操り人形のように崩れ落ちて変身が強制解除をされ、燕真が仰向けに倒れた!


「佐波木っ!」

「燕真っ!」×2


 交戦中のガルダが振り返る!駆け付けてきた紅葉と粉木が青ざめて叫ぶ!

 和船型バックルから吐き出された『酒』メダルを拾い上げる茨城童子!だが、それで終わりではなく、脱力した燕真の胸ぐらを掴んで力任せに引っ張り上げ、ガルダを睨み付けた!


「狗塚の小倅よ、どちらが良い!?

 この小僧の命と引き替えに、貴様の持つ御館様のメダルを渡すか、

 この小僧の頭を握り潰したあとで、我ら3人と戦ってメダルを奪い取られるか、

 貴様に好きな方を選ばせてやる!」

「鬼が駆け引きだと!?

 要求に応えれば、佐波木の命は取らないのだな!?」

「や、やめろ・・・狗っ!お、俺に・・・構・・・ぐぁぁぁっっっ!!」


 燕真は朦朧とする意識のまま、ガルダに「突っぱねろ」と要求をするが、話している途中で茨城童子に締め上げられて悲鳴を上げる!


「フン!一握りの雑草を惜しむ者がいるか?

 摘むも放置するも気分次第。

 この程度の小僧、生かしてやったところで我らには何の障害にもならん。

 殺す価値すら無いと言うことだ。」


 茨城童子の価値観では、燕真は道に生えた雑草と同じ。その生死など眼中には無い。


「わ、解った・・・要求をのもう。」


 ガルダは変身を解除。Yウォッチから『酒』メダルを抜き取り、名残惜しそうに数秒ほど眺め、茨城童子に向けて投げて渡す。それは、紅葉や粉木からして見れば、意外が光景だった。


「・・・狗塚」 「まさっち」


 過去の雅仁ならば、鬼の討伐と、人1人の命ならば、鬼の討伐に重きを置いた。鬼の要求などには従わなかっただろう。だが、今の雅仁は違う。例えそれが未熟な足手まといでも、仲間と共に在る居心地の良さを知ってしまった。

 鬼の討伐ならば、仕切り直しが利く。しかし、友を見殺しにしてしまったら、二度と取り戻せない。


「約束は守ってもらう。」

「フン!反故にする価値すら無い!」


 投げてよこされたメダルを受け取った茨城童子は、掴み上げていた燕真を乱雑に放り出し、5枚全てが揃った『酒』メダルを満足そうに眺める。既所持の3枚は、既に生命力と念で満ちている。燕真から奪い取った1枚も鬼印による汚染で満ちている。 ガルダから脅し取った1枚のみがカラの状態だが、100%の肉体で復活をした主ならば、僅かに不足した妖力など、人間を食うか生命力の吸収のどちらかで容易く集められるだろう。


「さぁ・・・行くぞ!虎熊童子、金熊童子!」

「えっ?コイツ等を殺さないのかよ、アニキ?

 拙者、だいぶ恨みがあるんだけどさ。」

「放っておいたとことで何もできまい。

 我らが優先すべきは、手負いの虫けらを潰すことではなく、御館様の復活だ。」


 姿を闇霧に変えて飛び上がる茨城童子。金熊童子が後に続き、最後に残った虎熊童子は不満そうに雅仁を睨み付けてから後を追う。闇霧になった3体は富運寺内に入っていった。

 鬼の幹部達が去ると同時に、雅仁&紅葉&粉木が、倒れたまま動けない燕真に駆け寄る。

 粉木は、虫の息の燕真を抱き寄せ、二の腕から手首にかけて‘くすみ’を視認しする。燕真の服を捲り上げると、腹を中心に、血が鬱血したように全身が黒ずんでいる。


「燕真っ!」


 手の施しようが無いことは一見しただけで解る。体中が闇に浸食をされている。霊感の無い燕真に鬼印を打ち込んでも、受け皿がゼロなので受け付けることは無い。だが、茨城童子は、『酒』メダルに鬼印を打ち込み、且つ、ザムシードに『酒』メダルの使用限界を越えて使わせ、ザムシードが闇で汚染されるように仕向けた。その結果、ザムシードという外殻から燕真の全身が汚染される。霊感の在る者ならば、体が闇に蝕まれ始めた時点で異常に気付いただろう。しかし、燕真は霊感ゼロゆえに、自身が闇に汚染されていることに気付けなかった。

 これが、他者に与えられた不相応な力を「自分の力」と錯覚して、霊感ゼロを‘特殊能力’のように誤解した結果だ。


「も、もう・・・・どうにもならん。

 まさか、本部が何の才能も無い燕真を選んだんは・・・この為なんかいな?」


 霊力を持たない燕真は、闇に食われても妖怪化をせずに死ぬだけ。粉木の脳裏には、「妖怪化をして実害を及ぼす可能性が無い」から、「燕真にザムシードのシステムが与えられたのではないか?」との疑念が持ち上がるが、「本部がそんな冷たい決断をするはずがない」と、直ぐに否定をする。


「あとは、死を待つのみ・・・ワシにできる事は・・・」


 粉木は、燕真の左胸に護符を置き、掌を添える。


「・・・せめて、安らかに死なせてやる事だけや」


 粉木が念を送った瞬間に、護符が暴発をして、燕真の心臓を止める。それが、闇に食われて、苦しみながら死んでいくしかない燕真を救ってやる唯一の手段と考えていた。

 古来より、闇に食われた退治屋が妖怪化をする現象は少なからずあった。退治屋同士では、妖怪化を防ぐ為に「闇に侵された仲間が、人間であるうちに命を止めてやる」という対処をしてきた。


「・・・燕真が・・・死ぬ?」


 呆然と眺めていた紅葉は、粉木の話す内容が理解できなかった。齢17歳の少女は、まだ、近親者の死に立ち会ったことがない。ましてや、「永遠に今の関係でいられる」と勝手に決めていた燕真が「死ぬ」などと言われても、片側の耳から、もう片側の耳に抜けていくだけで、頭の中に留まらない。しかし、粉木の真剣な表情は、それが‘冗談’ではないと告げている。

 なによりも、粉木が行おうとしているのが、「燕真の心臓を止める」行為であることは、紅葉にも理解できる。


「なに言ってんの?そんなワケ無ぃじゃん。

 ・・・燕真が死んじゃぅなんて有り得なぃ!!」


 紅葉は、燕真を庇うようにして粉木の前に入り、左胸に添えられていた護符を弾き落とす!そして、仰向けになって動かない燕真を抱きしめて、何度も名を呼ぶ。


「やめるんや、お嬢!このままでは、燕真が苦しむ続けるだけや!!

 今はもう、早う楽にしたるしかあれへん!!」

「そんなことなぃ!!燕真ゎ死ななぃ!!ァタシが死なせなぃもん!!」

「気持ちや気合いだけではせんない!!オマンにだって解るやろ!!」


 鬼印を埋め込まれただけなら、粉木や雅仁ならば処理ができる。だが、鬼印と酒呑童子の妖気が混ざり合い、ザムシードシステムを内側から汚染して、燕真の体に侵食という刃を打ち込んだ。これでは、邪気祓いができない。

 燕真の体は、霊感ゼロゆえに本人が気付けぬうちに、もう保たないところまで、闇に食われているのだ。


「嫌だ・・・燕真が死ぬなんて、絶対に許さなぃ!

 じいちゃんが何にもできなぃなら、ァタシが何とかする!!

 ァタシが、燕真の中にある悪い奴を全部追い出してやる!!」

「やめるんや!!除霊術も知らないオマンが何をする気や!?」


 紅葉は燕真の手を握り、燕真に直接、念を送り込む!途端に、燕真に滞在している闇が紅葉の手に侵入をして、同時に、燕真が眼を見開いて苦しそうな悲鳴を上げる!


「きゃぁぁぁっっっっっ!!!」

「うわぁぁぁっっっっっっ!!!」


 慌てて、粉木が紅葉を燕真から引き剥がして、紅葉の手に取り付いた闇を祓う。紅葉の手は、闇が消えて人肌色に戻るが、燕真を支配する闇色は、先程までと変わらない。

 霊感ゼロの燕真の体にある闇は、燕真の体の中にあるうちは活動をできない。しかし、餌と成る霊力が有れば話は別だ。紅葉が流した霊力に反応をして、燕真の中で活性化し、更に、霊力の発進源である紅葉を食おうとしたのだ。


 除霊術が使えようが使えまいが、体の中に流し込まれた霊力は、闇を活性化させる餌にしかならない。紅葉の行為は、闇に侵された者を苦しめてしまう。

 肩で息をしながら、闇に食われ掛けた指先を見つめる紅葉。ほんの少し闇が上がってきただけで凄まじい激痛が走った。こんな物を全身に抱えている燕真が、どれほど苦しいのか?紅葉には想像もできない。

 粉木の言う「どうすることもできない」が、ようやく紅葉にも理解できる。しかし、納得はできない。


「ぃやだ・・・ぃやだ・・・燕真が死ぬなんて、絶対に嫌やっっ!!

 お願ぃだょ燕真!寝てなぃで起きてょ!!

 寝たふりなんて止めてよぉぉぉっっ!!!」


 涙ぐみながら、何度も燕真の名を呼ぶ。粉木は、その行為が無駄と知りながらも、今の紅葉に掛けてやる声が見付からず、沈黙して、紅葉を見つめることしかできなかった。


「可能性は極めて低い・・・が、ゼロではない。」


 雅仁が、鬼達の去って行った富運寺を眺める。


「佐波木の体は、鬼印と酒呑童子の混ざり合った妖気に蝕まれている。

 酒呑童子の影響力を排除して、鬼印のみになれば浄化できる。」

「まさっち・・・それって?」

「つまり、酒呑童子を倒せば、佐波木を救える!」

「無茶や、狗塚!」

「本部からの援軍が向かっているんですよね?」

「2~3時間後には到着する予定や。」

「佐波木の延命処置は必要でしょうが、不可能な希望ではありません。

 鬼共が我らの反転攻勢を警戒しているのが、何よりの証明です。」


 Yウォッチに手を添え、周囲を睨み付ける雅仁!5つの闇霧が、雅仁達を囲むように出現する!


「茨城童子は、我らを眼中には入れていませんが、

 目の仇にしている者も居るということです!」


 5つの闇霧から、頭が牛の鬼=牛頭鬼、頭が馬の鬼=馬頭鬼、その他3体の鬼が出現!雅仁と退治屋を見逃すことを不満に思った虎熊童子の置き土産だ!


「粉木さん、佐波木のことは任せます!

 俺は、茨城童子達を追います!」


 雅仁は、左手首に巻いたYウォッチから『天』と書かれたメダルを抜き取って、一定のポーズを取りつつ、五芒星バックルに嵌めこんだ!


「幻装っ!!」 


 妖幻ファイターガルダ登場!鳥銃・迦楼羅焔を鬼達に向ける!

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