19-4・茨城の挑戦状~タイムリミット
-YOUKAIミュージアム-
妖怪退治を終えた燕真と雅仁が戻ってきた。粉木と紅葉が出迎える。紅葉がバイトに来る前に事件が発生した為、紅葉は膨れっ面だ。
「ァタシも行きたかった~!ァタシが来るまで待っていてくれれば良いのにっ!」
「無茶言うな!オマエ待ちで、妖怪被害を放置するわけにはいかないだろ。」
「でもさぁ~・・・出現すんの、弱っちい妖怪ばっかりぢゃん。
どう考えても、銀髪(虎熊)や金髪(金髪)に誘き出されてるだけでしょ?
だったら、ァタシが来るの待ってからでもダイジョブぢゃん!」
「確かに誘き出されている・・・と言えなくもないけど・・・。」
指摘された通り、燕真達は、妖怪の発生をキッカケにして、鬼の幹部達との小競り合いに誘き出されているだけだった。それでいて、決着が付く前に、鬼達は逃げてしまう。
「まぁ、『酒』メダルのお陰で、こっちも消耗せずに済むというか、
このメダルが無かったら、もっとキツい戦いになってるだろうな。」
「お~~!すげー!『酒』メダルすっげー!」
「凄いのはメダルだけ?使い熟している俺は凄くないのかよ?」
粉木と雅仁は、燕真が『酒』メダルを普通に使っているのが納得できない。そのうち、何らかの弊害が発生しそうで心配だ。
「体調に違和感は無いのか?」
「全然!至って普通だ。
提供者は、稼動限界は3~5分くらいって言ってたからな。
その範囲内で使ってる分には問題無いんだろ。」
提供者は紅葉の母なのだが、気を使って紅葉の前では名を伏せる。
一定の霊力を持つ者ならば、上位クラス以上の妖怪が封印されたメダルを使えば、強大な妖力で、霊力を汚染されて支配下に落ちてしまう。雅仁の父ですら、Yメダル暴走の汚染には抗えなかった。
「燕真の場合は、霊力ゼロやさかい汚染されへんで済むっちゅうことか?」
そんな単純は理由とは思えないが、粉木にも他の理屈では説明ができない。
-回想(数日前)-
YOUKAIミュージアム事務室での反省会を終え、燕真と雅仁が退出をした後、粉木は電話をする。しばらくのコール音の後、着信相手が通話に応じた。
「今、電話良いか?」
電話の相手は、紅葉の母・源川有紀だ。
「どういうこっちゃ?」
〈何のことかしら?〉
「酒呑童子のメダルのことや。」
〈あら、不満かしら?〉
「当然や。ワシに何も相談せんで、いきなり燕真に渡すなんて、何を考えとる?」
〈緊急事態だったから仕方無いでしょ。
悠長に粉木さんの許可をもらっている間に、
優麗高の生徒に死者が出ていても不思議ではなかったわ。〉
「むぅぅ・・・」
口が達者な粉木が、有紀の正論にアッサリと論破される。
「オマンが使い熟せる理屈は解っているつもりや。
そやけど、なんで燕真に渡した?なんで燕真が使える?」
〈私が彼を認め、メダルが彼を指名したから・・・とでも言うべきかしらね。
私がメダルを提供をしなければ、彼等は鬼に敗北していた可能性が高かったわよ。
そして、これからも、酒呑童子のメダルを使わなければ、勝てる見込みは薄いわ。
この件に関しては、最善の緊急処置と思って欲しいわね。〉
「むぅぅ・・・」
〈稼動限界は3~5分程度。それを無視しなければ問題は無いはず。
彼が無茶をしないように、それだけは、粉木さんがキチンと管理してあげてね。〉
「・・・承知した。」
通話を切り、大きな溜息をつく粉木。疑問だらけだし、納得はできなかったが、現状を考えれば受け入れるしかない。
-回想終わり-
昨日、本部から、「鬼の討伐隊が編制された」と連絡が入った。数時間後には、本部選り抜きの妖幻ファイター達が文架市に来る。チームリーダーは、現CEOの御曹司・喜田栄太郎。将来のCEO最有力候補であり、本部の威信をかけたサポートがあって絶対に失敗をしない常勝チームだ。
本部の部隊が来た時点で、文架支部の役割は、戦いの渦中ではなく外部サポートになる。
「燕真は端役に回されること不満に感じるやろうが、
ワシに想像ができん危険すぎる橋を渡らすのは、これで終わる。」
再三の援軍要請に対して、ようやく重い腰を上げてくれた本部だが、手遅れになる前に動いてくれたのはありがたい。粉木は、エリート部隊の到着が待ち遠しかった。だが、粉木の意図は、思い掛けない形で妨げられる。
「最近、空気の流れ方がチョット違う気がするんだけど気のせいかな?」
「何言ってんだ?季節が変われば、風向きが変わるのは当然だろ?」
「ぅんにゃ、そう言うんぢゃなくてね、風とゎ違うモヤモヤ。
0点の燕真ゎワカンナイかもだけど、じいちゃんや、まさっちゎどう思う?」
紅葉は、肌で何らかの異常を感じている。粉木や雅仁は、鬼達が漠然と行動しているとは思えず、「何か魂胆がある」と勘ぐっていたので、一定の確信を持って数日間の経緯を振り返った。
妖怪事件が発生したのは、文架大橋付近(河川敷)、鎮守の森公園、文架大学付近等々。どの戦闘でも、大した被害は出ていない。
「ん?・・・これは?」
粉木は、事件の発生場所をPC画面に表示させたマップで眺め、違和感を感じて、妖気センサーの反応履歴を調べ始めた。発生した妖気は、龍脈の流れに乗り、町中に設置された妖気センサーによって、妖気の強さと濃度拡散率から、発生場所を特定する仕組みになっている。
「なんで、今まで気付けへんかったんや?」
各場所で発生した妖気に対して、反応をした妖気センサーが、今までと、ここ数日で違っている。または、センサーが反応をするまでの時間に、誤差が発生している。
つまりそれは、龍脈の流れが「数日前」までと「今」で変化していることを意味していた。優麗高を含め、妖怪事件が発生した場所は、龍脈の通り道や龍穴ばかり。単純に「妖怪が発生しやすい場所で事件が起きた」と解釈していたが違う。事件は意図的に、それらの場所で起こされていた。
そして、それぞれの場所が一時的に浄化されたことで、龍脈がネジ曲がり、想定外の場所が龍穴になっている。
「現在の龍穴は・・・鎮守の森公園より、更に東。
粉木さん、この場所に心当たりはありますか?」
「富運寺っちゅう古寺が建つ場所や。」
「鬼共が潜むには都合の良い場所だな。」
援軍の到着までには、まだ時間がある。先んじて鬼の居場所を見付けられれば、援軍による鬼討伐は円滑に進む。
「行ってみる価値はありそうだ。」
鬼は、富運寺を龍穴にして、何かをするつもりだ。そしてそれは、ほぼ間違いなく「酒呑童子の復活」に関わることだろう。粉木は、あとは本部に任せたい反面、職務怠慢を決め込むこともできない。
「やるしかないやろな!鬼共が準備を整える前に叩くで!」
ホンダVFR1200Fに乗った燕真とタンデムに乗った紅葉、ヤマハ・MT-10に乗った雅仁、車に乗った粉木が、富運寺に出動をする!
-十数分後-
目的地の富運寺は、住宅街から外れた小高い丘の上に在る。
住宅が途切れたところで、紅葉と雅仁は一帯を覆う邪気を感知する。
「ヤバいよ、燕真!」
「鬼のテリトリーに入ったようだ!」
富運寺は、まだ50mほど先にある。だが、雅仁がバイクを停めたので、燕真もブレーキを掛ける。2人はバイクから降りて、総門手前の石階段に向かって駆けていく。紅葉も付いていこうとするが、燕真が足を止めて振り返り、怒鳴り声を上げて止めた。
「オマエは、ジジイが来るまで待ってろ!」
「で、でもっ!」
「敵は、少なく見ても鬼3体!こちらは俺と佐波木の2人!
君を守りながら戦うのは厳しい状況だ!」
反論を出来ない紅葉は、諦めて足を止め、遅れて合流してくる粉木を待つことにした。
燕真と雅仁は、石階段の手前に到着。総門へと続く100段程度の階段を眺め、「いつ仕掛けられてもおかしくない」と警戒しながら踏み込もうとしたが、気配を察知した雅仁が動きを止めて構えた。燕真は何も感じることができないが、雅仁と並んで臨戦態勢になる。
「幻装っ!」×2
専用メダルをベルトのバックルに装填して、妖幻ファイターザムシード&ガルダに変身完了!妖幻システムを通した燕真の目に、3つの闇霧が見える。
〈やはり、我らが、この地にいると気付いたか?〉
〈気付かれるように仕向けたんだけどな。〉
「なにっ?」
「罠かっ!?」
〈にゃははっ・・・釣れてくれたね。〉
〈我らの招きに応じてくれたこと、感謝しよう。〉
3つの闇霧が、茨城童子、虎熊童子、金熊童子へと姿を変える。ザムシードが右手に『酒』メダルを握り締めた行動を、ガルダは見逃さない。
「いきなり使うつもりか?」
「あっちが、ザコ戦抜きで仕掛けてくるつもりなら、全力で叩くべきだろう!」
ガルダには、いきなり堂々と挑んできた鬼の幹部達には違和感しか感じない。だが、鬼共の意図がどうであれ、討伐以外の選択肢は無い。そして、2対3の数的不利を覆すには、『酒』メダルによるザムシードのパワーアップは必須だ。ガルダは同意をして頷く。
「3分で決着を付ける!」
『酒』メダルを翳して和船型バックルに装填するザムシード!
《SYUTEN!!》
電子音声が鳴り響き、和船型バックルから闇が放出されてザムシードの全身を包み、漆黒のザムシードへと変化させる!
妖刀ホエマルを構え、鬼達へと突進を開始するブラックザムシード!虎熊童子と金熊童子が迎え撃つ体勢になったので、ガルダは虎熊童子に向けて発砲をする!必然的にザムシードvs金熊童子の構図になる!
「ハァッ!風烈っっ!!」
離れた位置から拳の連打を放つ金熊童子!風を纏った無数の衝撃波が飛んでくるが、ザムシードは妖気を纏った妖刀を振るって相殺!金熊童子に接近して妖刀の一閃を振るった!金熊童子は身軽な動きで回避をして距離を空けるが、妖刀から伸びた妖気の刃に捉えられ、肩に浅い裂傷が付く!
「くそっ!」
金熊童子は、肩の傷を軽く擦った後、不満そうな表情でブラックザムシードを睨み付けた。
一方、虎熊童子は、刀を納刀したまま、ガルダの放つ光弾を回避している!ガルダは「ヤツは、抜刀術を仕掛けてくるつもり」と判断して、警戒をしながら鳥銃・迦楼羅焔のトリガーを引き続ける!
「迅雷!」
「なにっ!?」
虎熊童子が叫んで気合いを発した途端に、虎熊童子の全身が放電!光速に変化をした虎熊童子が、瞬時にガルダの懐に飛び込んで抜刀をする!ガルダは、虎熊の咄嗟の動きに付いていけず、防御も回避もできない!
「させるかよっ!!」
ブラックザムシードの視覚とセンサーは、虎熊童子の動きを捉えていた!横薙ぎに振るった妖刀から妖気の刃が伸びて、抜刀直前の虎熊童子に着弾!自分自身の突進力が上乗せられたカウンターを喰らった虎熊童子は、弾き飛ばされて地面を転がる!更に、ガルダが追い撃ちの光弾を発砲したので、虎熊童子は体勢を立て直せないまま、慌てて回避をする!
「大丈夫か、狗っ!?」
「ああ・・・何とかな!」
ガルダが戦わずとも、ブラックザムシードだけで虎熊と金熊を倒せそうな勢いだ。虎熊は不満そうに茨城童子をチラ見するが、茨城は目で「そのまま戦い続けろ」と訴える。
「チィ・・・ホントに、これで良いのかよ、アニキっ!?」
虎熊と金熊は戦闘を続けるが、ザムシード&ガルダの連携に歯が立たず、再び弾き飛ばされて地面を転がる!『酒』メダルを開放してから2分30秒が経過!ブラックザムシードは、ブーツのくるぶし部分に白メダルをセットした!
「頃合いだ!先ずは、銀髪(虎熊)と金髪(金熊)を仕留める!
奥で偉そうに突っ立ってるヤツ(茨城)と戦う時間を残す為にな!」
ブラックザムシードと虎熊&金熊の間に、炎の絨毯が広がる!
「くっ!」 「ヤベーぞ!」
「・・・閻魔様の!!・・・裁きの時間だ!!」
炎の絨毯を踏みしめながら突進!空中で一回転をして跳び蹴りの姿勢になる!
「おぉぉぉぉっっっっっっ!!エクソシズムキィィーーーッック!!!」
漆黒の巨大弾丸と化したブラックザムシードが虎熊&金熊に突っ込んでいく!しかし、茨城童子が割って入って、妖気防壁を発した両拳でエクソシズムキック受け止めた!
「フン!『頃合い』は貴様ではなく、私の台詞だ!」
敗北寸前だった虎熊&金熊は、安堵の溜息をつく。
「・・・ったく!オイラ達を囮にして時間稼ぎさせるんだもんな!」
「貴様等レベルでなければ、時間稼ぎもままなるない。」
「・・・で、美味しいところはアニキが持っていくのかよ?」
「それが最も効率的と判断した。」
茨城童子が気合いを発すると、妖気防壁が肥大化をして、ブラックザムシードの跳び蹴りを押し戻す!
「なにっ!?」
前回の優麗高での戦いでは、茨城&虎熊&金熊が三位一体で、ブラックザムシードのエクソシズムキックと拮抗するのが精一杯だった。だが、今は、茨城童子単体で、ザムシードを押し戻している。
「バカなっ!」
「フッ!不思議なことなど何一つ無い!」
茨城童子は、片方の手に握られた3枚の『酒』メダルを、ザムシードに見せ付ける。
「先日は、私が持つお館様のメダルは、まだ満たされておらず、
貴様の持つメダルのみが御館様の力を発揮させていた。
だが今は違う。満たされ、同等の力を持つメダルが、こちらには3枚。
そして、私と貴様の力量差。全てにおいて、私が敗北する要素など無い。」
更なる気合いを発する茨城童子!妖気乱舞が発動をして、ブラックザムシードの周りの空間が掌握され、妖気が衝撃波となって押し寄せて着弾!爆風に煽られて跳び蹴りの体勢を維持できなくなり、地面に落ちた!素早く間合いを詰め、ブラックザムシード目掛けて鋭い爪を振り下ろす茨城童子!ブラックザムシードは妖刀ホエマルで受け止めるが、力負けをして押し込まれてしまう!
「・・・くっ!」
「封印されたとはいえ、御館様が人間如きに力を貸すわけがあるまい!」
ザムシードが持つ『酒』メダルの効果で発揮される妖気の刃は、茨城童子が持つ『酒』メダルが発する妖気に阻まれて、茨城童子には届かない!
「佐波木っ!」
ガルダが茨城童子に鳥銃を向けて光弾を放つが、茨城童子が掌から発した妖気障壁でアッサリと受け止められてしまう!しかし、爪を押し込む力が僅かに弱まったので、ブラックザムシードは茨城童子を押し退けて、どうにか距離を空けた!ガルダが援護の為に、ブラックザムシードに駆け寄ろうとするが、虎熊童子と金熊童子が妨害に入り、ガルダを遠ざける!
「佐波木!『酒』メダルの制限時間に気を付けろ!」
「気を付けろって言われても、この状況でどうしろってんだ!?」
茨城童子は、容赦無くブラックザムシードとの間合いを詰めて、両手の鋭い鬼爪を振るい、ブラックザムシードは防戦一方になって妖刀で受け流す!『酒』メダルの効果を発動させたままでも劣勢なのに、解除をしてしまったら敗北は確定だ!ブラックザムシードには「『酒』メダルを使い続ける」の一択しか無い!