表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖幻ファイターザムシードⅠ 凡人ヒーローと天才美少女の物語  作者: 上田 走真
第19話・黒いザムシード(vs茨城童子・虎熊・金熊)
93/106

19-3・ハーゲンと氷柱女~本部のメダル喪失

-YOUKAIミュージアム・事務室-


 燕真は「戦闘直後に問い質したかったが、紅葉がいた為に話せなかったこと」を粉木に投げかける。


「なぁ、ジイさん。妖幻ファイターハーゲンに・・・いや、紅葉の母親に会ったぞ。

 これを譲られてなかったら、多分、勝てなかった。」


 燕真は、Yウォッチから『酒』のメダルを抜き取って粉木と雅仁に見せる。扱えないはずの『酒』メダルをザムシードが扱ったことに疑問を感じていた雅仁も、回答を求めて粉木を見詰めた。


「予想はしていたが・・・、やはり、有紀ちゃんと接触したんやな。」

「想定外は他にもあります。『酒』メダルは、合計で5枚。

 俺の持つ父の形見の1枚と、佐波木が託された1枚、

 残り3枚は、退治屋の本部で保管されていたはず。

 しかし、茨城童子は、3枚の『酒』メダルを所有していました。」

「なんやて?」

「どうなってんだ?『酒』メダルは8枚あるってことなのか?」


 この情報は粉木も初耳だ。粉木は直ぐに本部に連絡を入れて「酒呑童子のメダルの保管状況」を確認した。しかし、「確認後に折り返す」としか返答をされなかった。


「まぁ・・・本部かて、直ぐに解答できる事案やないやろな。

 さて・・・もう一つの質問・・・やな。」


 紅葉の母から託された『酒』メダルの件。これは、文架支部で隠蔽した為に、粉木と源川有紀しか知らないこと。粉木は、「長い話になる」と言って、燕真と雅仁をソファーに座らせ、人数分のお茶を注いでテーブルに置いてから向かい合わせで座った。




-回想・17年前-


 真夜中の文架市の上空を高速で移動する物体がある。それは、頭部に5本もの角を生やしている。世間一般で‘鬼’と言われている生き物だ。名を酒呑童子という。


「まさか、俺が、此処まで追い詰められるとは。」


 文架市は、龍脈に優れ、傷付いた妖怪が体を休めるには都合の良い土地。先代ガルダの攻撃によって妖力の8割を喪失した酒呑童子は、残された力を振り絞って文架市に逃れていた。だが、辿り着いたところで力尽き、鎮守の森公園に墜落をする。

 この当時、公道の西側は田園と空き地のみ。大型ショッピングモールは、まだ存在していない。


「ま、拙いな。」


 地面につっ伏した酒呑童子は、現地の退治屋が接近していることを感知していた。鎮守の森公園前の公道を、ホンダ・CBR900RRが疾走する。搭乗者は、大柄なバイクの似合わない細身。不意にポケットの携帯電話がコールをしたので、バイクを路肩に停車させて、ヘルメットを脱いで通話をする。二十代前半くらいの、ショートカットの美しい女性だ。


「どうしたの?粉木さん?」

〈有紀ちゃん、妖気は公園の真ん中に落ちた。〉

「こちらも、目視で確認したわ。」

〈かなり弱っているようやけど、気を付けるんやで。〉

「了解しました!」


 通話を切り、同携帯(Yケータイ)の機能で妖気反応を探す。公園に落ちた妖気は消えかけている。


「情報では、酒呑童子が討伐隊から逃れたらしいけど・・・

 まさか、文架に落ちたのが、逃げてきた酒呑童子ってオチは無いわよね?」


 有紀は愛車で公園内に乗り入れて、低速で慎重に走る。亜弥賀神社前の大木に、もたれ掛かっている人影を発見。墜落した妖怪?それとも妖怪に襲われた人間?その者から妖気は感じられない。ゆっくりと近づいて、バイクのヘッドライトで人影を照らす。倒れていたのは、有紀と同い年くらいの男だった。致命的な怪我は無さそうだが、あちこちに掠り傷がある。


「大丈夫ですか?どうしましたっ!」


 男に駆け寄り、介抱をする有紀。しかし、男に触れた瞬間に、全身に電流の様な物が走る錯覚をして、触れた手を離す。何の感触だろうか?男の持つ何かが、有紀の五感を刺激した。

 男は、虚ろな瞳で有紀を見つめる。有紀もまた、男を見つめる。


「・・・貴方は・・・一体?」


これが、酒呑童子と源川紅葉の母の出会いだった。



-回想・中断-


「へぇ・・・それで、紅葉の母親が、

 弱っている酒呑童子にトドメを刺して封印したってか?

 なんか、もっと、大立ち回りみたいなのを想像していたけど、

 案外アッサリと封印されたんだな。」

「ちゃうわ、ボケ。話は最後まで聞けや。」


粉木は、話の腰を折った燕真を一喝をする。


「そないに簡単に封印されてもうたら、

 酒呑童子のメダルはハーゲンに力を貸せへん。」

「力を貸す?」

「鬼が人間に?」

「妖幻ファイターでは、上級クラスの妖怪の力なんて、危険すぎて使い熟されへん。

 扱うには、長い年月を掛けて掌握をするか、

 妖怪自身が協力をするかのどっちや。」

「前者は、俺の扱う天狗の力・・・ですね。」

「せや。天狗は、狗塚家が数百の年月を重ねて使い熟せるように成った力や。」

「そんで、後者がハーゲンの酒呑童子ってことか?」

「お嬢の母親・・・源川有紀は、退治屋としては、類い希な才能を持つ子やった。

 狗塚の血統に匹敵するほどにな。」

「・・・俺と同等。」


 雅仁は、紅葉の才能を理解する。源川家は、数々の妖怪を討伐した伝承を持つ源氏の末裔。源氏が武家政権を目指して天皇家と対立をしなければ、現代の妖怪退治の名門は、陰陽師の狗塚姓と、武家の源姓の、2家が存在していたかもしれない。



-回想-


 妖幻ファイターハーゲン。青を基調にした中世日本の鎧兜のようなプロテクターを纏った戦士が、マシュマロのような妖怪を叩き伏せる!


「臨!兵!闘!者!皆!陣!烈!在!前!・・・はぁぁぁぁっっっっ!!!」


 ハーゲンが妖刀に白メダルをセットして九字護身法を唱えると、妖刀が冷たい冷気を放って輝いた!妖刀を振り上げて、妖怪に突進する!


「悪霊退散っ!!」


 振り下ろした一太刀が、マシュマロ妖怪=白坊主を上下に両断!ズングリムックリした見た目はゆるキャラみたいな可愛らしい妖怪だったが、容赦はしない!白坊主は、苦しそうな呻き声を上げながら、凍り付いて破裂!闇霧と化して、妖刀の柄にセットされていた白メダルに吸収される!

 戦いを終えたハーゲンは、通信で粉木に報告を入れた後、左手甲に設置されたYケータイを抜き取り、填め込まれていた『氷』メダルを抜き取って変身解除。有紀の姿の戻って、愛車のホンダ・CBR900RRに跨がると、粉木宅へと向かった。



-回想・中断-


「えっ?『氷』メダル?妖怪を凍らせる?・・・それって?」

「イチイチ、話の腰を折らんといて。

 疑問があったら、話が終わってから纏めて聞けや。」

「全部聞いてからじゃ、忘れそうで・・・。」

「それにしても、回想にワシが登場するまで話させんかい。

 ワシの回想やのに、ワシが声の出演しかしてへんのは無理があるやろ。

 ワシが登場せな、ワシの回想として成立せんのや。」

「個人の回想なのに、

 本人が参加していないシーンまで回想をする‘回想あるある’を

 追及するのはやめませんか?」


 燕真が度々質問をする所為で、まだ、回想は核心には入っていない。だが、現時点で、燕真の疑問は、ある程度クリアしていた。紅葉の母親が『酒』メダルを所有していたのは、文架に逃れてきた酒呑童子を倒したから。扱えるのは、何らかの理由で酒呑童子が力を貸しているから。氷柱女が紅葉の母親と一緒に現れたことや、紅葉のことを以前から知っている素振りだったのは、妖幻ファイターハーゲンが氷柱女を使役していたから。紅葉が、霊体少年や、雪女や、天邪鬼と分け隔てなく付き合えることを考えると、母親が氷柱女と仲良くしていることも、なんとなく納得ができた。


「あの親にして、この子ありってことか。」


 まだ疑問は多いが、此処までの説明は辻褄が合う。


「鬼が人間に力を貸す・・・。酒呑童子には、何らかの魂胆が?

 信じがたいが、事実は事実として認めるしかあるまい。」


 雅仁は一定の納得はできていたが、同時に別の疑問が発生していた。

 上級クラス以上の妖怪を封印したメダルは、危険なので、今の妖幻システムでは扱えず、例外になるのが天狗の力を扱うガルダのみ。だから、狗塚家は圧倒的な戦闘力を誇り、今でも名門と敬われている。だが、名門の血統を持ってしても、天狗の力を活性化させた父・宗仁は、妖気の暴走に抗えず、天狗に魂を食われた。


(佐波木が扱っている閻魔大王の力は、どういう理屈なのだ?)


 雅仁は、燕真の「器の大きさ」は一定の評価をしている。だが、それは、あくまでも、人間社会で生活をする人間力のこと。退治屋のスキルとしては、何の役にも立たない。

 霊力ゼロの燕真に、閻魔大王の力を屈服させられるワケが無い。つまり、閻魔大王は、凡族の燕真に力を貸しているのだ。更に、一時的ではあるが、酒呑童子まで燕真に力を貸したことになる。




-東京都・怪士対策陰陽道組織(退治屋)本社-


 酒呑童子を封印した『酒』メダル3枚の保管庫は、9階にある複数の役員室に囲まれた空間の真下にあった。位置的には8階に隠してあるのだが、8階からは、壁に遮られていて、『酒』メダルの保管庫には行けない。辿り着くには、9階の役員室を通過した先にある階段を降りるしか手段が無い。つまり、役員以外は、『酒』メダルが何処に在るかすら解らないのだ。


「むぅぅ・・・」 「これは一体?」


 粉木から「文架市で3枚の『酒』メダルが確認された」と報告を受け、喜田CEOと大武COO、その他の役員達が集まって確認する。だが、保管庫にあるはずの『酒』メダルが無い。


「どういう事だ?」

「誰が持ち出した?」

「最後に確認をしたのは誰だ?君ではないのか?」

「私が確認をしたのは数ヶ月前です。その時には間違いなく在りました。」


 異常事態であり、文架市に危機が迫っている状況にもかかわらず、責任を取りたくない役員達による犯人捜しと、責任転嫁が始まった。酒呑童子復活の可能性がある現状で、悠長な口論をしている余裕は無い。大武COOは、彼等の自己保身にウンザリとしながら、言葉を発する。


「保管室に入ったログを確認すれば、何者が持ち去ったのか解るのでは?」

「おぉっ!COOの言う通りだ!」


 今は、酒呑童子への対策が最優先課題。裏切り者を対策会議から排除する為の犯人捜しは有効だ。役員達はデータ管理室に行って、防犯カメラの過去映像で、近日中に誰が保管庫に入ったのかを確認する。


「・・・何者だ?」 「何故、こんな少年が?」


 映像に残されていたのは、見たことの無い少年だった。その少年には金熊童子の面影があるが、役員達は、それが、人間に化けた金熊童子とは知らない。だが、誰が手引きしたのかは直ぐに判明をする。保管庫への入室に使われたコードが、役員の1人が所有するコードだった。


「遠斉君。君が少年の手引きをしたのだな!」

「とんでもない事をしてくれた!」

「し、知らない!身に覚えが無い!」

「少年が、君しか知らないコードで入室した事実が、

 全てを物語っているのではないかね!?」

「ち、違う!私ではないっ!!」

「鬼に金でも掴まされたのか!?」

「君には落胆したよ!」


 周りの幹部達が、問答無用で遠斉を取り押さえ、呼び込まれた隊員達に連行されていく。CFO(最高財務責任者)の遠斉武実えんざい むじつ。大武COOと共に、時期CEO候補の噂された彼のキャリアは、これで断たれることになった。


「こ、これは、本部の不祥事だ。」 「いや、本部ではなく遠斉の不祥事だ。」

「だが、セキュリティは問題視されるぞ」 「どうする?」 

「隠蔽するべきか?」 「先ずは、遠斉の責任追及を!」


 幹部達による自己保身の為の協議が始まった。


「文架市の鬼はどうしますか?一刻の猶予もありませんよ。」


 大武剛COOは、「今はそれどころではない」と感じながら、呆れ顔で無能な役員達を眺める。




-数日経過-


 優麗高の戦い以降、文架市では、1日に1体の頻度で妖怪が出現をする。そのたびに、燕真と雅仁が出動をして妖怪と戦い、虎熊童子や金熊童子が乱入をするので苦戦を強いられる。ザムシードが『酒』メダルで黒いザムシードにパワーアップをして形勢が逆転すると、虎熊&金熊は逃げていく。そんな日々が続いた。


「ご苦労だったな、虎熊童子、金熊童子。」


 虎熊と金熊の逃亡先のビルの屋上で、茨城童子が出迎える。


「イバさん、いつまで、こんな事を続けるんだ?」

「アニキが、考えも無しに拙者達を消耗させるなんて有り得ない。

 何か、作戦が有るのだろう?」

「無論、計画通りだ。そろそろ機は熟す。」


 手に平に乗せた3枚の『酒』メダルを見詰める茨城童子。先日の優麗高戦では、退治屋の妨害の所為で、満足できる量の生命力を集めるられなかった。警戒をされてしまった現状では、1ヶ所から生命力を搾り取るのは難しい。


「だが・・・何一つ問題は無い。」


 茨城童子は闇霧化をして、虎熊&金熊を従え、空高く飛び上がり、高速で郊外まで移動して実体化をする。

 その地には、郊外ゆえに退治屋のセンサーに引っ掛かりにくい鬼印が施されていた。茨城童子が手を翳すと、念が一定量蓄積された鬼印が浮上して、手の平にある『酒』メダルに吸収されていく。


「うわぁ~・・・面倒くさっ!」

「だが、これが最も確実だ。」


 茨城童子がバラ蒔いた鬼印を、自分自身で回収する。それは二度手間であり、虎熊童子が表現した通り、労力を無駄に使う選択肢なのだが、御館様の復活」を最優先にする茨城童子からすれば、自分の苦労など些細な問題。要は、退治屋に妨害されなければ良い。

 この地の鬼印回収を終えた茨城童子達は、次の鬼印を回収する為に空を駆ける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ