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妖幻ファイターザムシードⅠ 凡人ヒーローと天才美少女の物語  作者: 上田 走真
第19話・黒いザムシード(vs茨城童子・虎熊・金熊)
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19-2・闇祓キックvs鬼印~鬼撤退

 茨城童子は素早く後退をして、ザムシードの返す刀を回避!しかし、避け切れずに茨城童子の胸に浅い裂傷が入った!


「・・・ちぃっ!」


 驚いているのは、技を発した茨城童子だけではない。ガルダはマスクの下で呆気に取られた表情をして戦いを眺めている。そして、ザムシード自身も急激なパワーアップを驚いていた。


「すげえ・・・『酒』メダル1枚で、こんなに強くなれるのかよ?」

「佐波木!一気呵成に叩くぞ!」


 鬼壊滅のチャンスと判断したガルダが、鳥銃を茨城童子に向ける!呼応したザムシードは、妖刀ホエマルを装備して茨城童子に突進をする!


「金熊童子、時間を稼げ!」

「あいよっ!」


 前線を金熊童子に任せ、茨城童子はガルダの放つ光弾を回避しながら大きく後退。呪文を唱えて、校内のあちこちに仕掛けておいた罠を発動させ、妖怪達を出現させる。ザムシードとガルダの妖気センサーが、校舎内で5体の妖怪の発生を感知した。


「くっくっく・・・このままでは、生徒達が妖怪に食われるぞ。」

「チィッ!」 「卑怯なっ!」


 攻勢の戦場を放棄して塔屋に向かおうとするザムシード!しかし、ガルダが先に塔屋に飛び込んだ!


「ザコ共は俺が担当する!君は、茨城童子を討て!」


 ザムシードは驚いた。いつものガルダならば「鬼の討伐は自分の宿命」と考えて、他者には譲らない。しかし今は、ザムシードを鬼討伐に集中させる為に、自らザコ掃討を買って出た。ガルダは咄嗟、且つ、冷静に戦況を読み、「今の自分の戦闘力では茨城童子を倒せない」と考え、ザムシードに託したのだ。


「お・・・おう。校内は任せたぞ。」

「フン!誰に物を言っているつもりだ!?」


 ザムシードが茨城童子に突進をする!散々、お高く止まってイキっていたのに、劣勢になった途端に、部下を盾にしたり、人質を取って身を守るなんて、ザムシードの大嫌いなタイプ。典型的な「小悪党あるある」だ。


「させねーよ!」

「邪魔だ!」


 先ずは、茨城童子を守る為に立ちはだかった金熊童子を叩く!


「ハァッ!風烈っっ!!」


 離れた位置から拳の連打を放つ金熊童子!風を纏った無数の衝撃波が飛んでくる!ザムシードは、突進をしながら妖刀を振るって受け止めた!多数を防ぎ、間隙を突いた3発がザムシードに着弾!痛みは感じるが、黒いザムシードの防御力に阻まれ、大ダメージにはならない!


「マジで凄いっ!」


 今までの苦戦が何だったのかと思えるほど、楽に戦える!ザムシードは金熊童子の攻撃を物ともせずに突っ込み、妖刀を振るった!


「くっ!・・・御館様の力でオイラ達を攻撃するなんて有りかよっ!?」


 剣閃を見切って回避をする金熊童子!しかし、ザムシードが「剣先が伸びて欲しい」と願った途端に、妖刀から妖気の刃が伸びて金熊童子に着弾!


「マジでスゲー!この力が有れば、鬼の幹部なんて楽勝だっ!!」


 弾き飛ばされて床を転がる金熊童子!妖刀を振り上げたザムシードが追い撃ちを掛ける!


「誇り高き鬼族を舐めるなっ!!」


 後方で力を蓄えていた茨城童子が動き出す!指で空中に八卦先天図を描き、呪文を唱えながら両手で押した!すると、闇塊が出現して、ザムシードに向かって飛んで来る!

 センサーは、ガルダが「鬼の印」と呼ぶ呪刻を表示。何故、破壊力のある攻撃ではなく鬼印を飛ばしてきたのか、ザムシードには魂胆が解らない。だが、移動速度が遅い攻撃だったので、楽々と回避をする。


「フン!我が呪印を、ただの飛び道具と思うなっ!」


 茨城童子が念じると、鬼印は軌道を変えて、再びザムシードに向かってくる!


「ならば、迎撃あるのみ!」


 ザムシードは、鬼印から距離を取りつつ、自分と鬼印と茨城童子が一直線に並ぶ位置で構える!Yウォッチから白メダルを抜き取り、ブーツのくるぶし部分にセット!ザムシードと茨城童子の間に、炎の絨毯が広がる!


「・・・閻魔様の!!」


 迫り来る鬼印との距離を確認しつつ、ゆっくりと腰を落として構える!


「裁きの時間だ!!」


 顔を上げ、茨城童子を睨み付けるザムシード!炎の絨毯を力強く踏みしめながら突進!火柱を推進力にして飛び上がり、空中で一回転をして跳び蹴りの姿勢になる!


「おぉぉぉぉっっっっっっ!!エクソシズムキィィーーーッック!!!」


 エクソシズムキックと鬼印がぶつかり、勢いで負けた鬼印が押し戻されていく!


「くっ!金熊童子、手を貸せっ!!」


 応じた金熊童子が茨城童子と並んで鬼印に向けて念を発する!押し戻されるペースは遅くなったが、それでもザムシードの攻勢は変わらない!


「サボるな、虎熊童子!」


 鬼印に念を送りながら、振り返って空を見上げる茨城童子!空中に闇が集まって茨城童子の隣に降り、虎熊童子に変化をして鬼印に念を送る!


「サボってたわけじゃねーよ!

 アニキだけでも余裕で勝てると思っていたから、高みの見物をしてたんだ。」


 茨城・虎熊・金熊が合力することで、押し戻されていた鬼印が止まった!ザムシードのエクソシズムキックで鬼印を押しきれなくなる!


「良いタイミングだな!・・・俺が鬼は殲滅する!」

「来てくれたか、狗っ!」


 下階のザコ妖怪を倒したガルダが、塔屋から姿を現して、瞬時に状況を把握。鳥銃・迦楼羅焔に白メダルをセットして、銃口を茨城童子達に向ける!


「拙い!このままでは狙い撃ちにされる!

 虎熊童子、金熊童子、数秒で良い!貴様等2人で持ち堪えろ!」

「アニキはどうすんだよ?まさか、拙者達を盾にして逃げる気か!?」

「私は、最優先の行動をする!」

「よく解んねーけど、オイラはイバさんを信じてやるよっ!」


 虎熊と金熊に任せて、単独で動く茨城童子!その進行方向には、3枚の『酒』メダルがある!

 2人だけではザムシードのエクソシズムキックと均衡できなくなり、中間で止まっていた鬼印が虎熊&金熊側に押し戻される!

 一方のガルダは、狙いを定めていた茨城童子が動いてしまったので、一瞬「誰を仕留めるか?」を迷って、虎熊と金熊に狙いを定める!


「口惜しいが退くぞ、虎熊童子、金熊童子!」


 『酒』メダル3枚を回収した茨城童子は、部下達に撤退を命じた後、鬼印に掌を向けて妖気乱舞を発動!鬼印の周りの空間が掌握されて、妖気の衝撃波が鬼印に押し寄せて飽和状態となり爆発が発生する!


「うわぁっっっっ!!」


 跳び蹴りの体勢で鬼印と競っていたザムシードは、爆発の直撃を受けて弾き飛ばされて背後の塔屋に激突!ガルダは身を低くして爆風を耐える!


「佐波木っ!!」


 その間に、茨城&虎熊&金熊は、爆風を利用して屋上から身を投げ出し、姿を闇霧に変えて飛翔する。2つの闇は早々に空高く逃亡をするが、1つだけが留まり、姿を茨城童子に戻して屋上のザムシードを睨み付けた。

 目の前に4枚目(ガルダ所有)と5枚目(ザムシード使用中)の『酒』メダルがあるにも関わらず手を出せないのは不満。主(酒呑童子)を支配下に置く人間など、見ているだけでも腸が煮えくり返りそうだ。しかし、これ以上の戦線維持は不可能。


「身の丈に似合わぬ力を手にしたこと・・・後継させてやる。」


 呪いの言葉を吐き、再び闇霧に姿を変えた茨城童子が空の彼方へ去る。




-校庭・校舎脇-


 鬼達の撤退を把握した有紀(紅葉の母)がバイクに跨がり、フルフェイスのヘルメットを被ってから屋上を見上げた。


「今回は、酒呑童子の力で鬼達を追い払えただけ。

 本当の戦いはこれからよ、佐波木燕真くん。」


 有紀は、バイクのエンジンをかけ、バイザーを降ろして去って行く。

 17年前にハーゲンの名で活躍をした妖幻ファイターだが、今はただの一般人。娘の紅葉が妖怪事件に首を突っ込む事実は複雑な気分で見守っている。きっと辛いことも否応なく体験するだろう。あの紅葉が耐えられるのか?心配で仕方ないけど、既に引退をした立場なので手助けはしないし、紅葉の行動に口を挟む気も無い。

 彼女を支えてくれる者は、既に彼女の身近に存在していると信じている。



-正門前-


 紅葉と粉木は、危機が去ったことを感知していた。屋上で発せられていた‘重さ’が消え、学校を覆っていた‘嫌な感じ’が晴れていくのが解る。


「燕真っ!アミっ!」


 紅葉は、戦いの結果や友人たちの容体が気になって、校舎に駆けていく。その脇を、グラウンド側から走ってきたホンダ・CBR1000RRが通過をした。


「んぇっ?」


 なんでグラウンドからバイクが?紅葉はバイクのことには詳しくないが、燕真や雅仁のバイクとは違うってことくらいは解る。違和感を感じ、立ち止まって、去って行くバイクを見送る。だが、紅葉は、母がホンダ・CBR1000RRを所有していることを知らない。そして、バイクを駆る有紀は、母の素振りを一切見せなかった。だから、紅葉は、たった今擦れ違ったのが母親とは気付かない。

 バイクの搭乗者が粉木を見て小さく頷いたので、察した粉木は頷き返して、母娘のニアミスを黙って見送った。



-屋上-


 変身を解除した燕真が、その場にへたり込む。文架高からの連戦で流石に疲れた。同様に変身を解除した雅仁が寄ってくる。


「異常は無いか?」

「・・・ん?特に何ともない・・・かな。

 なんだ?俺のこと、心配してくれてんのか?」


 上級クラス以上の妖怪を封印したメダルは、妖力が強すぎて変身者を蝕むので、妖幻ファイターでは使用不可能。最上級妖怪の酒呑童子のメダルなら尚更のこと。だがザムシードは、その禁断をやってのけたのだ。雅仁は燕真の体に異常が発生していないのかを心配する。

 一方の燕真は、「鬼の討伐優先」の雅仁が、鬼を逃がしてしまったことに拘らず、真っ先に自分を心配してくれたことを意外に感じる。


「アレだけ攻勢だったのに、鬼を1体も仕留められなかった件の苦情は?」

「残念ではあるが、君に託すべきことではなく鬼の殲滅は俺の仕事。

 今回は、その機会ではなかったのだろう。」

「他人(俺)を頼らず、自分で背負うパターンかよ?」


 燕真は、雅仁の「いつも通りの返答」に対して皮肉で返すものの、内心では、雅仁の変化を感じていた。

 雅仁が校舎内で発生した妖怪を無視して、鬼討伐を優先させていれば、何体かは倒せただろう。だが、その代償で、優麗高の生徒には確実に犠牲者が出ていた。雅仁が鬼の討伐よりも、優麗高生徒の防衛を優先させた結果、今回は討ち果たせなかったのだが、燕真はその事実を腹立たしくは感じない。むしろ、雅仁のヒューマニズムを嬉しく思う。出会った頃の雅仁では考えられない行動だ。

 犠牲が出てしまったら、元に戻すことはできない。だけど、鬼の討伐ならば、次に頑張れば良い。『酒』メダルを得たザムシードならば可能だろう。


 その後、屋上から降りた燕真達は紅葉&粉木と合流する。生徒達がどの程度消耗しているのか気掛かりだが、救護は退治屋の仕事ではないし、部外者が学校内を動き回って、生徒達を介抱するわけにもいかない。

 粉木が、「たまたま学校の近くを通ってグラウンドで倒れている生徒達を発見した」フリをして、警察と救急に連絡を入れ、紅葉を残して退治屋達は退散をする。


「やれやれ・・・面倒やが、上(東京本部)に膨大な報告書を提出せなあかんな。

 それこもれも、いつまでも援軍要請に応じてくれん所為や。」

「管理職って大変だな。」

「なに言うとんねん。オマン(燕真)にも報告書の山に埋もれてもらうで。」

「・・・マジかよ?」

「組織人というのは大変だな。俺は無関係だが。」

「友達だろ?そんな冷たい事言わないで、手伝ってくれよ。」

「君と友人になった覚えは無い。」


 今回は、優麗高の集団昏睡だけでなく、文架高の複数生徒による暴走騒ぎも発生している為、退治屋上層部による情報操作は苦労を強いられるだろう。


 優麗高生徒のうち、十数人は入院をしたが、残りは、当時の診察で「異常なし」判断された。後日、優麗高はガス発生による集団昏睡、文架高はガス発生による集団錯乱で、妖怪事件は隠蔽をされる。


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