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2-4・裁きの時間~猫~再び訪れた紅葉

 紅葉が示した天井に大きな影が発生!子妖を背負った少女が天井の影に手を伸ばし、影から発せられた糸が、子妖を背負った少女の腕に絡みつく!


「おぉぉぉぉぉぉっっっっっ・・・母様・・・若き魂を・・・捧げます!」

「おぉぉぉぉぉぉっっっっっ・・・デカシタゾ・・・可愛イ・・・我ガ子ヨ!!」

「クソォ!何て力だ!!」


 ザムシードと子妖を背負った女生徒は、床を滑り、天井の影に引き寄せられる!

 本体は子妖ごと女子生徒を捕食しようとしている!それどころか、このままではザムシードまで食われてしまう!


「アミィッ!!やめてぇっ!!」


 紅葉は、必死になって教室側から友人の腰にしがみつき、捕食を阻もうとする!しかし、女子高生程度の腕力ではどうにもならない!!


「おぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ・・・離れろ!!」

「きゃぁぁっっ!!!」

「紅葉ぁぁっっ!!!」


 紅葉は、女生徒から生えている8本腕のうちの1本に弾き飛ばされ、床を転がり、壁に激突する!

 その瞬間、言い様の無い怒りが込み上げ、腹をくくるザムシード!


「じょ・・・冗談じゃねぇ!!

 いくら、小生意気なクソガキだからって、

 目の前で親友が食われる所なんて、見せられっかよ!!!

 いつまでも、調子に乗ってんなぁぁっっ!!!・・・オーンッッ!!!」


 ザムシードは、力任せに蜘蛛の戒めを振り解き、握っていた裁笏ヤマで、女生徒に絡みついていた糸を切断!引っ張られる力が無くなった反動で後ろ向きに転倒する女生徒とザムシード!子妖の拘束力が弱まった一瞬を利用して、羽交い締めから脱出!すかさず女生徒の背中に憑いていた子妖に裁笏ヤマを叩き込んだ!


「おぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ!!」


 祓われた蜘蛛が女生徒の背中から放れ、女生徒は脱力して崩れ落ちる!意識は失っているものの、女生徒の表情は穏やかさを取り戻している!


「アミィィッ!!」


 友人の救出を確認した紅葉が駆け寄って女生徒を抱きしめる!


「大丈夫!寝ているだけだ!!」

「ぅん!!ぅん!!」

「へぇ~・・・生意気なだけ・・・ではないんだな」


 自分だって壁に激突して痛いだろうに、友人を介抱する紅葉を見て、ザムシードはマスクの下で微笑んだ。

 その間に、女生徒から離れた子妖は本体に吸収されてしまう!


「おぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ・・・愚カナリ!!

 オヌシが小娘如きニ構ってイル隙ニ、我ハ、子ヲ喰ろうテ傷ヲ癒しタ!!

 小娘ヲ喰えナカッタとは言え、充分回復ヲ出来たワァァ!!!」


 天井の影は巨大蜘蛛の影に変化!しみ出るようにして実体化をして、絡新婦じょろうぐもが出現した!先日の裂傷や切断した足は完全に復元されている!体力を回復した絡新婦は先日のように、子(子と言っても人間サイズの巨大蜘蛛)を2体ほど産み出し、ザムシードに差し向ける!


「コイツ(紅葉)が足手纏いになることくらい、

 連れて来た時から織り込み済みだ!」


 ザムシードはYウォッチに『蜘』メダルを装填して妖刀ホエマルを召還!


「ハァァァッッ!!」


 気合いの掛け声と共に、子妖に向かって踏み込み、先行する1匹目を唐竹斬りにして、続く2匹目を右薙ぎに斬り捨てた!2匹の子妖は唸りを上げて闇に解けるように消える!


「紅葉っ!友達は任せたぞ!」

「ぅんっ!」


 ザムシードは、女生徒を紅葉に託して、妖刀ホエマルの切っ先を絡新婦に向けながら睨み付ける!


「もう、オマエが回復してようがしてまいが関係無いんだよ!

 許せねぇからブッ潰す!!・・・それだけで充分だ!」

「おぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ・・・」


 狭い廊下では子妖の動きを見切られて不利と考えた絡新婦じょろうぐもは、その場から逃走!戦いの場を屋上へと移す!




-校舎屋上-


 しばらくの睨み合いから突進して激突するザムシードと絡新婦!妖刀ホエマルの刀身と、絡新婦の足が幾度となくぶつかり、やがて、巨大な蜘蛛の足2本が斬り飛ばされた!


「おぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ・・・」

「言っただろ!オマエの回復なんて、もう関係無いって!!」


 ザムシードは、粉木のアドバイスを噛み締める!子妖を盾にして逃れるような小賢しい妖怪には、武器を使うよりも、臨機応変に小回りが利く己の体を使ったほうが効率的に倒せる!


「・・・確かにそうかもな!」


 Yウォッチから空白メダルを引き抜いて、指で真上に弾いてから手の平で受け止め、身を屈めて右足ブーツのくるぶし部分にある窪みに装填して、自身の右足に気合いを入れる為にパァンと叩いた!


「今度こそ仕留める!!」


 ザムシードの右足が赤い光を纏う!同時にザムシードと絡新婦の間に幾つもの小さい火が上がり、炎の絨毯を作る!


「おぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ・・・

 此ハ・・・地獄ノ炎・・・オヌシハ一体!?」


 遅れて階段を駆け上がってきた紅葉が、ドア枠に手を掛け、扉から半身を乗り出して叫ぶ!


「行けぇぇっっ!!!やっつけろぉぉっっ!!!

 佐波木燕真のお裁きの時間だぁぁ!!!」


 ザムシードは、ゆっくりと立ち上がりながら横目で紅葉を見る!


「なんだそれ、センス無い決め台詞だ!

 ・・・でも、そう言うのも悪くない!いただくぜ!!

 どうせ台詞を決めんのなら、こんなふうに変えてな!!」


 絡新婦に正面を向け、ゆっくりと腰を落として構える!


「・・・閻魔様の!!」


 ザムシードの朱い体躯が、炎を絨毯によって朱く照らされる!


「裁きの時間だ!!」


 顔を上げ、標的を睨み付けるザムシード!絡新婦から、3匹の子妖が生み出されて襲い掛かってくる!妖刀ホエマルを振り上げて踏み込むザムシード!いくつもの剣閃が走り、子妖が次々と消滅する!しかし、子妖を斬っただけでは、ザムシードの突進は止まらない!狙いはハナっから本体・絡新婦のみだ!


「おぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ・・・!!」


 更に子妖を出現させながら、ザムシード目掛けて突進をする絡新婦!


「オーン・封印!!・・・ハァァァッッ!!」


 ザムシードは絡新婦一点を目掛け、炎の絨毯を一歩一歩を力強く踏みしめながら突進!ザムシードが踏んだ炎が火柱となり、その突進を後押しする!

 襲い掛かる子妖を回避して両足を揃えて空高く飛び上がった!踏み切った場所の炎が一際大きな火柱となり、ザムシードを大きく飛ばす!空中で一回転をして絡新婦に向けて右足を真っ直ぐに突き出した!



「うおぉぉぉぉっっっっっっ!!!

 エクソシズム(闇祓い)キィィーーーッック!!!」



 朱く発光したザムシードの右足が絡新婦の腹に突き刺さり、絡新婦の突進を押し戻し、そのまま勢いよく妖怪の中心を突き抜けて着地をした!絡新婦のど真ん中には、大きな風穴が開いている!


「おぉぉぉぉ・・・ぉぉっ・・・オノレ・・・口惜しヤ・・・

 おぉぉぉぉぉぉぉっっっっっ・・・!!」


 ザムシードが貫通したそれは、全身の力を失い、大きく仰け反る!そして、咆吼と共に黒い炎を上げて爆発四散をした!

 撒き散らされた黒い霧は1ヵ所に集まり、ザムシードのブーツに嵌められていたメダルに吸い込まれるようにして完全に消る!

 本体の消滅に伴い、本体が嗾けた子妖達も存在を維持できなくなり、闇に解けるように消えていった!


「また失敗なんてオチは勘弁してくれよな。」


 ザムシードはブーツにセットしたメダルを外して見詰める。メダルには先程までは無かった『絡』の文字が浮かび上がっている。


「封印成功!今度こそ・・・終わったんだ!」


 それまで学校を覆っていた澱んだ空気が急激に晴れていくのが解る。いつの間にか、塔屋の入り口には粉木が立っていた。戦いに夢中で気付かなかったが、随分と前に到着していたようだ。粉木の胸には、何故か猫が抱えられている。


「・・・その猫は?」

「あぁ、これか?資料室に閉じ込められておったんや!

 何処の何奴かは知らんが可哀想な事するで!

 おそらく絡新婦は、このニャーの、追い回される恐怖と、

 外に出たいって念に、憑いたんやろな!?

 妖怪の憑く媒体なんて、何でもええねん。そこに強い念さえ残ってればな。」

「・・・そっか」


「ぁ!この間の猫ちゃんだぁ!」


 紅葉は、粉木から猫を渡されて抱きかかえ、頭や背中を撫でて微笑む。猫を愛でる少女の笑顔は、この場所に日常が戻ったことを象徴しているように思えた。

 紅葉は、ザムシードを見て嬉しそうに笑い、2本指を立ててこちらに向けた。大変な一難が去った安心があるからだろうか?ぶっちゃけ、メッチャ可愛く感じる。


「お・・・おう!」


 ザムシードは、紅葉のVサインにやや照れながら、サムズアップをして返す。


「・・・2点!」

「おう、まぁな!

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え!?2点!?」

「アミを助けてくれたから2点追加!これで62点!!」

「・・・・・・・え!?え!?」

「60点ゎ返上してぁげるねぇ!今度からゎ62点!!」

「はぁぁぁっっっっっっっっ!!!?あんだけ頑張って、たったの2点!!?」


 その場に脱力して膝を突くザムシードを、紅葉と粉木が笑う。




-翌日の朝・YOUKAIミュージアム-


 燕真が事務室のソファーに腰を下ろし、少し離れた事務机で粉木がパソコンのキーボードを叩きながら今回の出動の精算処理を行っている。


「・・・源川・・・紅葉か。」


 燕真は、もう会う機会は無い美少女の名をポツリと呟いた。学校が日常を取り戻し、彼女は‘いつも通り’の登校をしている頃だ。退治屋の暗黙のルールにより、事件が解決すれば、当事者達との接点は無くなる。何処かですれ違ったとしても声を掛けることはない。彼女が名付けた「妖幻ファイターザムシード」は少し気に入っている。同じく彼女が付けた「60点」や「62点」は気に入らないが、それも今となっては、良い思い出に感じられる。少し寂しい気もするが、日常に戻った彼女には、日常の中だけで生きる方が幸せなのだ。


ピロリロリィ~~ン♪ピロリロリィ~~ン♪

 博物館への客の入館を報せるチャイム音が鳴る。見学客が来たようだ。


「スマン、燕真!精算にもうちっと掛かる。対応頼むわ!」

「おう!」


 こんな平日の昼間に、ただの趣味の陳列を見に来るなんて、随分と奇特な客だ。


「いらっしゃいませ、見学ですか?何名様でしょう?」


 燕真は、受け付けカウンターに入って客を見た。私服を着て、前髪がピョンと立ったツインテールの可愛らしい美少女が、猫を抱えて、こちらを見詰めている。


「チィ~ス!3階の教室が壊れて今日も休校になったから、遊びに来たょ~!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「家にいても暇だから、博物館のお仕事手伝ってあげよっか?

 それとも、退治屋の方を手伝ってあげよっか?

 それと、猫ちゃんのお世話は交代制で・・・・・・」

「わぁぁぁっっっっ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

「ぇぇ?・・・ちょっと、なに!?」


 慌てて紅葉の肩を掴んで博物館の外に押し戻し、出入り口を施錠して、カーテンを閉める!

 62点扱いしたり、モップを振り回したり、寝癖にしか見えないアホ毛をチャームポイントと言い張る少女とは絡みたくない。そんな思いが先行しちゃった。


「ぉ~~~ぃ!開っけろぉ~~~~~!!」


 出入り口の向こう側では、紅葉がバンバンとドアを叩いている!燕真は、背中でドアを押さえつつ、小さくしゃがんで頭を抱えながら思わず叫んだ!


「スミマセ~~ン・・・ずっと閉館で~~~~すっっ!!

 もう来ないでくださぁ~~い!!」


 その光景を、粉木が事務所から呆れ顔で覗いている。


「あ~~あ~~~すっかり懐かれてもうたな。今回も駄賃無くなりそうやな。」

「えっっっっっ~~~~~~~~~~~~・・・そりゃないよぉぉ~~!!!」


 燕真の嘆き声と紅葉が扉を叩く音が虚しく響き渡る。


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