18-3・石突と抜刀~ザムシードvs金熊~茨城童子
-文架高-
ガルダが妖槍の刺突を放つ!普通の槍ならば標的に届かない距離なのだが、飛頭蛮(ろくろ首)の能力を持つ槍は、ガルダの意思に応じて柄が10mほど伸び、鉾先が虎熊童子に襲いかかる!しかし、虎熊童子は、日本刀を妖槍の切っ先に当てて受け流した!
「フン!槍が伸びることなんて、調査済みだ!」
初見ならば、槍の伸縮を想像できずに刺突を喰らっただろうが、虎熊童子は、ガルダの戦いを観察をしていた。妖槍の尖端を退けた虎熊童子は、妖槍の柄で日本刀の刃を滑らせながらガルダに突進!槍を抑え込んだ上で懐に飛び込めば、敵は必然的に無防備!
「甘いっ!」
ガルダは自分の武器の特性を熟知している!槍を伸ばせば懐が無防備になることなど、指摘をされなくても解っている!伸びきった槍が、ガルダの意思に応じて、虎熊童子の接近よりも先に縮む!
「くっくっく・・・甘いのはどっちだよ?」
だが、虎熊は、ガルダが槍を短くすることも想定済み!空いている方の手で縮んでいく妖槍の柄を掴んだ!
「なんで、拙者がワザワザ槍に沿って接近をしているのか、想像しなかったのか?」
「なにっ!?」
突進力に、槍の短縮に引っ張られて加速を上乗せした虎熊が急接近!しかも、槍を掴まれているので、虎熊がガルダの懐に飛びこんだ時点で、ガルダは槍を振り回すことができない!
「秘剣・揺籃!」
虎熊の日本刀による乱れ打ちが、ガルダの全身に着弾!弾き飛ばされて床を転がるガルダ!直ぐに立ち上がって、虎熊の追い撃ちを警戒しながら体勢を立て直す!
「・・・チィ、ミスったか。」
虎熊は直撃を叩き込んだつもりだったが、手応えが薄かった。虎熊が妖槍の柄から手を離す直前に、ガルダは縮めていた最中の槍を僅かに伸ばしたのだ。その結果、虎熊の踏み込みが数センチほど浅くなり、必殺のはずの秘剣で致命打を与えることができなかった。
「貴様は、この戦場で、俺の武器を観察したと息巻いているが、
俺の家系は、先祖代々が、貴様等を標的にしている!
観察に費やした時間が別次元なんだよ!」
「拙者達を観察済みだと?・・・フン!面白いことを言う。
だったら、次も攻略してみろよ!」
距離を空け、刀の腰の鞘に納刀をする虎熊童子。
「抜刀術・・・か。」
「拙者の最も得意とする攻撃だ!」
抜刀術の優位性は、神速の刃を挙動を読まれにくい軌道で撃てること。日本刀を扱い慣れていない者は、鞘を送って、刀を抜いて、斬るという三動作になってしまうので、抜刀術が優位になり得るとは言えない。ザムシードの、二口女の鞘を利用した抜刀術は、無駄な動きが多い三動作の状態だ。だが、日本刀の扱いに長けた虎熊童子は、三動作を同時に行い、最小限の動きで最大限の斬撃力を生む抜刀術を撃つことができる。
「ならば!」
ガルダは、妖槍を中段で構えた。抜刀術の優位性を打ち消すには、槍術による余計な駆け引きを考えず、一動作で突く構えを取るしかない。
「そう構えるしか無いだろうな。」
左手で鞘を支え、柄に右手を軽く添え、やや前傾姿勢で構える虎熊童子。
「まぁ・・・どう構えたところで、拙者の神速の抜刀術には関係無いけどさ。」
一呼吸置いて突進!ガルダが狙いを定めて突きを放つと同時に、妖槍の切っ先が伸びて、虎熊童子を捉えた!だがそれは、神速に達した虎熊童子が残した残像!突きを回避した虎熊童子が、ガルダの懐に飛び込む!ガルダは、槍で防御をする為に、伸ばした妖槍を縮めるが、虎熊の接近の方が速い!
「秘剣・凉音っ!」
虎熊が勝利を確信して居合斬りを放とうとしたその時!ガルダは、槍を縮ませながら廻し、手元の石突きを虎熊に向けた!
「はぁぁぁっっっっ!!」
「なにっ!?」
「切っ先側が縮む」と「石突き側が伸びる」が同時に発生して、抜刀をする寸前だった虎熊の腹に妖槍の石突きが炸裂!神速の突進を逆手に取られ、カウンターの石突きを喰らって弾き飛ばされる虎熊童子!呼吸困難に陥ったまま、屋上手摺りから投げ出された!
手摺りに駆け寄り、身を乗り出すようにして鳥銃・迦楼羅焔を構えるガルダ!虎熊童子が、墜落をしながらガルダを睨み付ける!
「ぐぅぅっっっ!クソッ!!」
伸縮自在の槍なのだから、切っ先側だけでなく石突き側も伸びる。だが、貫通力の低い石突きを伸ばしても意味が無い。その‘思い込み’を突いて、切っ先側を回避されるのを前提にして、石突き側でカウンターを仕掛けるのがガルダの作戦だった。
「狗塚の若造めっ!!」
致命傷ではないが、ダメージで体が満足に動かない状況で追い撃ちを掛けられたらマズい。虎熊童子は、闇の霧に姿を変えて上空に飛び上がり、現場から遠ざかっていく。
「逃がさん!」
空に鳥銃を向けて発砲するガルダ。しかし、闇の霧には届かず、逃走を許してしまった。
「・・・チィッ!」
あと一歩まで追い詰めながら、鬼殺しをできなかった。戦場が広い空き地だったなら、即座に追い撃ちを掛けて仕留めることができただろう。ガルダは悔しそうな仕草で変身を解除して、雅仁の姿に戻った。
「いや・・・まだ、虎熊童子を逃がしただけ。
佐波木が向かった先(優麗高)には、ヤツより格上の鬼がいる。」
気持ちを切り替えた雅仁は、階段を駆け下り、次の標的を求めて文架高から立ち去ろうとした。しかし、校庭から出た直後に振り返って校舎を見詰める。
出現した妖怪は全て倒し、虎熊童子は追い払ったが、文架高に平穏が戻ったわけではない。まだ校内には幾つもの鬼印が残っており、いつ、次の妖怪が発生をしても不思議ではない。
「俺の責務は鬼の討伐。・・・文架市の治安は、文架市の退治屋が守れば良い。」
早急に優麗高に向かいたい反面、後ろ髪を引かれる思いに駆られる。鬼印が仕掛けられていることを知りながら放置したら、きっと、あとで紅葉から「人格全否定」レベルの口撃をされるのだろう。彼女が怖いわけではないが、掴みかけている新しい繋がりを手放したくはない。燕真や紅葉と一緒に行動をするようになり、チームワークの心地良さ知った。そして、自己都合だけで行動をするのが有効ではないと認識をした。
「どうせ‘ついで’だ。」
鬼印を炙り出す為に、既に、文架高を囲む結界が張ってある。新たなる術式を加えれば、結界内の浄化はできるのだ。消耗させた霊力は、銀塊に溜めた霊力で補充すれば良い。雅仁は、「らしくない行動」と感じながら、両手で印を結び、破邪の呪文を唱える。
-優麗高の屋上-
ザムシードの懐に飛びこんだ金熊童子が、ナックルダスターを装備した拳の連打を放つ!ザムシードは一歩引いて直撃を避けつつ、裁笏ヤマを振るって牽制をして、金熊童子の足を止め、弓銃から光弾を発砲!金熊童子は素早く距離を空けて回避をする!
「ちぃっ・・・すばしっこい!」
これで何度目の同じ行動だろうか?金熊が接近して拳の連打を打ち、ザムシードが牽制して飛び道具で距離を空ける。互いに決め手を欠いたまま、既に、4~5回ほど同じ展開を繰り返していた。
金熊童子は徒手空拳で身軽ゆえに移動が速く、容赦無くザムシードの懐に飛びこんでくる。だが同時に、徒手空拳ゆえに攻撃力が低くリーチも短いので、ザムシードが半歩~一歩の後退に専念すれば、大ダメージは受けずに済む。
「何だよオマエ!逃げてばっかで面白くねーぞ、へっぽこ!」
ザムシードは、金熊童子の解りやすい挑発を受け流す。金熊童子の目的は、ザムシードに回収された『酒』メダルを奪い返すこと。ザムシードが防衛に専念をして、隙を生じさせないのが不満なのだ。
「俺は戦闘狂じゃないからな!戦いを楽しむつもりは無い!」
指摘をされた通り、防戦一方では金熊童子を倒すことはできない。だが、援軍の到着を期待して時間稼ぎをしているわけでもない。ザムシードは防衛に徹しながら、攻勢に出るタイミングを探していた。
「ああ、そうかい?だったら、オイラだけ楽しませてもらうよ!
オマエを蹂躙にしてな!」
気勢を発して突進をする金熊童子!ザムシードは気合いを込めて構え、弓銃を発砲!金熊は光弾数発を楽々と回避してザムシードの懐に飛び込んだ!
「痛っ!?」
金熊の拳は、ザムシードの体ではなく左手に炸裂!握られていた弓銃が叩き落とされる!
「にゃははっ!これでオイラを遠ざけることはできなくなったな!」
「・・・くっ!!」
ザムシードは、右手に装備した裁笏を振るって牽制をするが、金熊の左腕で受け止められてしまう!容赦無く更なる一歩を踏み込む金熊童子!ガラ空きになったザムシードの体に、ナックルダスターを装備した右拳の連打が叩き込まれる!
「うわあぁっっ!!」
悲鳴を上げて弾き飛ばされるザムシード!防御に徹したところで、やはり‘1人’では、格上の鬼幹部には対応ができない!金熊童子が追い撃ちを掛ける為に踏み込んでくる!
「俺1人では・・・な!
だが、今ここにいるのは、俺だけじゃないっ!おぼろっ、今だ!!」
マシンOBOROがザムシードの指示に応じて自走を開始!金熊童子に体当たりをする!想定外の方向から攻撃を受け、防御をできずに弾き飛ばされて床を転がる金熊童子!
「俺は、尻込みして防御に徹していたわけじゃない!
ワザと焦らして、オマエが‘俺潰し’に躍起になって、
周りが見えなくなる瞬間を待っていたんだ!」
ザムシードはバイクで現地に来たのだから、バイクが駐めてあるのは当たり前。金熊は「バイクが勝手に動く」「バイクの射程圏内に誘き寄せられている」等とは想定していなかった。
「これで形勢逆転だ!」
落ちていた弓銃を拾い上げ、金熊童子に向けて光弾を連射するザムシード!体勢を立て直せていない金熊童子に着弾をして、爆煙と悲鳴が上がる!手応えを感じたザムシードは、弓銃を強弩モードに切り替えて、金熊童子に照準を向けてエネルギーをチャージする!
「たかが退治屋如きと何を遊んでいる、金熊童子?」
突然、真横から声が発せられる。朱色の長髪に青肌で身長2mほどの男が、接近の気配を全く感じさせないまま、いつの間にかザムシードの隣に立っていた。
「えっ?」
男がザムシードに掌を翳した途端、ザムシードは全身から火花を散らせながら弾き飛ばされる!
「うわぁぁぁっっっっ!!」
ザムシードを楽々と退けると、青肌の男は、倒れている金熊童子に歩み寄り、手を貸して立ち上がらせた。
「御館様への生命力の供給はどうなった?」
「まだ途中だよ!アイツに奇襲されて、メダルを1枚奪われたんだ!」
「オマエが退治屋如きに?
・・・フン、昼寝でもしていたのか?四天王の地位が泣くぞ。」
「チゲーよ!オイラの所為じゃない!イバさんの情報収集が甘すぎるんだ!
退治屋がワープしたり、バイクが勝手に走り回るなんて、聞いてないっての!」
「そうか、私のミスか?・・・ならば、自分の尻ぬぐいをするしかあるまいな。」
立ち上がって構えるザムシード。青肌の男は名乗っていないが、ヤツが何者なのか、なんとなく解る。星熊童子や虎熊童子と対峙をした時、そして、金熊童子と交戦をした今、ザムシードは、今まで倒した妖怪とは別格と感じた。霊感や妖気の類いとは縁の無いザムシード(燕真)でも、ヤツ等の発する雰囲気や迫力で、それくらいは解る。
だが、青肌の男だけは違う。発せられる雰囲気が静かすぎて、変身前の状態で出会ったら、ヤツが人外とは認識できない。だから、隣に立たれたことすら感知できなかった。それでいて、ヤツから敵意を向けられると、星熊&虎熊&金熊以上の底知れ無さを感じる。格が違いすぎる。
「オマエが・・・茨城童子?」
青肌の男は、小さく笑みを浮かべて、ザムシードを睨み付ける。
「貴様如きに名乗る気など無いのだがな。・・・いかにも、私は茨城童子。
こうして、直接向かい合うのは初めてだな。閻魔大王の力を持つ退治屋よ。」
茨城童子の言葉は、端的に、「ザムシードが茨城童子の存在に気付く前から、ザムシードを観察していた」と告げている。文架市中に鬼印を沈めて騒ぎの原因を作り、姿を見せずに挑発を続けていたのはコイツだ。