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17-2・砂影と大武剛COO~鬼印干渉

-退治屋本社-


 現場から妖怪討伐と事件終息の報告を受けた砂影が、エレベーターに乗って上階へと向かう。


「やれやれ・・・勘平の依頼をおっちゃるわけにもいかんか。」


 同じ建物内とはいえ、支部とは違って、本部は堅物なエリートや、頑なで頑固な選民思想の持ち主だらけの‘政治色’が見え隠れするフロアなので、あまり近寄りたくはない。

 エレベーターは、複数の役員室がある9階に到着。砂影がエレベーターホールにある内線電話の受話器を持ってボタンをプッシュすると、数秒の後、受話器の向こうから女の声が聞こえる。


「東東京支部の砂影ですが、喜田代表はおっけ?」

〈面会の予約は入ってませんが。〉

「予約ちゃ入れとらん。」

〈CEOは外出中です。面会の予約は取りますか?〉

「いや、良い。出直す。」


 トップは外出中だった。砂影は受話器を置く。秘書経由でしかアポが取れない上層部の「自分達は特別」感や、数年前から代表をCEOと呼ぶ方針は、あまり好きでは無い。


「何処で何をやっとるやら?また、自己保身の政治活動でもしとるのかね?」


 砂影は、もう一度受話器を持って、今度は副代表の秘書室のボタンを押す。


「東東京支部の砂影ですが、大武副代表はおっけ?」

〈砂影さんですか?面会の予約は入ってませんが。〉

「予約ちゃ入れとらん。だが、ちょっこし話がしたい。」

〈少々お待ち下さい。〉


 受話器から保留音が鳴り、数十秒が経過をして、再び秘書の声がする。


〈十数分程度なら、大武COOは、お時間が取れるそうです。〉

「CEOやらCOOやら・・・

 私のような、年寄りには違いがよう解らんがやがね。」


 面会の許可を得られたので、砂影はCOO室へ向かう。部屋の前で副代表の秘書を務める迫天音さこ あまねに挨拶をしてCOO室へ。広い室内はブランド志向の逸品で飾られ、手前側に応接用のソファーと机があり、7階にある自分達のオフィスとは別世界。砂影は、役員階(9階)の‘物で権力を魅せる’意思が好きにはなれない。


「忙しいとこすまんぜ。少しお邪魔すっちゃ。」

「やぁ、砂影さん。貴女から赴いてくれるなんて、嬉しい限りだ。」


 奥の豪華なワークデスクでパソコンに向かっていた40代の中年が、仕事の手を止めて立ち上がり、砂影を出迎えた。彼の名は大武剛。怪士対策陰陽道組織(退治屋)の副代表をしている。顔はいかついが表情は柔和。砂影は、この部屋の権力志向なインテリアは苦手だが、政治色が渦巻く上層部において、比較的現場の意見に耳を傾けるスタンスの彼にだけには、一定の信頼を置いていた。

 身長190センチ近い中年を見上げる砂影。大武は、スキンシップを図りながら砂影を応接ソファーに招き、自身は対面側に座る。


「本社付けで私の仕事を手伝ってくれる件・・・了承してもらえたのかな?」

「いや、その件ちゃ何度も断ったはずちゃ。」

「それは残念。ならば、ご用件は?」

「文架支部の粉木勘平の依頼のことさ。副代表も聞いとるんやろ?」

「もちろん聞いてますとも。」

「いくら、上層部が、粉木の破天荒ぶりを嫌うとるさかいって、

 まさか、鬼の幹部をおっちゃるつもりでないわやちゃ?」

「他の者が、どう考えているかは存じませんが、

 私は、粉木氏の行動力は好いていますよ。」

「・・・で、どう対応するつもり?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 大武副代表は、数秒ほど黙って思案したあと、「信頼のおける砂影さんには話しておく」と枕詞を付けてから、話し始めた。


「文架市の件は、喜田CEOに考えがある。

 絶対に本部には見捨てられないメンバーを送り込む予定だ。」

「御曹司かい?」


 怪士対策陰陽道組織(退治屋)は、大日本帝国時代の内閣参与が、人外から帝都(首都)を中心とした内地(日本列島)を守る為に、非公開に立ち上げた組織であり、初代の代表には参与の血族が宛てられた。それが、現CEOの先祖になる。退治屋は個人企業や世襲制ではないが、創始以降、院政で従えられる他者で中継をしながら、代々の喜田家がトップに君臨をしていた。今の退治屋も、現代表の後任は、上層幹部が一時的にトップに収まり、数年後には‘御曹司’に引き継がれるのが暗黙の方針だ。


「さすがは砂影さん。理解力が早くて助かります。

 今現在、文架市の鬼は息を潜めた状態。

 有能な粉木氏と、鬼専属の狗塚がいれば、大きな被害は出ないでしょう。

 そして、事が起こる兆しがあれば、

 日本各地の調査に赴いている‘最も優遇されたチーム’が援軍に入ります。」

「なるほど・・・確かに安心はできるけど、こんな時まで‘政治’優先なのね。」


 砂影は全てを聞かなくても、現場の不満解消が優先ではなく政治を優先させる上層部の意向を理解をした。鬼討伐は、勲章授与レベルの最高の実績になる。首領や幹部クラスなら尚更だ。鬼退治の名門に大きい顔をさせない為に、退治屋で討伐をしたいのが心情。その名誉を、十数年後に代表になる‘御曹司’に獲得させようとしているのだ。


「粉木氏は、貴女以上に政治色を嫌がるでしょうからね。

 ギリギリまでは方針を明かせないわけです。」

「まぁ・・・上層の権力争いなんて私にはどうでも良い。

 手遅れになる前に、いっちゃん権力を持った援軍が入ると解釈して良いのね。」

「はい、そう考えて下さい。

 尤も、喜田CEOは、手遅れになるほどの大惨事は発生しないと想定しており、

 文架遠征は、御曹司に武勲を与える為・・・くらいに考えていますがね。」


 酒呑童子を封印した5枚のメダルのうちの3枚は、退治屋の本社に保管をされており、その場所は上層部の数人しか知らない。つまり、鬼の幹部達が、どう策を張り巡らせたところで、酒呑童子の完全復活は不可能。

 芽高CEOからすれば、雅仁の持つ酒呑のメダルが鬼の幹部に奪われて、中途半端な酒呑が復活をすれば、「息子の武勲と、狗塚家の追い落としが同時に叶って好都合」くらいに考えているのだ。


「早いとこ、アンタがトップに収まってくれりゃ、

 組織の縦の繋がりは、もうちょっこし整うがやろうけどね。」

「はははっ、嬉しいお言葉ですが、それは私の耳だけに留めておきますね。

 喜田CEOは、組織の為に、政権から資金を引っ張る努力をしているんですよ。」

「まぁ・・・そういうことにしとこうかね。」

「さて、良い機会なので、粉木氏の話題が出たついでに、

 私から砂影さんにお願いがあるのですが。」

「そりゃ、無理や。彼奴(粉木)は聞く耳を持たんやろう。」

「まだ、何もお願いしていないのですが・・・。」

「粉木を本部の管理職に引っ張り上げる話やろ?

 政治に染まった本部の意向など、聞くわけがない。」


 粉木勘平の優秀な才能と高い実績は、地方の一支部で留めて良いものではない。本部は再三に渡って粉木に管理職の打診をしているのだが、粉木は「現場が良い」の一点張りで、中央の招きに一切応じないのだ。


「それは残念。粉木氏と貴女が私の下に来てくれれば、心強いのですがね。」

「生憎だが、私ちゃ小難しい帝王学なんてガラでない。

 尤も、彼奴(粉木)が管理職を選ぶかどうかはともかく、

 生涯現場で終わって良い器でないってのは、アンタと同意見なんやけどね。」


 用件は済んだ。大武副代表が「援軍を送る」と言ってくれたのだから、文架市が見捨てられることは無いだろう。そろそろ、妖怪討伐に向かった田井弥壱達が戻って来るだろうから、東東京支部・妖怪討伐2課のトップとして、報告を受けつつ労をねぎらってやりたい。砂影は‘余計な理屈’で本部の権力闘争に勧誘されることを拒み、大武に一礼をして退室をした。




-文架市・文架高校-


 学校の周り数ヶ所に護符の配置が終わった。燕真に見守られた雅仁が、深く呼吸をして丹田に力を溜め、護符の1つに掌を翳す。


「オーン!結界発動!」


 雅仁が発した念に反応して、正面の護符が光を放つ(霊感ゼロの燕真には光が見えない)。学校の周りに貼られた複数の護符が、1つ目の護符の輝きに反応して光を放ち、光の筋が伸びて結ばれ、学校全体を包む結界が発動した。


「なにっ?しまったっ!!」

「どうした?何かミスったのか?」

「マズいぞ、佐波木!」

「・・・ん?なにが?」


 茨城童子は策士。そして、因縁が深い狗塚家のやり方を熟知している。文架高の十数ヶ所に施された鬼印が、結界の干渉によって表面化をする!そしてそのうちに数ヶ所には、先日の鉄鼠のように、妖怪が仕掛けられていたのだ!




-優麗高-


 本日は2時間目と4時間目に古典の授業がある。非常勤講師の伊原木は、教務室で自席に着座したまま、文架高に施した鬼印が干渉を受けたことを察知して、不敵な笑みを浮かべた。


「・・・良い頃合いだ。」


 数日前までの文架市各地への鬼印の設置は、退治屋と狗塚家の対抗意識で漠然と行っていたわけではない。無作為に施した鬼印のうち、どの程度の範囲が網羅され、どの地域から潰され、どの地域が手薄かを観察していた。


「私が本腰を入れて施した罠だ。簡単には乗り越えられぬぞ。」


 最終的には、文架市街全域の鬼印が潰されたが、鬼印潰しのスタートは山頭野川の東側から。これは、退治屋のアジトが、その地域に在ることを意味している。駅東の鬼印はテンポ良く潰されたが、駅西では若干ペースが落ちた。これは、退治屋の基本的な行動範囲が駅東なので、鬼印に気付きやすいことを意味している。

 つまり、同じ市街地でも、駅西は退治屋の目が届きにくい。だから、若い生命が集まりやすく、伊原木の行動範囲内で、且つ、退治屋が気付きにくい文架高に時間をかけて罠を作ったのだ。




-文架高内-


 木山拓馬が集中して授業を受けていた。進学校ゆえに授業の進捗ペースが早くて大変だが‘自分を見失っていた頃’に比べれば、付いて行けるようになった。窓際の席には、木山を苛めていた赤木が座っているのだが、様子がおかしい。


「ぁぁぅあぁっ・・・・」


 小さく悲鳴を上げたので、周りの生徒達が振り返り、心配をした教師が赤木を覗き込む。


「ん?どうした、赤木?」


 赤木の表情は虚ろ。腹に鬼印が浮かび、全身から闇を発せられ、栄螺の兜を纏った鎧武者=栄螺鬼が出現をする!


「カィィィィッッッッッッッッッッッ!!!」


 栄螺鬼が奇声を発した途端、子妖が撒き散らされて、数人の生徒に取り憑いた!憑かれた者達の顔が栄螺に変化をする!


「ひぃぃっっっっっっっっっ!!!」 「ばけものだぁぁっっっっっっっ!!」


 大きな悲鳴を上げる教師!状況が理解できずに怯えるクラスメイト達!妖怪経験者の木山は、他者に比べれば幾分かは、人外の存在に対して冷静でいられるが、人間の力では妖怪に敵わないので避難する以外の手段は無い!


「みんなっ!慌てずに逃げるんだ!!」


 勇気を奮い立たせた木山が、動揺するクラスメイトを牽引して廊下に避難する!だが、考えが甘かった!複数の鬼印が施された文架高内には、二口女、加牟波理入道、1つ目入道、鉄鼠等々、他の妖怪が出現をしていた!


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